siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

除菌/抗菌/殺菌/滅菌の違い

除菌、抗菌、殺菌、滅菌は、日常生活で汎用される言葉ですが、それぞれの菌に対する作用や強さの違いについては、非常に誤解が多いのではないでしょうか。これらの表現について、どのような法規定があるのか、日本と世界の規定に差異はあるのか?などを言葉の定義を交えながら概説します。

①日本における"除菌/抗菌/殺菌/滅菌"の表記について

除菌/抗菌/殺菌/滅菌は、菌(細菌やウィルス)に対して、どの様な作用をするか(菌を殺すか殺さないか)とその強さ(定義しない場合も含め)によって定義されています。菌を殺す場合は、殺菌や滅菌の表現が使われ、殺さない場合は、抗菌や除菌の表現が使われます。

①-1. 菌を殺す場合

滅菌は、すべての菌(細菌やウィルス)を除去することであり、日本薬局方によって、「微生物の生存する確率が100万分の1以下になること」と定義されています。

殺菌は、菌を死滅させることであり、その対象や程度には言及していません。つまり、有効性を保証した言葉ではないということになります。殺菌は薬事法の対象となる医薬品(消毒薬など)や医薬部外品(薬用石鹸など)に使用できますが、雑貨品(洗剤や漂白剤など)には使用できません。

以上の定義から、菌を殺す場合の強弱は、滅菌 > 殺菌となります。

①-2. 菌を殺さない場合

除菌は、食品衛生法によって、「ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去することをいう」と定義されています。様々な分野の商品で除菌を訴求する商品が出てきていますが、洗剤・石けん公正取引協議会においては、除菌を「物理的、化学的または生物学的作用などにより、対象物から増殖可能な細菌の数(生菌数)を有効数減少させること」と定義しています。また、この細菌の定義としてカビや酵母などの真菌類は除外されます。

抗菌は、経済産業省によって、「菌(細菌のみ)の繁殖を防止する」と定義されています。またJIS規格で規定されている試験法では、抗菌仕様製品の対象として、カビ、黒ずみ、ぬめりは含まれません。つまり抗菌は、菌の繁殖を阻止する概念のみが定義されており、対象や程度はこの定義に含まれないことになります。

以上の定義から菌を殺さない場合の強弱は、除菌 > 抗菌となります。

殺菌と除菌は方法に違いがありますが、程度の定義が示されていないため、その順序は
滅菌 > 殺菌 ≒ 除菌 > 抗菌
となります。

以上の内容を表にすると、菌に対する作用と程度の両方が定義されているのは滅菌、作用のみ定義されているのが、殺菌、除菌、抗菌という関係になります。

①-1菌を殺す ①-2 菌を殺さない
滅菌:菌を完全に殺す
*微生物の生存する確率が100万分の1以下になること
抗菌:菌の増殖を防ぐ
*経済産業省の定義
殺菌:菌をある程度殺す
*医薬品、医薬部外品でのみ使用可能
除菌:菌をある程度取り除く
*食品衛生法、洗剤・石けん公正取引協議会が定義

通常の感覚では、除菌と聞くと菌がいなくなるイメージですが、程度の強弱に定義はありません。また、滅菌は人体に対しては、人体の細胞ごと殺さなければならないため、器具などの菌に対して用いる用語となっています。

②世界(US、EU、ASEAN等)での除菌/抗菌/殺菌/滅菌の表記の方法、違いについて

次に、日本以外における除菌/抗菌/殺菌/滅菌の定義について概説します。

滅菌は、国際規格ISO 11139で、「ある物について微生物が存在しない状態にする検証された工程」と定義されています。英語ではsterilizationと表現され、「増殖性を持つあらゆる微生物を完全に殺滅、除去を実現することを言う」とされています。微生物の生存する確率が100万分の1以下という条件は日本と同様であり、国際的な定義となっています。

殺菌は、「病原性や有害性のある微生物(細菌、ウィルス)を死滅させる操作」とされています。滅菌と殺菌の違いは、具体的な程度が定義されていません。これは日本と同じ状況です。殺菌の方法としては、「電磁波、温度、圧力、薬理作用などで細菌類の組織を破壊または、生存が不可能な環境を生成する」とされ、感染症予防、食品鮮度の維持が目的となっています。

除菌は、「対象物から菌を減少させること」と定義されていますが、程度や対象を含まない部分では日本の定義と共通です。

抗菌は、「菌の増殖を阻止すること」と定義されており対象や程度を含みません。日本における細菌に限られた表現という点に違いが見られます。
日本での抗菌規格が基本になり、ISO 22196においてプラスチックおよびその他の抗菌試験方法が定義されています。

以上の点から世界におけるこれらの定義を、菌に対する処置の強弱関係を示すと、
滅菌 >>> 殺菌 ≒ 除菌 > 抗菌
となり、日本の定義の関係と世界の定義の関係は同様になります。特に抗菌加工商品は1970年代に日本で始まり、菌に対する定義は日本が世界の標準的な定義を先行しているというのが現状です。

参考サイト
関連製品

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。