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【連載】エンドトキシン便り「第10話 エンドトキシン試験の誤差」

本記事は、富士フイルム和光純薬株式会社 試薬化成品事業部 ライフサイエンス開発本部 ライフサイエンス研究所 高須賀 禎浩が執筆したものです。

はじめに

エンドトキシン試験の精度管理の基本は薬局方に定められたバリデーション(下の囲みをご参照ください)に準拠することです。しかし、バリデーションの要件は満たしていても、試験結果に問題となる誤差が生じることがあります。

本稿では、主に光学的定量法を用いたエンドトキシン試験において、誤差をどのように管理し、低減するかについて、考察します。

薬局方エンドトキシン試験におけるバリデーションの要件

予備試験として

(1)エンドトキシン標準品を測定して、試験条件が適切であることを確認する。※1
 試験条件とは→試薬の性能、使用器具、操作者の技術など

(2)エンドトキシンを添加した試料を測定し、試料が測定に影響しないことを確認する。※2
 影響した場合は試料を希釈するなどで影響を取り除く。ただし希釈倍数はMVD(最大有効希釈倍数)以下。

日常試験として

(3)毎回、(1)と(2)を確認しながら測定する。

※1:ゲル化法では、エンドポイントが0.5 λ-2 λ、光学的定量法では、検量線の相関係数の絶対値が0.980以上

※2:ゲル化法では、エンドポイントが0.5 λ-2 λ、光学的定量法では、添加エンドトキシンの回収率が50-200 %

偶然誤差と系統誤差

誤差は、偶然誤差と系統誤差に分けられます(表1)。

表1 誤差の定義の要約
偶然誤差 系統誤差
精密さに影響する 正確さに影響する
連内*1の精密さが繰り返し性 真値への近さ
連間*2の精密さが再現性
不確定誤差ともいう 確定誤差ともいう

*1:within-run *2:between-run  参考文献1)より引用

偶然誤差は、少なくできるが、除くことはできません。一方、系統誤差は原因を除くことで、ゼロにすることも可能です。

エンドトキシン試験の系統誤差

エンドトキシン試験で系統誤差が発生する代表的な要因としては、以下のようなものが挙げられます。

①反応温度の差(装置間差や試験環境の違いで生じる)
②ピペット(秤量器具)の誤差
③操作者の操作上の癖(一例として、サンプルとライセート試液を混合してから、測定装置にかけるまでの時間の違い)

しかし、光学的定量法の場合は、毎回の測定で内部標準(エンドトキシン標準品による検量線)を測定し、それとの対比で定量値を求めるため、上記要因の①と③は、実際にはほとんどの場合問題になりません。②に関しては、希釈系列の作成方法が、標準品と試料で同一ではないため、系統誤差の原因となります。特にエンドトキシン試験では標準品の希釈系列作製時に段階希釈を繰り返すため、わずかな容量差でも最終的に増幅され、下図に示すように無視できない差になってきます。

段階希釈における誤差の発生

標準品希釈系列調製時の希釈倍数が大きいため、希釈誤差が大きくなりがち。

例えば、105倍の希釈を行った場合、ピペットの容量が
 5%少ないと→(0.95)5 = 0.774倍
 3%少ないと→(0.97)5 = 0.859倍
 1%少ないと→(0.99)5 = 0.951倍

→ピペットの校正は充分に実施すること。

また、真値からの誤差ということではありませんが、試料の測定値の変動という観点では、生物由来の試薬を用いるエンドトキシン試験に特有の問題として、ライセート試薬のロット差が挙げられます。すなわち、試料中のエンドトキシンの標準エンドトキシンに対する相対活性は、同じライセート試薬でもロット毎に多少変動します。

例えば、図1 にES-Ⅱシングル、ES-Ⅱマルチ、HS-J マルチといったライセート試薬において、日本薬局方エンドトキシン標準品(JP-RSE)と米国薬局方エンドトキシン標準品(USP-RSE)の間の相対活性をそれぞれ6 ロットで比較したデータを示しました。いずれのライセート試薬を使用しても、ロット毎にJP-RSE/USP-RSE の比に最大20%程度の変動があることがわかります。

図1 各種ライセート試薬におけるUSP-RSEとJP-RSEの表示EU値の実測比
図1 各種ライセート試薬におけるUSP-RSEとJP-RSEの表示EU値の実測比

このように、エンドトキシン標品間の相対活性は厳密には同じ値にはなりません。すなわち、適切に誤差を管理した条件で測定していても、ライセート試薬のロットが変わった際に、検量線作製に用いたエンドトキシンと試料中のエンドトキシンの相対活性は変わるということです。従って、エンドトキシン測定値にはこの程度の変動があることを想定しておかなくてはなりません。

エンドトキシン試験の偶然誤差

偶然誤差は、装置、操作者、試薬の種類等により影響を受けます。図2に弊社でリムルスES-Ⅱシングルテストワコーとトキシノメーターを用いて、エンドトキシン溶液の濃度を測定した時の繰り返し性(連内の精密さ、同時再現性)を示します。

測定値(エンドトキシン濃度値)のCV値は3.9%となりました。測定値が正規分布するのであれば、平均値±3SD(0.0597~0.0757 EU/mL)の範囲に99.7%の測定値が入ることになります。

  • エンドトキシン試験の偶然誤差
  • n数 32
    平均 0.0677 EU/mL
    SD 0.00266 EU/mL
    CV 3.9 %

弊社でのES-Ⅱシングルを用いた測定での平均的なCV値が4%程度であると仮定すれば、2つの繰り返しの測定値が3SDの2倍、すなわち 3 x 2 x 4% = 24%以上離れるのはめったにない事象です。

弊社では測定値を棄却すべきばらつきの程度を特に規定していません。その理由は、偶然誤差の程度は施設や測定者ごとに異なると考えるからです。しかし、このように自施設における測定者ごとの通常の同時再現性の程度を把握しておけば、例えば2つの繰り返しの測定値が25%以上離れた場合、測定値の信頼性を疑うといった対応をとることが可能です。

ただし、CV値は測定する濃度によって影響を受けることには注意が必要です。(例えばトキシノメーター法では低濃度と高濃度でそれぞれCV値が大きくなる傾向があります)

まとめ

エンドトキシン試験のばらつきには、精密さに影響する偶然誤差と正確さ(真値への近さ)に影響する系統誤差に分けられます。また、エンドトキシン試験に特有なライセート試薬のロット差という問題もあり、それぞれの誤差の特性に応じて対応することが重要です。

参考文献

  1. データのとり方とまとめ方 分析化学のための統計学
    J. C. Miller / J. N. Miller 著 宗森 信 訳(1991年) 共立出版株式会社

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