【テクニカルレポート】新規発光試薬イムノスター® ゼータの開発
本記事は、和光純薬時報 Vol.80 No.3(2012年7月号)において、和光純薬工業株式会社 ライフサイエンス研究所 平安 一成が執筆したものです。
はじめに
当社は、2009 年にウエスタンブロット用高感度発光試薬イムノスター® LD(コードNo. 290-69904 など)を商品化させていただきました。この試薬は、発光基質としてルミノール誘導体である L-012(8-Amino-5-chloro-7-phenylpyrido [3,4-d] pyridazine-1,4-(2H , 3H) dione Sodium Salt)を使っています。
L-012 は、ルミノールと比べて発光シグナルが強く優れた特性を持っています(図1)。そのため、イムノスター® LD も従来のウエスタンブロット用発光試薬に比べて強い発光シグナルを示す特長を持っているのですが、そのシグナルが強すぎるため抗体濃度が至適条件に合っていないときバックグラウンドが非常に高くなって使いにくくなる一面がありました。
そこで、今回、基質として同じ L-012 を使いながら、検出感度や発光シグナルをイムノスター® LD よりも抑えたイムノスター® ゼータ(コードNo. 295-72404 など)を新たに開発しました。
イムノスター® ゼータの特長- 1
中感度発光で使い易い
ウエスタンブロット用発光試薬は、対象に合わせて最適な検出感度や適度な発光シグナルの試薬を選んで使うことが通例です。当社では、長らく愛用されている低感度タイプのイムノスター® 試薬(コードNo. 295-55201 など)もあり、今回新たに上市しました「イムノスター® ゼータ」と、この低感度タイプの「イムノスター® 試薬」及び高感度タイプ「イムノスター® LD」、さらに比較対象として A 社で "感度=フェムトグラム中域" と表示されている「発光試薬 A」及び "感度=フェムトグラム中域~低域" と表示されている「発光試薬 B」を比較してみました。
イムノスター® ゼータは、フェムトグラム中域と感度表示される「発光試薬 A」やイムノスター® 試薬よりもシグナル強度が強く、短時間の露光で鮮明な画像が得られます(図2)。
さらに、フェムトグラム中域~低域と感度表示される「発光試薬 B」とはほぼ同等の感度やシグナル強度を有しており、イムノスター® LD よりも検出感度は低いですが、その分バックグラウンドが低く抑えられていることがわかります(図3)。
このようにイムノスター® ゼータは、低感度のイムノスター® 試薬、高感度のイムノスター® LD の間、中感度の発光試薬と位置づけられます。
イムノスター® ゼータの特長- 2
長時間発光持続
イムノスター® ゼータの最大の特長は、その発光シグナルの持続時間の長さにあります。A 社の「発光試薬 A」「発光試薬 B」とイムノスター® ゼータの発光シグナルの持続性を比較してみました。
ウエスタンブロットで初発の露光結果と、1 時間経過した後、2 時間経過した後に初発と同じ条件で露光した結果について、各々の試薬間で比較してみたところ、初発は「発光試薬 A」より強く、「発光試薬 B」とはほぼ同等のシグナル強度を示していますが、時間の経過と共にイムノスター® ゼータとこれらの発光試薬では違いが生じてきています(図4)。
試料とした FLAG-BAP(20ng)の発光シグナルを LAS4000 で解析すると、「発光試薬 A」は急激に発光力が低下して、1 時間後は初発の約 12%、2 時間後は初発の約 5%、「発光試薬 B」の1 時間後は初発の約 40%、2 時間後は初発の約 25% までシグナル強度が減衰してくるのに対して、イムノスター® ゼータの場合は、1 時間経過後は約 88%、2 時間経過後でも約 77% の減衰でとどまっており、発光持続性の高さがわかります(図5)。
まとめ
新規発光試薬イムノスター® ゼータは、高感度発光試薬イムノスター® LD よりもシグナル強度を抑えバックグラウンドノイズが低く使いやすい商品となっています。当社の発光試薬シリーズの中では中感度タイプと位置づけられ、フェムトグラム中域~低域と感度表示される A 社の発光試薬と同等の検出感度やシグナル強度を持っていますが、その試薬が時間経過と共に早くシグナルが減衰していくのに対して、イムノスター® ゼータは高い発光持続性を示しすぐにシグナルが低下することがありません。その結果、あわてずに露光のやり直しなどができるという利点もあります。
ウエスタンブロット発光検出を日常行っている研究者の方々に本試薬に興味を抱いていただき、研究の一助になれば幸いです。