動脈管開存症治療薬・イブプロフェンの投与が超低出生体重児の腎機能に与える影響
本記事は、シミックホールディングス株式会社が編集する「News Letter L-FABP No.16」をもとに掲載しています。
目的
胎児期には肺での呼吸をせず、肺動脈から大動脈へと肺をバイパスして血液を送る仕組みが存在している。この役割を果たす動脈管は通常は生後数週間で完全に閉じてしまうが、特に早産児の場合などはその発達が未熟であるために開いたままの状態となることがある。この状態は動脈管開存症 (PDA)と呼ばれ、心不全や肺出血、腎機能不全、壊死性腸炎などが生じる原因となるおそれがある。
胎児期において動脈管が開いているのは胎児循環の低酸素分圧と高プロスタグランジン濃度によるもので、出生後の肺呼吸により酸素分圧が上昇し、またプロスタグランジン濃度が減少することで動脈管は次第に閉じられる。未熟児では特にプロスタグランジン代謝が十分でないなどの理由からこの仕組みが働かずPDAとなることが多く、そのため未熟児のPDAに対する治療法としてシクロオキシゲナーゼ (COX) 阻害剤を用いることが一般的である。これまで日本国内ではインドメタシン (IND) が未熟児PDA治療薬として使用されているが、一方でINDは尿量の減少や、腎障害を含む深刻な副作用を引き起こすおそれがあることが指摘されていた。
このような状況のなか、2018年6月より未熟児PDAの治療薬としてINDに加え、イブプロフェンL-リシン (IBU) 注射薬が治療薬として承認され、治療の選択肢が広がっている。なおIBUは海外ではこれまで既に実臨床での使用実績があり、IBUがINDと同程度の有効性を持つこと、また脳や腎などの臓器血流を減少させることがなく、血清クレアチニンの上昇や乏尿といった腎への副作用が少ないことが報告されている (N Engl J Med、 2000、 Van Overmeire B.ら)。本論文ではこの新たに国内において承認されたIBUについて、PDA治療を行った超低出生体重児 (ELBWI) の腎機能に与える影響を尿中L-FABPなどを用いて評価した。
対象と方法
ELBWI25例のうちINDまたはIBUによるPDA治療を行った16例を対象とし、IND群10例 (男児6例、在胎週数26週、出生体重731g) とIBU群6例 (男児3例、在胎週数24.5週、出生体重621g) に分けて後方視的に比較した。血清Cr、尿量、また尿中バイオマーカーとしてL-FABPとβ2MGなどを測定し、PDA閉鎖率および手術率を主要評価項目、頭蓋内出血・消化管合併症・院内死亡率・COX阻害剤の投与頻度を副次評価項目とした。
結果
在胎週数や出生体重、各治療薬投与前の血清CrやBUNなどの背景データにおいて、IND投与群とIBU投与群の間で有意差が認められるものはなかった。また処置後に主要評価項目であるPDAの閉鎖率、手術率に有意差は認めなかった。安全性に関して、副次評価項目である頭蓋内出血を両群に1例ずつ認めたが、いずれの群も0%であった消化管合併症と院内死亡率、またCOX阻害剤の投与頻度と共に有意差は認めなかった。
両群で投与後の12時間毎の血清CrやBUNに差は認めなかったが、尿量の変化では投与から24-36時間後においてIBU投与群の方がIND投与群よりも有意に多い結果を示した (4.5% vs.-40%、p=0.003)。また投与後の尿中バイオマーカーの比較ではβ2MGに差を認めなかったが、L-FABPはIBU投与群の方がIND投与群よりも有意に低値であった (1357g/g・Cr vs. 733g/g・Cr、p=0.009[表1])。新生児修正 KDIGO 診断基準では投与後12時間の間にのみ両群間で有意差が認められたもののそれ以降は差がみられず、また血清ビリルビンや血糖値、血小板数にも同様に両群間での有意差は認められなかった。
[表1] INDおよびIBU投与群における腎疾患関連指標の変化
評価項目 | IND投与群 | IBU投与群 | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|
血清クレアチニン (mg/dL) | 投与前 | 0.85 (0.42-0.93) | 0.92 (0.52-1.11) | 0.28 | |
投与開始から | 0.76 (0.70-0.96) | 1.00 (0.83-1.19) | 0.07 | ||
0.90 (0.71-1.64) | 1.14 (0.87-1.29) | 0.52 | |||
1.03 (0.82-1.43) | 1.17 (0.87-1.44) | 0.66 | |||
BUN (mg/dL) | 投与前 | 12.5 (9.5-14.5) | 15 (8.5-34.5) | 0.52 | |
投与後 | 27.5 (19.5-52.5) | 23 (19.8-48.8) | 0.83 | ||
尿中β2ミクログロブリン (mg/g Cr) | 投与開始から7日後 | 1,344 (1,158-1,999) | 1,009 (351-3,167) | 0.91 | |
尿中L-FABP (g/g Cr) | 投与開始から7日後 | 1,357 (1,015-1,749) | 733 (399-890) | 0.009 | |
新生児修正 KDIGO 診断基準 | |||||
ステージ0 (非AKI) | 4 (40) | 6 (100) | 0.03 | ||
ステージ1以上 | 6 (60) | 0 (0) | |||
ステージ0 (非AKI) | 8 (80) | 5 (83) | 0.69 | ||
ステージ1以上 | 2 (20) | 1 (17) | |||
ステージ0 (非AKI) | 8 (80) | 5 (83) | 0.69 | ||
ステージ1以上 | 2 (20) | 1 (17) |
結論
ELBWIのPDA治療において、IBU投与はIND投与と同程度の有効性を示し、さらにIBUは尿量や尿中L-FABPの測定値からINDよりも腎傷害を生じる可能性が低いことが示唆された。以上の結果より日本国内であらたに承認されたIBUは、海外での未熟児PDA治療薬としての臨床使用実績に加え、ELBWIのPDA治療に対する新しい選択薬に充分なり得ると考えられた。
出典
The influence on renal function of ibuprofen treatment for patent ductus arteriosus in extremely low birthweight infants.
Pediatr Int. 2020 Feb;62(2):193-199.
Nishizaki N., Matsuda A., Yoneyama T., Watanabe A., Obinata K., Shimizu T.