【総説】再生医療における迅速無菌試験法 その選択と課題
本記事は、和光純薬時報 Vol.94 No.1(2026年1月号)において、
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 次世代創薬創生センター 松山 晃文 様に執筆いただいたものです。
1 はじめに
再生医療等安全性確保法下において、再生医療提供に起因する敗血症発症も報告されている。これは、適切な検体を用いた適切なタイミングでの適切な無菌性が担保されていない可能性を示唆する。そこで本稿では、無菌性を投与前に担保すべく実施する迅速無菌試験に焦点を当てるべく議論することとした。まず、無菌性担保の核心をなす微生物検出法の原理を分類、各々の(微生物)無菌試験法の特徴と射程とする検査について比較する。次いで迅速無菌試験法選択にかかる考え方を議論し、最後に細胞加工物の迅速無菌試験に求められる残された技術的課題について述べることとする。
2 微生物検出法の分類とその応用
細菌の検出は、その増殖能を利用した増殖依存的試験法と増殖非依存的試験法に大別され、概ね増殖非依存的試験が迅速に試験成績を与えるため、迅速無菌試験の原理として採用されることが多い。検出原理としては、内因性蛍光物質を直接検出する方法と、蛍光物質あるいは蛍光物質へと微生物が変換しうる基質を添加する方法がある。増殖依存的試験法には、増殖により産生される二酸化炭素や酢酸やアルコールを含む低分子化合物など化学的副産物を検出する手法がある。増殖非依存的試験法には、ラマン分光法や菌体表面の散乱光を検出するミー散乱法があり、微生物特異的なDNAを検出する核酸検出法、微生物特異的な内因性非蛍光物質を検出する方法がある。微生物の増殖・非増殖を問わず、微生物検出手技・測定原理の切り口から整理したものが表1「微生物検出法の分類」である。
| 試験法 | 検出原理 | 微生物検出への応用 |
|---|---|---|
| 増殖依存的試験法 | 内因性蛍光物質 | 固相サイトメトリー フローサイトメトリー 生物発光法・蛍光法 |
| 外来性蛍光物質 | 固相サイトメトリー フローサイトメトリー |
|
| 化学的副産生物 | インピーダンス法 ガス測定法 |
|
| 目視 | マイクロコロニー法 | |
| 増殖非依存的試験法 | 内因性蛍光物質 | 固相サイトメトリー フローサイトメトリー |
| 外来性蛍光物質 | 固相サイトメトリー フローサイトメトリー 生物発光法・蛍光法 |
|
| ラマン分光法 | 固相サイトメトリー フローサイトメトリー |
|
| ミー散乱法 | フローサイトメトリー | |
| 核酸検出法 | 核酸増幅法 | |
| 内因性非蛍光物質 | 脂肪酸分析法 赤外吸収スペクトル測定法 質量分析法 |
表1.微生物検出法の分類
3 迅速無菌試験法の実際
3.1 核酸増幅法
菌が有する特異的遺伝子配列をターゲットに核酸増幅し、検出することを原理としている。一般的には細菌のDNAのうち、細菌に特異的な16Sあるいは23S rRNAのDNA(ribosomal DNA/rDNA)配列を検出する。rDNAは細菌あたり〜100copiesあるとされており、感度のみならず迅速性や手技の簡易さからも、他原理による微生物検出法に優位性がある。しかしながら、死菌のrDNA配列も検出してしまうため偽陽性が高いという課題があった。RNAの分解性の高さから困難とされてきたrRNAを検出し無菌試験に適用しうる製品も上市された。死菌rDNAによる偽陽性が低減され、簡易な手技で感度特異度を確保することとなった。
3.2 フローサイトメトリー(FCM)法
液体に混在する細菌などを生菌染色し、液相にて検出することを原理とする。菌数を直接計数することが可能で、微生物の増殖を必要としないため、迅速な試験を実施できる。現在一般的なFCM法の検出感度は100~1000cfu/mL程度のため、培養後検体でなければ無菌試験への利用は難しいとされてきた。1cfu/mL以下を感度とするFCM法/技術が開発されれば、再生医療への展開が期待できよう。多くのFCM機器は0.5μmを検出閾値としており、特にPseudomonas aeruginosa のような小さい細菌(径0.35μm程度)が測定できない。加えて、細菌染色剤の非特異性に配慮する必要もある。
3.3 生物発光法・蛍光法
抗生剤などの影響はなく全菌種に対応できるが、細胞などの夾雑物で偽陽性となる。数秒~数分で試験が可能であるものの、主に気体における生菌検出を目的としているため、無菌操作室のリアルタイムモニタリングに活用されている。菌が検出された際に、菌種同定可能な装置も市販されている。環境中の細菌は低温・貧栄養・薬剤の影響で、大部分がVBNC(viable but non-culturable:生きているが増殖できない)状態だとされており、実際、培地を使用したエアーサンプラーよりも菌数結果が高く出る。VBNC細菌も陽性になるため、培地法との整合性が取れないとの課題もある。
3.4 固相サイトメトリー法
液体に混在する細菌をフィルター濾過にて捕捉し、生菌染色にて可視化することを原理とする。培養が不要のため数時間で試験結果が得られ、滅菌して出荷できない再生医療においては有用である。増殖抑制物質の影響を無視でき、菌数測定と無菌試験の迅速測定が定量的かつ定性的に可能である。しかしながら、フィルターの目詰まりや、多くの細菌染色剤に細胞/細胞外小胞染色性があることに配慮する必要がある。
3.5 ガス測定法
生菌の培養時に排出するCO2などのガスの増加速度を測定し、菌の増殖を検出することを原理としている。測定には3日以上を要するため、迅速法としての適用には限界がある。操作手順が簡易であるものの、抗生物質等の影響が想定される場合には、抗生剤吸着ビーズの入ったボトルの利用が推奨される。
3.6 マイクロコロニー法
サンプルを濾過し、濾過したフィルターを培地専用カセットに搭載、培養後に染色して検出する。製薬用水の無菌検査として設計された歴史的背景があるため、好気培養のみを射程に入れていた。この無菌検査法を再生医療での無菌検査に流用する場合、10cfu/100mL以下の実証は感度として非常に高い。
3.7 インピーダンス法
細菌の増殖に伴うインピーダンス(電気抵抗)の変化を測定し、生菌かつ培養可能な微生物を検出することを原理としている。インピーダンスは検体の組成によりばらつくため、前もってサンプルごとに検量線を作成する必要がある。菌数測定(定量)に用いる場合、検量線を作成しなければならないので煩雑である。
3.8 脂肪酸分析法
培養後のコロニーから脂質を抽出し、それをGC-MSにて測定、結果をデータベースと比較して菌種を同定することを原理とする。前処理が非常に煩雑であり、供試菌量がmg単位と多量に必要であることから、菌数測定にも無菌試験にも活用できない。
3.9 赤外吸収スペクトル測定法
培養後のコロニーを供試し、異物分析に用いられるFT-IRにて測定する非破壊的検査である。機器として市販されているものはない。
3.10 免疫学的手法
蛍光検出であるため迅速検出は可能であり、夾雑物の影響を無視できるものの、定量・定性の観点から菌数測定・無菌試験に用いられることはない。一方、多数の菌が存在する中から、特定の菌種を検出する際には最適である。
3.11 質量分析法
培養後のコロニーを供試し、測定そのものは迅速測定可能。コロニーをトリプシン処理し、TOF-MSにてprotein profilingを測定、データベースにて当該コロニーの菌種を同定する。操作が非常に簡単でランニングコストは数十円であるが、測定機器自体が非常に高価である。無菌試験としての利用は困難で菌数測定もほぼ不可能である。一方、菌種同定法としては信頼性が高い。
| 検体の種類 | 主要成分 | 核酸増幅法 | FCM | 生物発光・蛍光法 | 固相サイトメトリー |
|---|---|---|---|---|---|
| 最終培養液 | 細胞 培地成分 debris |
死菌 rDNA 持込 | 細胞/debrisと細菌の分離分解能 | 培地成分/debrisの自家蛍光・生物発光 | 細胞/debrisのメンブレン目詰まり |
| 培地成分 debris |
debris と細菌の分離分解能 | 培地成分/debrisの自家蛍光・生物発光 | debrisのメンブレン目詰まり | ||
| 細胞洗浄廃液 | 洗浄液 debris |
debrisの自家蛍光・生物発光 | |||
| 細胞懸濁液 | 細胞 副成分 |
死菌rDNA 持込 副成分による核酸増幅阻害 (ex: DMSO によるNAT阻害) |
細胞と細菌の分離分解能 | 細胞/副成分の自家蛍光・生物発光 | 細胞のメンブレン目詰まり |
| 特定細胞加工物 | 細胞 副成分 |
表2.無菌試験に供する検体の種類と課題
4 迅速無菌試験法選択にかかる考え方
無菌試験に供する検体の種類、例えば細胞種だけでなく細胞懸濁液ないし細胞洗浄液であるかによっても適切な無菌試験法は異なるため、事前検討は必須である(表2)。例えば、PRPには血小板のみならず夾雑物としての好中球が多数含まれている。PRPでは細菌をinputしても好中球の貪食作用により、経時的にcolony forming unitは低下することが多い。加えて、培養などmanipulationを経ていないため細菌混入増殖リスクは低く、特に承認医療機器にて採取されたPRPでは無菌検査は不要であるかもしれない。一方、第3種再生医療等提供計画の血液由来細胞や第2種(自己)間葉系間質細胞では特定細胞加工物に起因する敗血症が報告されており、事前検討(と認定再生医療等委員会での審査)のみならず細胞加工物投与までの無菌性確認は必須である。投与までに無菌試験の成績が得られる技術水準の無菌検査試薬が上市されていることから、無菌試験を実施しないとの判断は倫理的に懸念がある。
迅速・安価・簡便に無菌性を担保するため、核酸増幅法(3.1)、FCM(3.2)、生物発光法・蛍光法(3.3)、固相サイトメトリー法(3.4)のいずれか、あるいはこれらの組み合わせが現実的である。FCMおよび生物発光法・蛍光法では目的・目的外細胞(将来的には細胞外小胞)と細菌の分離が課題となり、核酸増幅法では死菌rDNAなど非特異的増幅が課題となる。一般的に、迅速性と感度・特異度はトレードオフの関係にあることが多く、上記原理を組み合わせることで迅速性と感度・特異度を納得できる水準に引き上げることとなろう。
また、投与経路や投与部位にかかる検討も必須で、中枢神経系やそれに連続する網膜投与の場合には無菌性担保は特にcriticalであり、認定再生医療等委員会での十分な審議を期待したい。
5 迅速無菌試験法の適用において残された技術的課題
医薬品GMPを参考にすると、最終製品の10〜30%を用いて品質試験を行い、無菌性も局方に基づいた試験で担保することとなる。細胞加工物で医薬品GMPに準拠することは現実的でないものの、無菌性が担保されずに投与されることは非倫理的であり許容されがたい。そのため、局方同等水準で無菌性を担保する迅速無菌試験法が許容されることとなり、欧州薬局方では特に自己由来細胞加工物は貴重であることから、最終培養廃液や細胞洗浄廃液での無菌試験が模索される。しかしながら、最終培養廃液や細胞洗浄廃液数十mLから場合によってはL単位の検体で無菌試験を実施する必要が生じるものの、これまで述べた迅速無菌試験法は、数百μLから1mL程度の少量の検体しか適用できないという限界があった。今後、それら検体の濃縮、検体からの細菌微生物の濃縮回収技術の開発が待たれる。
6 おわりに
記載の微生物検出法のいずれを採択するかは、製造管理あるいは出荷管理における目的により異なる。核酸増幅法や生物発光法・蛍光法(FCM含む)の開発速度は著しく、機器との同時開発がなされ、バリデーションが取れるのであれば、固相サイトメトリー法やガス測定法に匹敵する迅速微生物試験法となると思われる。適切な迅速無菌試験法の適用は、再生医療の安全性担保に大きな力となろう。無菌性が担保された細胞加工物が患者に投与されることを期待したい。
