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【総説】商業利用可能なMSCセルバンクの構築

本記事は、和光純薬時報 Vol.94 No.1(2026年1月号)において、
株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング (J-TEC)  竹内 俊祐 様、渡部 正利喜 様に執筆いただいたものです。

1 はじめに

ヒト(同種)由来体性幹細胞を用いた再生医療等の発展には、原料となるヒト(同種)の組織及び細胞の適切な入手方法の確立が重要課題である。しかし、ヒト組織の商業目的による健常部への侵襲は法的、倫理的にも受け入れ難く、さらに組織提供はドナーからの自発的な寄託が原則となっていることが、同種細胞を用いた再生医療を開発する者にとって高いハードルとなっている。

係る背景の下、同種細胞を用いた製品開発の推進を目的として、平成30年から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」において、再生医療等製品の製造に利用可能なヒト(同種)体性幹細胞の安定的な供給を実現する事業(「国内医療機関からのヒト(同種)体性幹細胞原料の安定供給モデル事業」及びその継続事業である「再生医療等製品用ヒト(同種)体性幹細胞原料の安定供給促進事業」)が開始された。当該事業の目的は、国内医療機関にて余剰組織として廃棄されるヒト組織を再生医療等製品の原材料として活用するための供給システム構築である。大量生産が可能であり、かつオープンアクセス可能なヒト細胞(組織)供給システムが国内にて構築されれば、適切な製品開発と販売数が見込めることから、大企業を含む多企業の参入も容易となる。本稿においては間葉系間質細胞(MSC)を対象として我々がAMED事業に参画しながら進めた取り組みについて紹介する。

2 組織別IC取得法の確立と倫理的・実務的課題の抽出

再生医療等製品の開発に用いる他家細胞の供給源として、医療機関の外科的処置で発生する廃棄ヒト組織を用いることが適切と考えた。廃棄ヒト組織はその種類や量に制限があり、また倫理的な側面から、産業利用が可能で臨床用途に対応できるヒト組織の入手ルートの開拓にはハードルが存在する。そこで、産業利用可能なヒト組織の採取にあたり、医療機関と社内倫理委員会の協議内容を明らかにするとともに、アカデミア側及び社内における倫理委員会の見解と課題を共有することとした。

ヒト細胞原料の供給に係る法的・倫理的・社会的な課題を中心に議論する有識者委員会「平成30年度ヒト(同種)体性幹細胞原料の安定供給実現に向けた検討委員会」において、商用利用可能なヒト細胞原料を供給する際に存在する課題について議論されたドナーの権利と対策(プライバシー保護の権利、情報を提供される権利、所有権とその移譲、目的外使用における取り扱い、自己決定権)について、組織採取を担当いただいた各大学の対応の実情に合わせた管理体制を構築し倫理審査を受けて承認を得るとともに、手順を文書化した。また、ドナーからの同意取得に際しては、説明資料(パンフレット及び動画)を作成して本事業の社会的意義や管理体制について丁寧に説明した。その結果、診療科や採取組織の種類にかかわらず、同意取得を試みた患者の大部分から商業利用可能なヒト組織提供の同意が得られ、本研究において構築した体制が社会的受容性を有するものであることが確認された。

3 QbD形式による品質管理戦略の構築

近年、Quality by Design(QbD)に基づいた再生医療等製品の開発が求められており、細胞の重要品質特性(CQA)を指標として製造プロセスを最適化することが重要である。QbDによる品質管理戦略に向けて、「細胞原料としてのCQA」と「それらに影響し得る工程パラメータ」を設定し、QbDの形式で整理した。これらの関連を分析する目的で、各パラメータの実測値を蓄積するデータベースを構築した。J-TECが開発した再生医療等製品の製造実績から、高品質な細胞原料の提供においてMCBのCQAに影響を与える可能性が高いと予想される工程パラメータは、患者年齢と輸送時の保存条件が想定される。患者年齢については、乳幼児のような低年齢のヒト組織では、回収細胞数が多い傾向があった。輸送時の保存条件についても回収細胞数に与える影響を確認した結果、羊膜では5℃付近の低温保存が適しており、腸骨由来骨髄では低温保存ではP1回収時の細胞数が低下したことから、ヒト組織に応じた輸送時の最適な保存条件の設定が重要であることが示唆された(図1)。

図1.QbD形式による品質管理戦略の構築

図1.QbD形式による品質管理戦略の構築

4 細胞特性の評価

再生医療の原材料としてのMSCについて、採取部位、採取方法等による細胞の差異、分化傾向や機能特性について分析するため、本研究において各種ヒト組織から単離・培養した細胞の特性評価を試みた。検討した細胞特性は、一般的なMSCを用いた細胞製品において作用機序とされる下記の項目に関する評価系を構築し、各細胞を評価した。

<MSCの基本特性>

  • 分化能:各種分化誘導培地(骨・脂肪・軟骨)で分化誘導した際の基質産生を定量評価
  • 抗原性(炎症環境下):IFNγ存在下におけるHLA-DRの発現の変化を評価
  • 遊走能:損傷部位が産生するPDGF等のサイトカインに反応してメンブレン孔を通過する細胞を定量評価

<抗炎症作用>

  • 単核球増殖抑制能:ヒト単核球と共培養した際の増殖抑制効率を評価
  • Treg誘導能:ヒト単核球と共培養した際のTreg細胞 (CD4+CD25+FOXP3+)の誘導効率を評価
  • M2マクロファージ誘導能:マクロファージ様細胞(PMA刺激THP1細胞)と共培養した際のM2型細胞の誘導効率を評価

<サイトカイン効果>

  • 虚血条件下のVEGF・HGF産生:低酸素条件(0.1% O2)下におけるVEGFとHGFをELISA定量評価
  • 軟骨基質産生亢進能:MSCと共培養した際のヒト軟骨細胞の基質産生量を増加する効果を評価

各種ヒト組織由来MSCの特性評価の結果、骨髄由来MSCは特に多指症由来骨髄において分化能が高い傾向にあった。また、抗炎症能とVEGF産生能が高い細胞が多く、抗原性は高い傾向にあることが示唆された。一方で、脂肪由来MSCでは分化能は中程度だが、抗炎症能や遊走能が高く、抗原性は低い傾向にあり、胎児付属物由来MSCでは分化能、抗炎症能、VEGF産生能が低い細胞が多いが、抗原性は低い傾向にあった。特に胎盤由来MSCではHGF産生能が高い傾向があり、歯髄由来MSCでは分化能はじめ全体的に中程度の品質であり、VEGF産生能が高い傾向があることが、それぞれ示唆された。このように各MSCの細胞特性は由来組織によって一定の傾向が認められたが、症例による個体差が大きいことも確認された(図2)。

図2

図2.各種ヒト組織由来MSCの特性評価

これらのMSCの細胞特性を一覧化し、「細胞特性カタログ」としてまとめた。本カタログは、ヒト組織・細胞の提供事業においてユーザーに組織ごとの傾向や症例間差を示すことにより、高品質な原材料を効率よく入手するための参考資料として大変重要である。また、本検討において作製したセルバンクに特性情報を付与することができたため、ユーザーが目的疾患に対して適切な細胞を選択するための資料として活用することもできる(図3)。

また、本研究で用いたMSCのRNA-Sequenceを実施し、セルバンクの細胞の遺伝子発現プロファイルを取得してデータベース化した。これら遺伝子発現プロファイルと各種細胞特性の評価データと組み合わせることによって細胞特性評価の予測モデルの構築が可能であり、特性評価用マーカーを探索して特定し、細胞の遺伝子発現の解析による品質評価系が構築できることも実証した(図4)。

図3.細胞特性カタログ

図3.細胞特性カタログ

図4.遺伝子発現によるMSCの品質評価

図4.遺伝子発現によるMSCの品質評価

5 おわりに

再生医療等製品の原材料として包括的な産業利用が可能な国産のヒト組織及び細胞の安定的な供給体制を構築し、高品質な国産ヒト細胞原料を安定供給する取り組みについて紹介した。今後は、ヒト組織の種類を拡充して多様なニーズに応える体制を整備するとともに、セルバンク事業への展開も計画している。また、in vitroによる細胞特性の評価結果が、適切なin vivoモデルへ適用された際の応答と、実臨床へつながりをもって展開できる可能性を検証する必要がある。特性評価済の当該細胞集団を用いて臨床応用へ進むようなアカデミアやベンチャー企業を求めている。将来的には、医薬品としてのエクソソーム製剤や化粧品などへ使用目的を拡大することも視野に入れ、より安定的な国産ヒト組織の供給体制を目指す。

参考文献

  1. 竹内 俊祐ほか:「高品質な国産ヒト細胞原料供給事業」,クリーンテクノロジー (日本工業出版)

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