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【テクニカルレポート】ふっ素化シリコン修飾シリカゲルカラムFluofix®のユニークな分離特性

本記事は、和光純薬時報 Vol.70 No.4(2002年10月号)において、和光純薬工業 試薬営業本部 学術部 和田忠昭が執筆したものです。

今日のHPLC 分析の普及は、全多孔性球状シリカゲルを基材とした化学修飾型充てん剤の開発によるものと言っても過言ではありません。その代表的な充てん剤としてC18 充てん剤(ODS、オクタデシルシリカゲル)が挙げられます。

ODSは多岐にわたる分析に用いられておりますが、その理由としては1)分析対象物の適応範囲が広い2)使用できる溶媒種が多く分離至適条件へ導きやすい3)他の化学修飾型充てん剤に比べ耐久性が高い、等の利便性が考えられます。

当社も多様なニーズに応えるべく各種ODSを上市しています。しかしながらODSもオールマイティーとは言えず、それを補完する形でC8 やC22、C30 などの炭化水素鎖長の異なる充てん剤や、イオン交換基や極性基など異なる分離機構の修飾基を導入した充てん剤、あるいはこれら異なる機能を併せ持つ複合型充てん剤等、様々な充てん剤が開発、使用されています。

その中で当社は、分岐状ポリフルオロアルキルシランを多孔性球状シリカゲルに化学修飾したふっ素化シリコン修飾シリカゲル充てん剤、フルオフィックス(Fluofix®)を上市し分析の多様性に対応しております。

フルオフィックスは基本的には逆相分配作用を示し、C1、C4 の炭化水素鎖型充てん剤とほぼ同等の保持力を有します。さらに、化学的に安定なフルオロカーボンを有することで従来の炭化水素鎖型充てん剤とは異なったユニークな分離特性を示します。

第一はハロゲン原子の認識性です。フルオフィックスはハロゲン原子を有する化合物、特にふっ素化合物を強く保持します。また類似の構造を持つ化合物では分子内のふっ素の数に依存して保持時間が長くなります。

図1 にクロロフェノール異性体、図2にフルオロベンゼンのクロマトグラムを示します。両分析ともハロゲン原子の数が多くなるほど保持は大きくなり、ヘキサフルオロベンゼンの場合、ODSと同程度の保持を示します。

  • クロロフェノール異性体のクロマトグラム
  • フルオロベンゼンのクロマトグラム

第二は構造認識性です。フルオフィックスは分子の平面認識性がODS などの炭化水素鎖型充てん剤と異なっています。一般的なモノメリックODS の場合、図3のように嵩高いo-terphenyl よりも平面性の高いtriphenylene の方が強く保持されますが、フルオフィックスは逆にtriphenyleneの方が早く溶出します。この特性を利用しo,m,p 位など立体構造のわずかに異なる化合物を分離することが可能です。

嵩高いo-terphenyl よりも平面性の高いtriphenylene の方が強く保持される

図4 にキシレノールの分析例を示します。キシレノールはフェノール樹脂原料や有機合成中間体、消毒・防腐剤として用いられる化合物で、6 種類の構造異性体が存在します。従来の炭化水素鎖型充てん剤では異性体分離が困難でしたが、フルオフィックスはメタノール/水の簡単な移動相で分離が可能です。

キシレノールの分析例
サポニゲンのエピマー分離例

また図5 はサポニゲンのエピマー分離例です。天然物からの抽出物成分の異性体分離は、各成分の有用性を見出すために必要であり、フルオフィックスはこの様な場合にも威力を発揮します。

第三には、撥水性のみならず撥油性も有している事です。ODSでは疎水性相互作用が強すぎるためにブロードなピークを生じる恐れがある場合もシャープなピーク形状が見込めます。

以上の様にフルオフィックスはすぐれたハロゲン原子の認識性とユニークな構造認識性により、ふっ素化合物をはじめ天然物や生体サンプルなど従来のODS では分離が困難な場合に、より有効な充てん剤であると考えられます。

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