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【連載】Talking of LAL「第16話 用具汚染の検出」

本記事は、和光純薬時報 Vol.62 No.3(1994年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第16話 用具汚染の検出

リムルス試験におけるプラスチック用具の使用は、エンドトキシン(LAL 活性化物質)の汚染や、エンドトキシンや試料の吸着に注意が必要です。今回は、筆者らが用いている用具のエンドトキシン汚染検出法を紹介したいと思います。

プラスチック用具等の汚染では、水や生理食塩水では抽出されないにも関わらず、アルブミン等の蛋白溶液で抽出される場合があります1)。このような汚染は、水のような試料を測定する場合には問題になりませんが、血漿等の蛋白を試料とする場合には問題になります。

そこで、筆者らは、0.1% 人血清アルブミン(HSA)溶液で用具を洗浄することにより、吸着したエンドトキシンを抽出し、これを測定する方法を開発しました。

この方法を開発するにあたり重要であった点は、エンドトキシン吸着汚染のモデル系の作成でした。エンドトキシンがプラスチックに吸着する場合があるということは経験的に理解していましたが、これを定量的に再現することは難しく、抽出効果を評価するための汚染モデル系をどのように作製するかがこの研究のポイントであったように思われます。

いろいろ検討した結果、エンドトキシン汚染のモデル系は、エンドトキシン汚染の少ないポリプロピレン製の試験管に、エンドトキシンのエタノール懸濁液を塗布し、乾燥させることで作製しました。エンドトキシンの活性はエタノールの添加や乾燥によって変化しますが、とりあえず、水による抽出ではエンドトキシンがほとんど検出できない、エンドトキシンによる吸着汚染モデル系を作成しました。

図1.各種溶媒のエンドトキシン抽出効果

作成したモデル系を用いて、水、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、トリエチルアミン(TEA)、HSA 溶液等で抽出し、これらの抽出効果を比較しました(図 1)。各抽出液は、リムルス試験に影響を与えない濃度としました。

水ではほとんど抽出できないエンドトキシンも、TEA や HSA によって効率よく抽出されることが判りました。医療用具の抽出に SDS を用いた例が報告されていますが2)、今回のモデル系では、TEA や HSA に比べて低い抽出効果を示しました。

図2.市販滅菌済プラスチックピペットのエンドトキシン汚染

さらに、市販の使い捨て滅菌済みプラスチック製ピペットについて、水、TEA、HSA による抽出を行い、そのエンドトキシン汚染度を調べてみたところ、TEA より HSA の方が、高いエンドトキシンの抽出効率を得られることが示唆されました(図 2)。

TEA によるプラスチックからのエンドトキシン抽出についても報告がありますが3)、今回我々が開発した HSA によるエンドトキシン抽出方法は、TEA による抽出より、さらに高い抽出効率が得られると考えられます。

この HSA にいおる抽出方法を用いて各種滅菌済み使い捨て用具のエンドトキシン汚染を調べたところ、本法は、ピペット、オートピペット用チップ、セラムチューブ、細胞培養用プレート等で、水による抽出より明らかに高いエンドトキシン検出率を示しました。オートピペット用チップの中には「エンドトキシンフリー」を保証したものもありましたが、HSA による抽出では、エンドトキシン汚染が検出されました。

このように、プラスチック用具のエンドトキシン汚染の中には、水による抽出で検出できないものがあり、特に蛋白等を扱う場合には、この汚染が実験に影響する場合が考えられます。我々の考案した HSA による汚染検出法は、すべての汚染について有効であるかどうかは確認されていないにしろ、通常行われている水による抽出法に比べて非常に効果的です。みなさんの実験における用具汚染の影響の回避に、この方法が少しでもお役に立てば幸いです。

参考文献

  1. 日本動物実験代替法学会第 6 回大会要旨集, p.110-111 (1992).
  2. Twohy, C. W. and Duran, A. P. : J. Parenter. Sci. Technol., 40, 287 (1986).
  3. Roslansky, P. F. et al. : J. Parenter. Sci. Technol., 45, 83 (1991).

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