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【連載】Talking of LAL「第22話 添加回収試験の謎」

本記事は、和光純薬時報 Vol.64 No.1(1996年1月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第22話 添加回収試験の謎

エンドトキシン(ET)試験におけるバリデーションの中に「阻害または促進試験」があります。この試験では、いわゆる添加回収試験を行います。添加回収試験では、通常、既知量の ET を添加した試料をリムルス試験によって測定し、添加量に対する測定値の割合を回収率として求めます。

今回は、この添加回収試験の意味について考えてみたいと思います。

ET の添加回収試験とは何のために行うのでしょう。まず考えられることは、「試料中の ET の活性が正しく測定されているということを確かめるため」ということです。具体的には、「試料が共存することによる測定への影響が、許容される範囲内にあることを確かめる」と言い換えることもできるでしょう。

ここで、ET 以外の物質、例えば糖や無機物について添加回収試験を行う場合、測定対象物質は重さで表され、試料により対象物質が分解されてしまう場合以外は、対象物質の量が変化することはありません。この場合、「試料が共存することによる測定への影響」とは、「試料が反応系に与える影響」を意味していると思われます。

ところが、ET の場合はその絶対的な活性が存在しないため、話は少し複雑になります。ET の分子量は数千から 2 万程度ですが、溶液中ではミセルを形成し、その見かけの分子量は数十万から数百万になっていると言われています。1)

Fig.1 エンドトキシン添加回収試験における試料の影響

しかも、その生物活性はミセルの大きさによって変化し、リムルス試薬に対する反応性も例外ではありません。ET の測定とは、ET の活性の測定であって、ET の絶対量を測定しているのではないのです。

しかも、ET の活性が可逆的に変化する場合もあります。従って、ET の添加回収試験における「試料が共存することによる測定への影響」では、「試料が反応系に与える影響」だけでなく、「試料が ET の活性に与える影響」も考慮する必要があるのです(Fig.1)。

通常行われる ET 添加回収試験は、試料に ET を添加した後リムルス試験を行いますが、この方法は「試料が反応系に与える影響」と、「試料が ET の活性に与える影響」をあわせて測定する方法と言えるでしょう。多くの物質中の ET 測定は、この方法で問題なく測定条件が決められています。

しかし、中には試験結果が安定しないものもあります。例えば、第 10 話でお話ししたように、微量の塩化第 2 鉄は ET の活性を低下させます2)。40µM の塩化第 2 鉄について通常の ET 添加回収試験(Fig.2 の Method 1)を行うと、回収率は 13.4% でしたから、さらに希釈しないと ET の測定は行えないと判断されます。

しかし、ET の添加方法を改良して、Fig.2 の Method 2 のように実験を行うと、ET 回収率は 88.7% となりました。この結果は、塩化第 2 鉄がリムルス試薬の酵素系にはほとんど影響を与えていないが、ET の活性を 20% 以下に低下させたことを示唆しています。

Fig.2 エンドトキシン添加回収試験における従来法(Method 1)と改良法(Method 2)

さらに、もう一つ問題点があります。それは、添加する ET によって「試料が ET の活性に与える影響」が異なることです。公的な標準品や市販の ET 対照標準品には、そのほとんどに添加物が含まれています。これらの添加物は、ET の活性を安定にするために添加されています。

例えば、さきほどの塩化第 2 鉄の例で、ET にアルブミンが添加されている場合は ET 活性の低下が抑えられるのです。このことは、添加回収試験に使用する ET によって、判定が異なる可能性があるということを示唆しています。

このように、添加回収試験を行う上で 2 つの謎が浮かび上がってきました。すなわち、ET 添加回収試験において(1)試料からの影響を分類し区別する必要はないか、(2)どのような ET を使用するべきかの 2 つです。

次回は、添加回収試験で知りたいことについて考えてみたいと思います。

参考文献

  1. 丹羽允:「内毒素 -その構造と活性-」(本間遜監修), p.214, (医歯薬出版)(1983).
  2. 土谷正和:和光純薬時報, 61(1), 12 (1993).

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