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【連載】エンドトキシン便り「第8話 各種注射用医薬品のエンドトキシン試験における「簡便法用測定キット(リムルス ES-Ⅱ プラス CS テストワコー)」の使用例」

本記事は、和光純薬工業 試薬化成品事業部開発第一本部 ライフサイエンス研究所 高須賀 禎浩が執筆したものです。

はじめに

注射用水に対するエンドトキシン試験の実施は、エンドトキシンが持っている生理活性のため薬局方(局方)で規定されております。日米欧の三薬局方で調和されたエンドトキシン試験法は、非常に洗練された試験方法です。しかし、測定に手間がかかるなどデメリットも存在しています。

弊社は 2015 年 10 月に簡便法用測定キット「リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコー」を発売いたしました。エンドトキシン便り第 7 話でも述べましたように、本キットはライセート試薬として ES-Ⅱ シングルを採用しております。さらに、注射用水やサンプルで溶解するだけで陽性コントロールや陽性製品コントロールを調製できる低含量 CSE、および検量線データが記載された検量線シートで構成されております。

簡便性を追求するために添付検量線を使用しているため、日本薬局方のエンドトキシン試験には準拠していませんが、簡便かつ迅速な測定が必要な PET(Positron emission tomography: ポジトロン断層法)1)や再生医療の分野2)での使用例が報告されています。

局方準拠が必要でない医薬品製造の中間試験や原料の受け入れ試験などへの応用を目指し、筆者らは 2016 年 9 月に開催された第 43 回日本防菌防黴年次大会において「エンドトキシン簡便測定試薬キットを用いた各種薬剤の測定検討」と題して発表を行いました。

今回はその内容の一部をご紹介させていただきます。

注射用医薬品におけるエンドトキシン測定

第十七改正日本薬局方(平成 28 年 3 月 7 日厚生労働省告示 64 号)3.1 注射剤(5)(i) には「皮内, 皮下および筋肉内投与のみに用いるものを除き, 別に規定するもののほか, エンドトキシン試験法 <4.01> に適合する。」とあるため、注射用医薬品にはエンドトキシンの測定が求められています。

この規定は最終製品についての記載ですが、多くの製薬メーカーでは、局方に準拠して中間検査や原料の受け入れ検査を行っているものと思われます。

筆者らは局方エンドトキシン試験法のバリデーションの考え方を基本としつつ、エンドトキシンを簡便に測定できる「リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコー」を開発しました。

リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコーの特徴

この試薬の特徴は

①製造元(和光純薬)が検量線を提供(添付検量線)しているため、各施設で検量線を測定する必要がありません。

②添付検量線を使用しているために局方には準拠しませんが、局方のバリデーションの考え方を踏襲しているため、局方と同等の信頼性のある測定値が得られます。

③ライセート試薬は従来法でも用いられている ES-Ⅱ シングルを使用し、良好な再現性を実現しました。

④サンプルで溶解しただけで PC(陽性コントロール)や PPC(陽性製品コントロール)が調製可能な低含量 CSE を使用しているため、エンドトキシンの希釈系列を作製する手間が省けます。

⑤トキシノメーターは従来機種(ET-6000, ET-5000)でも使用できますので、現在ご使用の機器でもご使用できます。また、従来機種(ET-6000)より価格を抑えたプラス CS 専用機(ET-Mini)でも使用できます。

このような特徴によって局法準拠法では約 40 分かかっていた準備が、5 分程度まで短縮可能となりました。

局方準拠法と簡便法キットの比較を表 1 に示しました。

表 1. 局方準拠法と簡便法キットの比較
局方準拠法(ES-Ⅱ シングル) 簡便法試薬キット(プラス CS)
希釈系列の作成 必要 不要
準備時間 約 40 分 約 5 分
日本薬局方 準拠 準拠していない
必要本数(1 検体測定時) 12 本
NC、検量線 3 濃度、検体、PPC; 各×2
4 本
PC×1、PPC×1、検体×2

第 43 回日本防菌防黴年次大会における発表データ

医薬品製造の中間試験や原料の受け入れ試験で重要な性能である、①試薬の基礎的性能、②各種薬剤の反応干渉因子試験の局方準拠法との比較を行いました。

①試薬(リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコー)の基本性能

試薬の性能として検量線、真度および精度(同時再現性、日差再現性)を確認しました。

●保存検量線
各エンドトキシン濃度を n=2 で測定した検量線を計 3 回繰り返し作成し、相関係数を求めました。

表 2. 検量線

|r|0.9999

Tg(min)
1 回目 2 回目 3 回目
NC >60.0 >60.0 >60.0
>60.0 >60.0 >60.0
0.01 EU/mL 34.8 34.2 34.2
34.0 35.0 34.6
0.1 EU/mL 16.8 16.8 16.8
17.0 16.8 17.0
1 EU/mL 9.6 9.6 9.6
9.4 9.6 9.6

相関係数の絶対値が 0.9999 と良好な直線性を示しました。

●真度および精度(同時再現性、日差再現性)
測定範囲の上限、下限および中央値のエンドトキシン標準品を n=8 で測定し同時再現性を求めました。

表 3. 同時再現性
エンドトキシン測定値(EU/mL)
# 0.01 EU/mL 標準品 0.1 EU/mL 標準品 1 EU/mL 標準品
1 0.00965 0.1019 1.015
2 0.01025 0.1019 1.125
3 0.01008 0.1019 0.958
4 0.00971 0.0977 0.947
5 0.00954 0.1019 0.998
6 0.00997 0.0977 1.057
7 0.01015 0.1019 1.001
8 0.01004 0.1065 0.988
Mean 0.00992 0.1014 1.011
CV(%) 2.6 2.8 5.6

0.1 EU/mL のエンドトキシン標準品を 10 日間に渡って測定し、日差再現性を求めました。

表 4. 日差再現性
エンドトキシン測定値(EU/mL)
mean 0.107
SD 0.0033
CV 3.10%
Min 0.093
Max 0.113

測定範囲の上限、下限および中央値において測定値は使用した標準品と一致したことから真度が高い測定系であり、さらに同時再現性、日差再現性で良好な CV 値を示したことから精度が高い測定系であることが明らかになりました。

②各種薬剤の反応干渉因子試験

NaCl、グルコース、加熱ヒト血清アルブミンは各濃度の反応干渉因子試験(図 1)、その他の代表的な注射用薬剤は試薬濃度を考慮した濃度で反応干渉因子(図 2)を行いました。

図1.NaCl、グルコース、加熱ヒト血清アルブミン各濃度の反応干渉因子試験
図2.各種注射用薬剤の影響

●NaCl、グルコース加熱ヒト血清アルブミンの反応干渉因子試験

NaCl、グルコース、加熱ヒト血清アルブミンの各濃度において日局準拠法(ES-Ⅱ シングル)と簡便法試薬キット(ES-Ⅱ プラス CS)で反応干渉因子試験を行い両方の比較を行いました。

検体の影響の受け方は簡便法試薬キットと局方準拠法でほぼ同等であることから、局方準拠法と同一の希釈倍率で測定が可能でした。

●その他の代表的な注射用薬剤の反応干渉因子試験

日局準拠(ES-Ⅱ シングル)と簡便法試薬キット(ES-Ⅱ プラス CS)を用いて 15 種類の注射用薬剤の反応干渉因子試験の比較を行いました。

一般的な注射用薬剤の反応干渉因子試験を行った結果、日局準拠法と簡便法試薬キットは同サンプル濃度で阻害促進の影響を受けず測定が可能でした。簡便法試薬キットは日局準拠法と同様の薬剤濃度で測定できることが示されました。

まとめ

リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコーは、真度、精度の高い測定が可能であり、さらに日局準拠法(ES-Ⅱ シングル)と薬剤の影響は同等でありました。

以上のことから、局方に準拠しない測定方法ですが、簡便法用測定キットであるリムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコーは各種注射用医薬品の中間検査や原料の受け入れ検査などの分野において、エンドトキシンの簡便かつ迅速な測定法として有用であると考えております。

参考文献

  1. 第 55 回日本核医学会、大阪、2015 年 11 月、脇厚生他、「エンドトキシン簡便法 3 法の信頼性の検討」
  2. 第 15 回日本再生医療学会、大阪、2016 年 3 月、大河原弘達他、「エンドトキシン測定簡便法システムの再生医療分野での応用の可能性」

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