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【テクニカルレポート】LC-MS法による農薬の一斉分析

本記事は、和光純薬時報 Vol.72 No.2(2004年4月号)において、和光純薬工業 試薬研究所 吉田 貴三子が執筆したものです。

水道水質管理の充実・強化が求められている状況で、水質検査の合理的、効率的なあり方について検討がなされており、水道水質基準の見直しが全面的に行われている。厚生労働省より平成15年5月30日に水道水質基準に関する省令が公布され、平成16年4月1日から施行されることとなった。

農薬に関しては、地域、時期による格差が大きく、毒性評価値の1/10に相当する値を超えて検出される可能性が少ないことから水質基準項目から削除され、水質管理目標設定項目に位置付けられた。101種の農薬が目標値とともに示され、精度の高い測定方法としてGC法が削除されGC-MS法(73農薬)へ移行し、新たにLC-MS法(30農薬)が採用された。筆者らは、新たに採用されたLC-MS法による一斉分析の対象となっている2 8種類の農薬について、分析条件の検討と固相抽出カラムによる農薬の回収率を確認したので紹介する。

分析用カラムにはWakopak® MS-Agri-9GT(2.0φ x 150 mm)を、移動相にはLC-MSに対応可能な酢酸緩衝液とアセトニトリルを使用してグラジエント分析法による一斉分析条件を設定した。その時の分析条件とクロマトグラムを図1~3に示したが、ポジティブモードにより22種類の農薬を、ネガティブモードにより14種類の農薬を検出した。MSによる検出は、UV検出に比べて保持時間が重なる農薬も効率よく検出可能であり、分析時間はカラムの安定化も含めて30分となった。

Fig. 1.
Fig. 1.
Fig. 2.
Fig. 2.
Fig. 3.
Fig. 3.

Fig. 1~3

  • HPLC Conditions

    Column:Wakopak® MS-Agri-9GT, 2.0 mmφ x 150 mm
    Eluent:A) 10mmol/L CH3COONH4 (pH3.7)
    B) CH3CN
    0-20min, B 20→80%
    Flow rate:0.2 mL/min. at 40℃
    Detection:(1) UV230 nm
    (2) TIC Full : ESI (+)
    (3) TIC Full : ESI (-)
    Inj. vol.:2 µL

  • MS Conditions

    LCQ(Thermo Quest): ESI (+), ESI (-)
    Sheath Gas Flow(arb): 80
    Aux Gas Flow(arb): 10
    Spray Voltage(kV): 5
    Capillary Twmp(℃): 240
    Capillary Voltage(V): -46
    Tube Lens Offset(V): -20

農薬の回収率の確認は、固相抽出カラムにPresep®-C Agri(short)を使用して、公定法に準拠した方法で検討した。操作方法を図4に、結果を表1に示したが、UVで検出されないダラポンを除く27種類の農薬のうち25種類について良好な回収率が得られた。

Fig.4. 農薬回収率測定 固相抽出条件
Fig.4. 農薬回収率測定 固相抽出条件

 

表1. 農薬回収率測定結果
  • 101種
    農薬No.
    品名 回収率(%)
    1 チウラム 94.3
    17 ベンタゾン 99.3
    18 カルボフラン(カルボスルファン代謝物) 103.1
    19 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D) 99.1
    20 トリクロピル 101.2
    26 イプロジオン 98.9
    28 オキシン銅 96.2
    36 アシュラム 99.6
    42 ベンスリド(SAP) 96.7
    45 メコプロップ(MCPP) 99.9
    48 カルバリル(NAC) 101.0
    48 カルバリル2 99.3
    55 チオファネートメチル 96.9
    58 カルプロパミド 101.8
    64 ダラポン 未確認
  • 101種
    農薬No.
    品名 回収率(%)
    68 ジウロン(DCMU) 100.4
    74 メソミル 50.8(85.2)
    75 ベノミル 91.0
    76 ベンフラカルブ 分解(85.5)
    82 プロベナゾール 98.6
    84 ダイムロン 99.6
    86 ベンスルフロンメチル 100.7
    87 トリシクラゾール 99.1
    90 アゾキシストロビン 99.6
    94 ハロスルフロンメチル 99.1
    95 フラザスルフロン 98.6
    96 チオジカルブ 99.6
    98 シデュロン 99.7
    98 シデュロン2 98.3
    75+ メチル-2-ベンツイミダゾールカルバメート(MBC) 97.5
  • ベンフラカルブ:酸で分解し易い、pH 3.5の検水から回収できない。カルボフラン他に変化する
    (   )内はpH未調整の検水からの回収率
  • メソミル:(  )内の回収率はPresep®-Agri使用時
  • ベノミル:分解し易い、MBCに変化する
  • シデュロン:2ピーク検出
  • カルバリル、ベンタゾン:条件によってピーク分割する
  • ダラポン:UV検出不可、回収率未確認

酸で分解し易いベンフラカルブはpH3.5に調整した検水からは回収できなかったが、pH未調整の検水からは回収可能であった。また、極性の高いメソミルは固相への保持が弱く回収率は約50%となった。

以上、Wakopak®MS-Agri-9 GTとPresep®-C Agri (short)を使用したLC-MS法への適応性を紹介した。今後さらなる至適条件の検討は必要であるが、LC-MS分析の前処理と分離にWakopak® MS-Agri-9GTとPresep®-C Agri (short)が有効なツールであると考える。本稿が何かのお役に立てれば幸いである。


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