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【テクニカルレポート】水試料中エストロゲンの分析

本記事は、和光純薬時報 Vol.71 No.3(2003年7月号)において、和光純薬工業 試薬研究所 吉田 貴三子が執筆したものです。

エストロゲンは外因性内分泌撹乱作用が示唆されている物質(環境ホルモン)として河川水および下水における実態調査の測定対象となっている。環境省の「外因性内分泌撹乱化学物質調査暫定マニュアル」等に定める方法には、LC/MS 法、ELISA 法、などがあるが、ぬで島等は、HPLC/ECD 法による水試料中のエストロゲン一斉分析法を報告している1)

Fig.1. 固相抽出条件
Fig.1. 固相抽出条件

今回この方法を参考に固相抽出カラムに Presep®-C RPP (short)、分析カラムに Wakopak® Navi C18-5 を用い、河川水中のエストロゲン(エストリオール、17β-エストラジオール、エストロン、エチニルエストラジオール)を一斉分析する方法について検討したので紹介する。

精製水および河川水 1000 mL に標準 1 µg、0.3 µg、0.1 µg を添加し、Presep®-C RPP (short) を使用して前処理後、アセトニトリル 3 mL で溶出し、直接 HPLC で分析した。その時の回収率を表 1 に、固相抽出条件を図 1 に示した。

Table 1. 試料水への標準添加回収率
試料水 精製水 1000 mL 河川水 1000 mL
標準添加量 1 µg 0.3 µg 0.1 µg 1 µg 0.3 µg 0.1 µg
n = 4
回収率(%)
n = 2
回収率(%)
n = 2
回収率(%)
n = 2
回収率(%)
n = 2
回収率(%)
n = 2
回収率(%)
Estriol (E3) 98.3 89.9 76.2 - - -
17β-estradiol (E2) 96.6 97.5 90.6 97.9 94.5 91.2
Ethynylestradiol (EE2) 97.9 94.7 86.0 99.9 95.8 88.8
Estron (E1) 101.6 91.7 80.6 105.2 103.4 91.5

* Estriol は不純物が重なるため測定不能。

①標準液 1 ng、②河川水 1000 mL の濃縮、③河川水 1000 mL に標準 0.3 µg を添加した場合の分析例と HPLC 条件を図 2 に示した。

Fig.2. エストロゲンの分析
Fig.2. エストロゲンの分析

河川水では、夾雑物の影響でエストリオールの検出はできなかったが、エストリオール以外の 17β-エストラジオール、エストロン、エチニルエストラジオールは、いずれも良好な分離と回収率を示しました。また、ECD(アンペロメトリック電気化学検出器)による検出は、UV 検出法に比較して実試料中の夾雑物の影響が少なく、高い検出感度が得られた。さらに高感度分析が必要な場合には、溶出液を N2 ガス気流下にて乾固後、50% アセトニトリルで再溶解したものを HPLC 分析する方法が有効であった。この場合、各標準品 0.5 ng 以下の検出も可能であった。

以上、Presep®-C RPP (short) を前処理に使用し、分析カラムに Wakopak® Navi C18-5、4.6 φ × 150 mm を用いた HPLC/ECD 法による水試料中エストロゲンの分析例を紹介した。

今回検討した HPLC/ECD 法では河川水中の夾雑物の影響でエストリオールの検出はできなかったが、精製水への標準添加回収は良好で、溶出液として、アセトニトリル以外に酢酸メチル/メタノール(5:1)も使用でき、他の特異性に優れたエストロゲン分析法(例えば ELISA 法)の前処理へ適応可能と考える。本分析例が水中エストロゲン分析の参考になれば幸いある。

Presep®-C RPP (short) は ODS と同様に逆相的な挙動を示すスチレンジビニルベンゼン-ポリメタクリレート系の親水性ポリマーを充填したカートリッジカラムで、ODS 充填剤に比較して①極性化合物の保持が大きい、②塩基性化合物の吸着が少ない、③使用可能な pH 範囲が広い、などの利点がある。本誌(和光純薬時報)Vol.70 No.1Vol.71 No.1 に使用例を紹介しているが、多方面に応用可能な固相抽出カラムである。

参考文献

  1. ぬで島智恵子、吉岡秀俊、備藤敏次、東野和雄、植田忠彦:固相抽出-電気化学検出器付きHPLC法によるビスフェノール-A、エストロゲン一斉分析法, 日本水環境学会MS技術研究委員会シンポジウム「環境ホルモン物質の測定技術と水環境の現状」,1999年9月13日

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