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医薬品の元素不純物ガイドラインにおけるリスクアセスメント及び管理について

本記事は、株式会社住化分析センター TS本部 大阪ラボラトリー 組成解析G 西岡 利奈様に執筆いただいたものです。

1.はじめに

医薬品中の元素不純物規制は、医薬品規制調和国際会議(ICH)にて元素不純物のガイドラインが作成され、日本においては平成27年9月30日付けで「医薬品の元素不純物ガイドラインについて」(薬食審査発0930第4号)として公報された。近年では第十七改正日本薬局方第二追補(令和元年6月28日 厚生労働省告示第49号)に、元素不純物ガイドラインの内容を踏まえた参考情報として「製剤中の元素不純物の管理」が収載されている。また、第十七改正で「2.66 元素不純物試験法」が収載されたが、第十八改正では管理規程と試験法を統合した形での収載が予定されており、今後ますます元素不純物の評価・管理が重要視されている。

本稿では、元素不純物の管理において重要な製品のリスクアセスメントとその手順について概略を解説する。また、リスクアセスメントのアプローチの一例を紹介する。

2.リスクアセスメント

元素不純物のリスクアセスメントのプロセスは次のステップで実施する。

特定

製剤の製造過程での元素不純物の混入源の特定

評価

製剤中の元素不純物につき実測値又は予測値と許容一日暴露量(PDE:permitted daily exposure)との比較により評価

まとめ

リスクアセスメントの結果を要約して文書化し、管理方法が十分であるか確認
さらに元素不純物を低減する追加の管理方法の必要性を検討

これらのステップを繰り返し行うことで、適切な管理方法の設定を行う。

2.1.元素不純物の混入源の特定

製剤の製造過程において考えるべき元素不純物の潜在的な混入源には以下のものがある。

  • 原薬、水又は添加剤に意図的には添加されないが、それらの中に存在する可能性がある元素不純物
  • 製造設備・器具から原薬及び/又は製剤中に移行する可能性がある元素不純物
  • 容器施栓系から原薬及び製剤中に溶出する可能性がある元素不純物

図1は、製剤の製造過程の構成要素を示したものである。リスクアセスメントでは、それぞれの要素における潜在的な混入源からの元素不純物量が製剤の元素不純物の総量に影響することを考慮しなければならない。

図 1 元素不純物の潜在的な混入源

リスクアセスメントに着手する一般的なアプローチ手法として、各構成成分の元素不純物に着目する「構成成分アプローチ」と最終製品の元素不純物に着目する「製剤アプローチ」がある。各アプローチで考慮する混入源などを図2にまとめた。これらの混入源についてそれぞれ公表文献や供給者からの情報又は試験結果など、根拠となるデータを入手し影響の大きいものを特定する。

余談ではあるが、元素不純物ガイドラインには、より理解を深めるために10のモジュール(0~9)で構成されるQ3DトレーニングマテリアルがICHによりWeb上で公開されている。アプローチ方法についてはQ3Dトレーニングマテリアル モジュール5で詳細に紹介されているので、参考にしていただきたい。

(参考)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構Webページ:
https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0043.html?print

図 2 リスクアセスメントのアプローチ

2.2.元素不純物の評価(PDE値と許容濃度との間の換算)

混入源の特定と対象元素が決定できれば、製剤中の個々の元素不純物に関して、実測値又は予測値と設定PDE 値を比較し評価を実施する。PDE値を実測値又は予測値と比較するために許容濃度へ換算する手法として、元素不純物ガイドラインではオプション1、2a、2b及び3の4つの手法が記載されている。構成成分アプローチではオプション1、2a及び2bから適した方法を選択し、製剤アプローチでは最終製品の評価になるため、オプション3を用いて換算する。(評価に関する詳細は元素不純物ガイドライン7項を参照)

2.3.元素不純物の管理

元素不純物ガイドラインでは管理閾値はPDE値の30%と定義されている。元素不純物量が管理閾値を下回る場合、追加の管理は必要とされていない。管理閾値を超える可能性があるがPDE値より低い場合には、元素不純物量の低減対策を実施する必要がある。対策の一例としては、上流管理、構成成分や容器施栓系の再選択、規格の設定などがある。

PDE値を超える場合にはさらなる対策を実施する必要がある。ただし、対策が技術的に実現不可能な場合に、Q3Dトレーニングマテリアル モジュール6で示すような、特定の状況下では妥当性を説明することで容認される可能性がある。

図 3 元素不純物の管理

3.スクリーニングによる一次評価

リスクアセスメントの方法は多々あるが、製剤アプローチで実施する場合、まずは製剤中の元素不純物量に関するデータを収集し、アセスメントが必要な元素を決定する。元素不純物量に関する十分なデータがない場合などは、製剤中の元素不純物量を実際に測定する必要がある。ICHQ3Dの対象24元素について設定した許容濃度の管理閾値との比較分析(スクリーニング分析)を実施することは対象元素を絞り込む有効な手段の一つである。

ここでは注射剤を例に、仮想のスクリーニング分析例を紹介する。

投与経路:注射
最大一日投与量:2 mL
対象元素:クラス1、2A、2B及び3(24元素)
オプション:3
定量限界:PDE値から求めた許容濃度の10%又はそれ以下
使用装置:ICP質量分析計

表1にスクリーニング分析で実施した対象元素の一部について許容濃度、管理閾値、定量限界及び結果を示す。

表 1 スクリーニング分析の許容濃度、管理閾値、定量限界及び結果

許容濃度はオプション3にて注射剤のPDE値を最大一日投与量(2 mL)で除し換算した。この例では定量限界を、許容濃度の10%又はそれ以下としている。Crの様な許容濃度が他より特に高い元素は、測定時の定量限界を他の元素に合わせて、より低い濃度で評価することで、元素不純物の混入を確認することができる。また、例に示す通り対象元素ごとに許容濃度が異なるため、標準溶液の調液にはICHQ3D用に濃度設定された市販の混合標準溶液を使用することで希釈作業が削減され精度よく調液することが容易になるだろう。

この例ではスクリーニングの結果、Pb及びSbで管理閾値以上に検出されているため、混入起源の特定、上流管理、場合によっては本剤での規格の設定など追加の管理が必要になるだろう。注射剤では製剤中の元素不純物のみならず、製剤の有効期間中に包材成分の溶出のリスクが懸念される。容器施栓系からの混入リスクは安定性試験や苛酷条件での試験データ、又は部材メーカーからの情報収集などによって別途評価する必要がある。

4.まとめ

リスクアセスメントの内容、アプローチの一例として注射剤を例にスクリーニングによる一次評価方法を紹介した。元素不純物のリスクアセスメントは、投与経路や構成成分などで様々なケースがあり、それぞれの状況にあわせた対応が必要となる。元素不純物ガイドラインのみならず詳細についてICHが提示しているQ3Dトレーニングマテリアル、海外の添加剤の文献データなど様々な情報を参考にすることを推奨する。今後国内においては既存の市販製剤についても適用拡大が予定されているため、リスクアセスメント及び管理のための計画的な取り組みが求められるだろう。

関連品目

製品コード 品名
138-18801 多元素混合標準液 ICH Q3D 経口剤用
135-18811 多元素混合標準液 ICH Q3D 注射剤用
133-18851 水銀標準液 ICH Q3D用 (Hg 30)

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