【テクニカルレポート】特定悪臭物質アルデヒド類 6 種及び多成分測定に対応した HPLC 用カラムの開発
本記事は、和光純薬時報 Vol.87 No.3(2019年7月号)において、富士フイルム和光純薬 ケミカル開発本部 機能性材料研究所 久保田 守が執筆したものです。
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悪臭は、人に不快感や嫌悪感を与えるにおいの総称で、騒音や振動と共に感覚公害と呼ばれる公害の一種です。悪臭防止法では、特定悪臭物質(現在22物質)及び臭気指数により排出制限を設けています。アルデヒド類は物質により刺激的かつ焦げたにおいを放ち、6物質が特定悪臭物質に指定されています1, 2)。同法においてこの6物質(表1)の測定には、ガスクロマトグラフ(GC)法、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法が定められていますが、2018年9月に高速液体クロマトグラフ(HPLC)法が追加されました3)。
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表1.特定悪臭物質のアルデヒド類(6物質)
1.アセトアルデヒド
2.プロピオンアルデヒド
3.ノルマルブチルアルデヒド
4.イソブチルアルデヒド
5.ノルマルバレルアルデヒド
6.イソバレルアルデヒド
GC法、GC/MS法に対するHPLC法のメリットは、試料前処理から測定までの操作として、
- イオン交換固相抽出カラムが不要
- 最終溶出液の溶媒転用が不要
の2点が挙げられます。悪臭防止法のHPLC法では分析カラムとして充てん剤の種類、カラムサイズが指定されておらず、6物質の定量に適した分離性能を有するものと記載されています。また、HPLCメーカーから提供されている多くのアプリケーションでは逆相系ODS(C18)カラムなどが用いられていますが、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒドの分離が難しいとされています。
当社のHPLC用カラムWakopak® Wakosil®-DNPHは、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)で誘導体化されたアルデヒド類を分離分析する専用カラムです。本品の特長、仕様を以下に示します。
特長
- カラム充てん剤は粒子径5 µm球状シリカゲルにトリアコンチル基を化学修飾
- DNPH-n-ブチルアルデヒド、DNPH-iso-ブチルアルデヒドの分離に有効
- 特定悪臭物質6種以外のアルデヒド類多成分一斉分析にも対応...16種の一斉分析が可能*
(*16種にDNPH-アセトンを含みます)
仕様
- カラムサイズ4.6 x 250 mm(D)、(W)
- 特注カラムサイズの対応も可能
- 2種類の専用溶離液A、Bを用いたグラジエント溶出による測定
専用溶離液A、Bはベースラインの変動、測定を妨害するピークの溶出を抑える効果があります。
Wakopak® Wakosil®-DNPHカラムによる6種、16種混合標準液の測定例を図1と2に、16種の再現性(n = 10)と検出限界を表2に示します。検量線は16種混合標準液の希釈液を10 µL注入することで、各成分0~50 ngの範囲で相関係数(r) 0.999の直線が得られました。また、Wakopak® Wakosil®-DNPHカラムを用いたグラジエント溶出法に対するODSカラムでのイソクラティック溶出法の相関について、屋外大気中の①ホルムアルデヒド、②アセトアルデヒドの捕集、DNPH誘導体化で、①r = 0.999、②r = 0.99の良好な相関性を示しました。
HPLC Conditions
Column : Wakopak® Wakosil®-DNPH, Column size : 4.6 mmφ x 250 mm, Instruments : Agilent 1100, Eluent : A ; Wakosil®-DNPH Eluent A, B ; Wakosil®-DNPH Eluent B, Gradient : High Press, gradient mode, 0-16min. B 10%, 16-35min. B 10-90%, 35-40min. B 90%, Flow Rate : 0.8 mL/min at 35℃, Detector : UV360nm, Inj Vol. : 10 µL, Sample : -2,4-DNPH / 1. Acetaldehyde, 2. Propionaldehyde, 3. iso-Butyraldehyde, 4. n-Butyraldehyde, 5. iso-Valeraldehyde. 6. n-Valeraldehyde (each 0.625 µg/mL as aldehyde)
HPLC Conditions
Column : Wakopak® Wakosil®-DNPH, Column size : 4.6 mmφ x 250 mm, Instruments : Agilent 1100, Eluent : A ; Wakosil®-DNPH Eluent A, B ; Wakosil®-DNPH Eluent B, Gradient : High Press, gradient mode, 0-16min. B 10%, 16-35min. B 10-90%, 35-40min. B 90%, Flow Rate : 0.8 mL/min at 35℃, Detector : UV360nm, Inj Vol. : 10 µL, Sample : -2,4-DNPH / 1. Formaldehyde, 2. Acetaldehyde, 3. Propionaldehyde, 4. Acrolein, 5. Acetone, 6. iso-Butyraldehyde, 7. n-Butyraldehyde, 8. Crotonaldehyde, 9. iso-Valeraldehyde, 10. n-Valeraldehyde, 11. Benzaldehyde, 12. Hexaldehyde, 13. o-Tolualdehyde, 14. m-Tolualdehyde, 15. p-Tolualdehyde, 16. 2,5-Dimethylbenzaldehyde (each 0.625 µg/mL as aldehyde, ketone)
表2.Wakopak® Wakosil®-DNPHカラムによる16種の再現性と検出限界
成分名 | 変動係数(CV%*、n = 10) | 検出限界 | ||
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0.781 ng** | 6.250 ng** | 50.000 ng** | pg(S/N = 2) | |
1. Formaldehyde | 1.5 | 1.3 | 1.5 | 7.0 |
2. Acetaldehyde | 1.8 | 1.2 | 1.5 | 9.8 |
3. Propionaldehyde | 1.5 | 1.4 | 1.6 | 15.6 |
4. Acrolein | 1.2 | 1.2 | 1.7 | 14.2 |
5. Acetone | 1.6 | 1.5 | 1.4 | 16.3 |
6. iso-Butyraldehyde | 2.1 | 1.8 | 1.6 | 19.5 |
7. n-Butyraldehyde | 1.9 | 1.3 | 1.5 | 18.6 |
8. Crotonaldehyde | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 13.9 |
9. iso-Valeraldehyde | 2.1 | 1.2 | 1.7 | 17.0 |
10. n-Valeraldehyde | 1.5 | 1.7 | 1.6 | 19.5 |
11. Benzaldehyde | 1.6 | 1.2 | 1.5 | 15.0 |
12. Hexaldehyde | 2.1 | 1.1 | 1.5 | 15.6 |
13. o-Tolualdehyde | 1.3 | 1.4 | 1.8 | 17.7 |
14. m-Tolualdehyde | 1.9 | 1.4 | 2.0 | 21.7 |
15. p-Tolualdehyde | 1.8 | 1.3 | 1.6 | 21.2 |
16. 2,5-Dimethylbenzaldehyde | 1.8 | 1.1 | 1.6 | 17.0 |
* :CV%はピーク面積値より算出。測定条件は16種混合標準液のクロマトグラムに同じ。
**:16種混合標準液を希釈した試料10 µL中の各成分含有量。
当社では上記のほかアルデヒド類測定用としまして、DNPH-アルデヒド類混合標準液(6種、16種)、アルデヒドの捕集及びDNPH誘導体化が可能な試料捕集管Presep®-C DNPH、Presep®-C DNPH (Short)、オゾン除去管Presep®-C オゾンスクラバー、試料捕集管からの抽出用溶媒(アセトニトリル)を取り揃えており、アルデヒド類を簡便に測定することができます。
また、アルデヒド類を精度良く測定するための捕集からHPLC測定までの操作ポイントを和光純薬時報のバックナンバーに収載しています。こちらも併せてご活用下さい。
バックナンバー
- 和光純薬時報, Vol. 66, No. 4 (1998).
- 和光純薬時報, Vol. 71, No. 4 (2003).
- 和光純薬時報, Vol. 73, No. 1 (2005).
- 和光純薬時報, Vol. 73, No. 2 (2005).
参考資料
- 環境庁告示, 昭和47年5月30日, 9号, 特定悪臭物質の測定の方法 (1972).
- 悪臭規制のあらまし:鳥取県生活環境部水・大気環境課, 平成27年7月 (2015).
- 環境省告示, 平成30年9月21日, 78号, 別表第4 (2018).