【連載】ライフサイエンス論文レビュー 「第1回 細胞外小胞 -PSアフィニティー法を用いた論文とそれにまつわる物語-」
本記事は、富士フイルム和光純薬 バイオ製品推進部 寅嶋 崇 が執筆したものです。
本企画のコンセプトは、当社の製品説明ではなく、当社製品を使用してくださった全世界の研究員や企業の方を検索し、当社製品をどのような部分で使用したのか、その結果によってどのようなエビデンスを構築したのかをあくまで第三者として分析したコラムです。
細胞外小胞 (EV)、それは脂質二重膜に包まれた直径100 μmほどの小胞。1946年のChargaffらの論文でその存在が明らかになってから、はや80年が経過した。細胞からの伝達分子として注目を浴びたEVは、タンパク質はもちろん、核酸 (DNA、RNA) 、脂質、糖鎖、代謝物を含み、ヒトを蝕むがんを含む種々の疾患マーカー (バイオマーカー) の探索に貢献するとされた。発見から当面はEV自体の構造や素性解明にフォーカスが当たった。しかしながら、EVの定義が長らく曖昧であったため、今もなお、様々な精製法が存在しており、各手法で得られたEVの特徴は決して均一なものとは言えない。
今回は論文レビュー連載【第1回】を記念して、EVと共に歩いてきた富士フイルム和光純薬と、当社のEV単離・精製キット「MagCapture™ Exosome Isolation Kit Ver.2」に焦点を当てて、物語を作っていきたいと思う。ここでは、「巷のエビデンス」である論文を分析し、EV精製法および当社キットの特徴や魅力について触れていきたい。
さて、冒頭で話したようにEVには複数の精製法が乱立する中で、「どの精製法が一番優れているのか?」と考えてしまうことが、研究者の常だろう。これと同じ考えを持ち、各精製法の実施と比較をし、優れた点についてエビデンスを示した論文がある。まずはその論文を紹介する。
Patilら1)の論文は、EVの精製法のみに着目した面白い論文である。巷に溢れる9種類のEV精製法を自らが実践し、総合的に評価している。サイズ均一性、純度、プロテオーム解析結果を評価内容として。遠心分離、サイズ、沈殿、静電相互作用、アフィニティーに基づく5カテゴリの精製原理に分類できると定義している。

結果としては、同じ原理に属する方法でもEVの性能は同等ではないと結論付けている。超遠心法 (UC) および密度勾配超遠心法 (DGUC) は超遠心装置を必要とする精製法。特にDGUCにおいては密度勾配の層を作る技術的な難しさもあり、処理能力が低く時間がかかるようだ。UCは高い収率を生み出すが純度はやや劣り、DGUCは、純度は高いものの収率は低いとのこと。サイズ排除クロマトグラフィー (SEC)およびポリマー沈澱法は特殊な装置を必要とせず実施が容易な精製法。純度よりは高いEV収率に特徴があるようだ。静電相互作用を利用した精製法、ならびにアフィニティー法の1種であるPSアフィニティー法 (MagCapture™ Exosome Isolation Kit Ver.2) は、すべての評価項目のパフォーマンスを得るためのEV濃縮法として非常に効果があると言われている。特に、少量の血漿サンプルに対するハイスループット処理に適しており、バイオマーカー探索の研究に適合していると謳われている。
EVを用いた中枢神経系およびがんのバイオマーカー探索については、それぞれシヌクレイノパチー、膀胱がんをターゲットにした論文を紹介する。
中枢神経系の研究者からはMikiら2)が異常なα-Synuclein (α-Syn) が多系統萎縮症 (MSA) において、EVにどのような変化を引き起こすかを述べている論文を紹介する。MSAモデルマウスのトランスクリプトーム実験から、α-Synと相互作用する可能性のあるシナプトタグミン13 (SYT13) を含む10種類の小胞輸送関連タンパク質を同定している。そのうち、SYT13のみがMSAおよびレビー小体型認知症 (DLB) にそれぞれ大きく関連のあるグリア細胞とレビー小体に取り込まれたと報告している。特にSYT13は、内在性α-Synよりもりん酸化α-Synとの結合が強く、さらにSYT1および可溶性N-エチルマレイミド感受性付着タンパク質受容体 (SNARE) と結合し、複合体を形成したとのこと。

神経変性疾患研究のモデルで使用される「SH-SY5Y細胞」を用いた実験では、SYT13がSYT1およびSNAREと関連し、放出するEVの量を阻害すると報告している。この現象は、EVの放出が減少するMSAやDLBが示す症状と一致していた。
これら一連の実験で得られたEV関連のエビデンスは、Phosphatidylserine (PS) 陽性のEVを精製することができる、当社キット (MagCapture™ Exosome Isolation Kit Ver.2) を用いており、CD9、CD81、CD63といった既知のEVマーカーで定量することによってMSAやDLBにSYT13が密接に関係していることを証明した結果である。

がん研究者からはTomiyamaら3)がEVから膀胱がんマーカーの探索を試みた論文を紹介する。膀胱がん患者の尿由来EVをサンプルに、ショットガンプロテオミクス (タンデムマスタグ標識 [TMT] 液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析[LC-MS/MS]) により1,960種類のマーカー候補タンパク質を同定し、この中からさらに17種類の細胞質性EV由来タンパク質に絞り込んでいる。患者および非患者を対象にした研究では、それぞれ50名弱のEVサンプルからターゲットプロテオミクス (選択反応モニタリング/マルチプル反応モニタリング) を実施し、膀胱がんにおいて優位に上昇するターゲットとして10種類まで精選している。結果的には、EIF2S1を最も優れた診断性能を示す標的マーカーとして選定し、膀胱がん細胞株 (T24および5637) を用いたEIF2S1のノックダウン実験で細胞増殖が著しく抑制されたことを報告している。細胞株からのEVの精製には当社キット (MagCapture™ Exosome Isolation Kit Ver.2) を用い、EIF2S1が発現していることを事前に確認している。同じようなスキームで、当社キットが今後のがんマーカーの探索に使われる可能性が大いにあるだろう。
最後に、EVを用いた解析をおこなう際の処理方法について述べた論文を紹介したい。臓器、組織、細胞から分泌されたEVは血管を辿って末梢まで循環する。このことを利用して、末梢から低侵襲で採取できる血液や尿などのサンプルを少量用いて、プロテオミクスやRNAの解析に繋げる試みがなされている。村岡ら4)は、末梢サンプルである血漿および血清から当社キット (MagCapture™ Exosome Isolation Kit Ver.2) を用いてEVを精製し、EVに特異的なタンパク質4,079種を同定している。さらに血液からは健常人から得られるEVの間で共通に存在する組織特異的なタンパク質群を同定したと報告している。このような実験からエビデンスを得るためには、少量かつ多検体のサンプルを取り扱う必要がある。村岡ら5)はこの課題についても論点に上げている。特に、磁性粒子の処理ができるロボット (AutoPure-Mini、Maxwell®、KingFisher™) はプロテオミクス解析を効率化するため、マルチウェルで複数かつ少量の臨床サンプルからのEVの自動処理を可能にするとのこと。この自動化されたプロテオミクス用のEV試料調製法は、大規模コホートのバイオマーカーの開発や検証、日常検査のためのサンプル処理に非常に有用であるといえるだろう。ここにおいてもPSアフィニティー法を応用した当社キット (MagCapture™ Exosome Isolation Kit Ver.2) の活躍が大いに期待できる。
参考文献
- Suresh, P. S. and Zhang, Q.: Proteome Res., 24 (6), 2956 (2025).
Comprehensive Comparison of Methods for Isolation of Extracellular Vesicles from Human Plasma - Miki, Y. et al.: Neurodegener., 14 (1), 32 (2025).
Abnormal α-synuclein binds to synaptotagmin 13, impairing extracellular vesicle release in synucleinopathies - Tomiyama, E. et al.: Cancer Med., 14 (10), e70964 (2025).
EIF2S1 in Urinary Extracellular Vesicles as a Novel Diagnostic Marker for Bladder Cancer - Muraoka, S. et al.: iScience, 25 (4), 104012 (2022).
Comprehensive proteomic profiling of plasma and serum phosphatidylserine-positive extracellular vesicles reveals tissue-specific proteins - Muraoka, S. et al.: ACS Omega, 7 (45), 41472 (2022).
Automated Proteomics Sample Preparation of Phosphatidylserine-Positive Extracellular Vesicles from Human Body Fluids
