siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

【クロマトQ&A】HPLCで使用する有機溶媒の毒性に関する規制等について教えて下さい

本記事は、Analytical Circle No.22(2001年9月号)に掲載されたものです。

HPLCで使用する有機溶媒の、毒性に関する規制等について教えて下さい。

前回述べましたようにHPLCで使用される有機溶媒には、毒性のあるものが少なくありません。これらに関する有害性の知識がないと、思わぬ事故を引き起こす可能性があります。また保管管理が不十分だと、盗難紛失に気付かず事件に巻き込まれる事も考えられます。このような事態を発生させないためにも、毒性を有する有機溶媒の取り扱いについて再確認していただくことが重要と思われます。

毒物及び劇物取締法

毒性を有する化学物質のうち国民の保健衛生上きわめて重大な危害を及ぼす恐れがあるものは、毒物及び劇物取締法により毒物あるいは劇物に指定され、使用者は定められた法規則を守らなければなりません。毒劇物の範囲は医薬品及び医薬部外品を除く、法(毒物及び劇物取締法)で指定された品目であり、毒物92品目(内、特定毒物19品目)、劇物347品目が指定されています(平成11年3月現在)。

毒劇物の判定基準を表1に示します。HPLCで使用される溶媒のうち、アセトニトリル、メタノール、クロロホルム、トルエン、酢酸エチルなどは劇物に指定されています。

表1.毒物及び劇物の判定基準
毒物 劇物
動物 急性毒性 経口 LD50 30mg/kg以下 30超~ 300mg/kg以下
経皮 LD50 100mg/kg以下 100超~1000mg/kg以下
吸入 LC50 200ppm(1hr)以下 200超~2000ppm(1hr)以下
皮膚、粘膜刺激性 硫酸、水酸化ナトリウム、フェノールなどと同等以上の刺激性
ヒトの事故例を参考として、毒性の検討を行ない、判定する

注:判定基準に関係なくシンナー等や爆発物等の原料として規制されているものもある。
「毒物及び劇物取締法解説基礎化学概説」毒劇物安全性研究会編(平成5年改訂)(薬務公報社)より引用。

使用者は、(1)盗難、紛失を防ぐための必要な措置を講じなければなりません。具体的には①部外者の立ち入りを禁止する②管理者を設置する③保管する場合は施錠する④毒劇物管理簿をつけるなどの措置を講じ、万一盗難、紛失、漏洩、染み出し、流出した場合のため⑤通報体制を整備し⑥被害が拡大しないような処置を講じます。(2)保管上の注意点としては①毒劇物以外のものと一緒に保管しない②保管庫に指定の表示を行なう③古い毒劇物は期限を見て処分するなどがあります。また(3)①販売業の登録を受けていなければ、他者への譲渡・販売は禁止されていますし、②購入には身元確認などの手続きが必要です。(4)廃棄する場合は技術上の基準に従わなければなりません。またその他の法律(例えば水質汚濁防止法、大気汚染防止法)にも十分注意し適法に処理する必要があります。自分で処理して廃棄することが基本ですが、自己処理ができないときは認可を受けた廃棄物処理業者に依託することも可能になっています。

MSDS(Material Safety Data Sheet)

これら有機溶媒の危険有害性や取り扱い及び保管上の注意、廃棄上の注意などの情報は、カタログ、ラベル、パンフレット、そしてMSDSから入手できます。

化学薬品は、種類や取扱量が多いだけでなく使用形態もさまざまであることから、予期せぬ環境汚染の事態を生じたり、誤って使用される可能性があります。そのため化学薬品メーカーは環境、安全、健康面に関する、適切な使用と取扱いの情報をユーザー(使用者)に周知することを要請されています。平成4年7月 労働省告示第60号、平成5年3月 厚生省通産省告示第1号が公布されMSDS(製品安全データシート)の作成配布運用が始められました。MSDSには表2に示す内容が記載されており、毒劇物の販売、保管、輸送、使用及び廃棄に関する情報を入手することが可能です。

※平成24年3月に、従来のJIS Z 7250(「化学物質等安全データシート(MSDS)-内容及び項目の順序」)とJIS Z 7251(「GHSに基づく化学物質等の表示」)を統合してGHSに対応するJIS Z 7253が制定されました。この際、安全データシートの名称も「MSDS」から国連GHS文書で定義されている「SDS」に変更されました。

表2.MSDSの記載項目
必ず記載する項目 データがあれば記載する項目
製造者情報:会社名、住所 物質の特定
製品名 物理化学的性質
危険有害性の分類:分類の名称 危険性情報(安定性・反応性)
応急処置 有害性情報
火災時の措置 環境影響情報
漏れ出し時の措置 その他
取り扱い及び保管上の注意
曝露防止措置
廃棄上の注意
輸送上の注意
適用法令

化学物質管理促進法(PRTR法)

平成11年7月「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」いわゆるPRTR法が公布され、すでに運用が始まっています。この法律で指定された品目にはMSDS作成と提供の義務が発生し、その品目を使用するものはMSDSを入手し、有効活用(教育、作業方法の改善、安全対策等)をしなければならないことになりました。指定された品目の中にはアセトニトリル、クロロホルム、1, 4-ジオキサン、トルエンなどの溶媒が含まれております。

以上、毒性を有する有機溶媒の取り扱いについて紹介致しました。今後とも性質を十分ご理解の上有機溶媒をご使用ください。

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。