【テクニカルレポート】Wakopak®を使用したパーフルオロ化合物のLC/MS/MS 分析
本記事は、和光純薬時報 Vol.75 No.4(2007年10月号)において、和光純薬工業 試薬研究所 吉田 貴三子が執筆したものです。
パーフルオロ化したふっ素化合物であるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、パーフルオロオクタン酸(PFOA)は、耐熱性、耐薬品性、耐候性など優れた性質を有するため用途が広く、家庭用品、建材、半導体など、さまざまな工業製品に広く使用されてきました。
これらは化学的に非常に安定で分解しにくく、水溶性、不揮発性で水環境に移行しやすい性質があります。近年、野生生物や人への蓄積が進んでいること、広く環境中に残留していることが明らかになり、地球環境汚染の要監視項目として注目されています。製造量や使用量が削減されていく傾向にありますが、環境への残留性が高いことから継続的に環境動態に関する調査・研究が推進されています。国内においても、分析法の開発、環境汚染について全国規模での調査の実施、河川水などの実態調査結果が報告されています1-3)。
PFOA、PFOSの微量分析は、前処理した試料をLC/MS/MSで分析する測定法が有効な手段となっています。今回、岩手県環境保健研究センターの斉藤先生らの研究報告3)を参考にして、PFOA、PFOSに加えて炭素数6~12のパーフルオロカルボン酸及び炭素数4、6のパーフルオロスルホン酸を含めた10成分の一斉分離をWakopak® Navi C18-5、2.0 x 150mmを使用し、グラジエント溶出法により検討したので紹介します。
パーフルオロ化合物の分析に際し、溶離液に使用する有機溶媒として、メタノールを用いた場合とアセトニトリルを使用した場合の分離を比較したところ、メタノールではC7-acidとC6-sulfonic acid、C9-acidとPFOSの分離が不十分であり、アセトニトリルを選択しました。その時の分析条件とクロマトグラムを図1に示しました。
Peak No. | Sample Name | R.T. (min.) |
MRM Q1/Q3 |
---|---|---|---|
1 | PFCs (C6-acid) | 4.3 | 312.9/268.6 amu |
2 | PFCs (C4-sulfonic acid) | 4.7 | 298.8/79.6 amu |
3 | PFCs (C7-acid) | 6.1 | 362.8/318.7 amu |
4 | PFOA (C8-acid) | 8.0 | 412.9/368.9 amu |
5 | PFCs (C6-sulfonic acid) | 8.6 | 398.8/79.6 amu |
6 | PFCs (C9-acid) | 9.8 | 462.7/418.8 amu |
7 | PFCs (C10-acid) | 11.6 | 512.9/469.0 amu |
8 | PFOS (C8-sulfonic acid) | 12.4 | 498.8/79.6 amu |
9 | PFCs (C11-acid) | 13.4 | 562.9/519.0 amu |
10 | PFCs (C12-acid) | 15.1 | 612.9/568.9 amu |
HPLC conditions
Column : Wakopak® Navi C18-5, 2.0Φ x 150mm
Eluent : A) 10 mmol/L CH3COONH4 in H2O
B) CH3CN
Gradient : 0-25min B conc. 35-90%,
25-30min B conc. 90%,
30-35min B conc. 90-35%,
35-40min B conc. 35%
Flow rate : 0.2 mL/min at 40℃
Injection vol. : 5 µL
各成分の保持時間の再現性は、CV値0~0.6%(n=12)、MS-MRM検出感度の再現性は、CV値 2.2~8.3% (n=3、注入量25 pg)と良好な結果が得られ、検出限界は、感度の低いC6-acid、C12-acidで0.5 pg(S/N=5)、他の成分で0.5 pg(S/N=10以上)の結果となりました。また、PFOSとPFOAの定量範囲は、注入量1~90 pgにおいて良好な検量関係が得られました(図2参照)。
MS conditions
Curtain Gas(CUR) : 10
Collision Gas(CAD) : 5
IonSpray voltage(IS) : -4500
Temperature(TEM) : 400
Ion source Gas1(Gas1) : 80
Ion source Gas2(Gas2) : 70
以上、Wakopak® Navi C18-5、2.0 x 150mmを用いたグラジエント溶出-LC/MS/MS法によるパーフルオロ化合物の分析例を紹介しました。今後、実試料への適応性を検討したいと考えています。
PFOS、PFOAの湖水・河川水・海水など環境水中からの濃縮に、当社の固相抽出カートリッジカラムPresep®-C Agri(Short)を使用した前処理法3)が報告されていますので参考にしていただければ幸いです。
参考文献
- 「有機フッ素化合物等POPs様汚染物質の発生源評価・対策並びに汚染実態解明のための基盤技術開発に関する研究」(平成15 ~ 17年度),(独)国立環境研究所特別研究報告.
- (独)産業技術総合研究所:"残留性有機フッ素化合物による環境汚染の現状と課題",「化学物質と環境」,(エコケミストリー研究会),83(2007.5).
- 岩手県環境保健研究センター:" 環境水・底質・生物中のペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の分析",「化学物質環境実態調査におけるLC/MS を用いた化学物質の分析法とその解説」(平成18年3月),環境省.