【連載】エンドトキシン便り「第7話 再生医療分野における「簡便法用測定キット(リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコー)」の使用例」
本記事は、和光純薬工業 試薬化成品事業部開発第一本部 ライフサイエンス研究所 高須賀 禎浩が執筆したものです。
はじめに
局方のエンドトキシン試験法は日米欧の三薬局方で調和された試験法であり、非常に洗練された試験方法です。しかし、測定に手間がかかるなどのデメリットも存在しています。
弊社は 2015 年 10 月に簡便法用測定キット「リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコー」を発売いたしました。本キットは、ライセート試薬として ES-Ⅱ シングルを採用、注射用水やサンプルを溶解するだけで陽性コントロールや陽性製品コントロールを調製できる低含量 CSE 並びに検量線データが記載された検量線シートの 3 点で構成されております。
簡便性を追求するために添付検量線を使用しておりますので、日本薬局方のエンドトキシン試験法には準拠しておりませんが、簡便かつ迅速に測定が可能な試薬キットとなっております。
再生医療分野ではロットサイズが小さく局方に従った方法ではコスト的に厳しく、最終製品(移植当日)などは移植前に試験結果を得る事が難しい場合があり、より簡便かつ迅速に結果を得る方法が求められております。
2016 年 3 月に開催された第 15 回日本再生医療学会、大河原弘達先生(大阪大学医学部附属病院未来医療センター)らのグループは、弊社が 2015 年 10 月に発売したリムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコーを用い、試薬の基本性能と再生医療で汎用されている薬剤を測定して従来法と変わらない結果が得られたと発表されております1)。
今回、再生医療分野におけるエンドトキシン測定の意義と、合わせて先生方のご了解のもと、発表データを紹介させて頂きます。
再生医療におけるエンドトキシン測定
エンドトキシン(細菌内毒素)はグラム陰性菌の外膜を構成している成分の一つであります。その本体はリポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)であり、多種多様な生理活性を示します。最も特徴的な生理活性は発熱活性であり、極めて微量(ピコグラムオーダー)でも強い発熱活性を示します。
カブトガニ血球抽出成分を利用したライセート試薬は感度よくエンドトキシンを測定できることから、局方では注射剤はライセート試薬を用いたエンドトキシン試験を実施すると規定されています。
再生医療分野においても、『ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質および安全性の確保について「薬食発第 0907 第 5 号(平成 24 年 9 月 7 日)』2)に無菌性試験、マイコプラズマ否定試験と並んでエンドトキシン試験を行わなければならないと記載されています。
測定方法についても、『ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針に係る Q&A について「業務連絡 平成 20 年 3 月 12 日」』3)に『日本薬局方(参考情報 エンドトキシンの項)等を「参考」とすること』、と記載されています。
局方を「準拠」する必要性は有りませんが、局方の測定に関するバリデーション4)の考え方に沿った測定方法を採用する必要性があると思われます。
今後、規制当局や再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)などから具体的な技術的ガイダンス等の発表が期待されています。
リムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコーについて
弊社では 2015 年 10 月に日本薬局方には準拠しないが、簡便かつ迅速にエンドトキシンが測定できるリムルス ES-Ⅱ プラス CS シングルテストワコーを発表いたしました。
この試薬の特徴は以下の通りです。
①製造元(和光純薬工業)が検量線を提供(添付検量線)しているため、各施設で検量線を測定する必要がありません。
②添付検量線を使用しているために局方には準拠しないが、局方のバリデーションの考え方を踏襲しているため、局方と同等の測定値が得られます。
③ライセート試薬は従来法でも用いられる ES-Ⅱ シングルを使用し、良好な再現性を実現しました。
④サンプルで溶解しただけで PC(陽性コントロール)や PPC(陽性製品コントロール)が調製可能な低含量 CSE を使用しているため、エンドトキシンの希釈系列を作製する手間が省けます。
⑤トキシノメーターは従来機種(ET-6000, ET-5000)でも測定可能ですので、現在使用中の機器を用いても測定できます。また、従来より価格を抑えたプラス CS 専用機(ET-ミニ)でも使用できます。
添付検量線と低含量 CSE の実現で、局方準拠法では準備に約 40 分掛かっていた前処理時間が 5 分程度まで短縮可能となりました。
大阪大学医学部附属病院未来医療センター大河原弘達先生発表データ
①エンドトキシン標準液を用いた評価。
各濃度の日本薬局方エンドトキシン標準品(JP-RSE)を「従来法」(局方準拠法、試薬:ES-Ⅱシングル、トキシノメーター:ET-6000 を使用)と「簡便法」(試薬:ES-Ⅱプラス CS シングル、トキシノメーター:ET-Mini を使用)で測定を行い、評価した(表1)。
表1.JP-RSEの測定
検体(EU/mL:理論値) | 測定値(EU/mL) | 回収率(%) | ||
---|---|---|---|---|
従来法 | 簡便法 | 従来法 | 簡便法 | |
0.4 | 0.405 | 0.425 | 101 | 106 |
0.2 | 0.197 | 0.216 | 99 | 108 |
0.1 | 0.101 | 0.106 | 101 | 106 |
0.05 | 0.0451 | 0.0531 | 90 | 106 |
0.025 | 0.0266 | 0.0249 | 106 | 100 |
0.0125 | 0.0121 | 0.0131 | 97 | 105 |
0.01 | 0.011 | 0.0092 | 110 | 92 |
- 従来法の回収率は 90%~110%、簡便法の回収率は 92%~108% で、共に基準内(50~200%)であった。
- エンドトキシン標準液を検体として測定した場合、両測定法で測定値が概ね一致した。
②各種試薬類を用いた評価
再生医療で本測定キットを用いるためには再生医療分野で汎用されている試薬類を「従来法」と「簡便法」にて同一の測定値が得られる、阻害促進の受け方(添加回収率)が基準内である必要性がある。今回、再生医療で汎用される試薬類を「従来法」と「簡便法」で同一の希釈倍率で測定し比較した(表2)。また、エンドトキシン添加試験を行い、回収率を評価した(表3)。
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表2.試薬類の測定
検体 測定値(EU/mL) 従来法 簡便法 1 組織保存液 ≦0.02842 ≦0.079872 2 初代培地液 ≦0.03272 ≦0.079872 3 0.02%EDTA ≦0.03566 ≦0.079872 4 継代培地 ≦0.04448 ≦0.079872 5 PBS ≦0.02648 ≦0.079872 6 細胞洗浄液 0.02937 ≦0.079872 7 10%FBS-DMEM ≦0.02261 ≦0.071904 -
表3.試薬類の添加回収率実験
検体 回収率(%) 従来法 簡便法 1 組織保存液 99 85 2 初代培地液 98 108 3 0.02%EDTA 94 85 4 継代培地 112 118 5 PBS 106 75 6 細胞洗浄液 100 118 7 10%FBS-DMEM 93 106
- 再生医療で使用する試薬類を測定した場合、両測定法で測定値が概ね一致した。
- 従来法での回収率は 93~112%、簡便法の回収率は 75~118% で、共に基準内(50~200%)であった。
③考察
- エンドトキシン標準品 0.01 EU/mL~1.4 EU/mL を測定した結果、従来法(日局準拠法)と簡便法で測定値が一致したことから、幅広い範囲のエンドトキシン濃度で簡便法は従来法と同等の測定値が得られることが分かった。
- エンドトキシン標準品 0.01 EU/mL~0.4 EU/mL を簡便法で測定した際の回収率が 92%~108% と良好であったことから(表1)、真度(trueness)が高い(理論値との差が少ない)測定法であった。
- 再生医療で使用する試薬類を測定した結果(表2)、従来法と簡便法で同一の希釈倍率で回収率が基準内(50%~200%)であった(表3)ことから、従来法(日局準拠法)と検体からの影響の受け方は同等であった。また、測定値も両測定法で乖離がなかった。
- 簡便法は再生医療で使用する試薬類の品質管理を行う上で充分な感度を有しており、従来法と同等の測定値を短時間で得られた。特に迅速に測定結果を求められる場合には有用であると思われる。
まとめ
再生医療分野でのエンドトキシン測定方法に関しては詳細な方法は現在議論中でありますが、弊社も再生医療分野関係者と協力し、微力ながら今後の再生医療分野発展に寄与できれば幸いです。
謝辞
貴重なデータの使用を許可していただきました、江副幸子先生、大河原弘達先生をはじめ大阪大学医学部附属病院未来医療センターの先生方に感謝申し上げます。
参考文献
- 第 15 回日本再生医療学会、大阪、2016 年 3 月、大河原弘達他、「エンドトキシン測定簡便法システムの再生医療分野での応用の可能性」
- http://www.nihs.go.jp/cbtp/sispsc/pdf/allo_ips.pdf
- https://www.pmda.go.jp/files/000205397.pdf
- 高岡文ら:第 17 改正 図解 日本薬局方微生物試験の手引き、p.26-36, 文教出版社(2016).
「再生医療分野のエンドトキシン測定について、特に最終製品の測定方法については規制当局と十分に協議の上、実施して下さい。」