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【連載】Talking of LAL「第17話 エンドトキシン特異的試薬」

本記事は、和光純薬時報 Vol.62 No.4(1994年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第17話 エンドトキシン特異的試薬

LAL がエンドトキシンのみならず(1→3)-β-D-グルカン(β-グルカン)にも判の酢売ることは、本シリーズ第 1 話並びに第 3 話でお話した通りです。測定系にβ-グルカンが共存するとエンドトキシンを正確に測定できない場合があるため、エンドトキシン特異的 LAL 試薬の必要性が叫ばれていました。

その答の一つが Obayashi ら1)のエンドトキシン特異的試薬(エンドスペシーとして生化学工業(株)から発売)の開発です。筆者らも、調製時の汚染リスクが少なく、ゲル化法やトキシノメーター法にも適用可能なエンドトキシン特異的試薬が必要と考え、彼らに続いて、異なった原理によるエンドトキシン特異的試薬(リムルス ES テストワコー)を開発・発売しました。

Obayashi らの方法については文献を参考にしていただくとして、今回は、筆者らの試薬開発のエピソードをご紹介したいと思います。

リムルス試験によるエンドトキシン測定におけるβ-グルカンの影響は複雑です。その主な理由の一つは、本シリーズ第 12 話でお話したように、LAL を活性化する過程がβ-グルカンとエンドトキシンで異なっているということです。トキシノメーターを用いたリムルス試験においても、エンドトキシンとβ-グルカンはその検量線の傾きが異なっており、両者の混合物では 1+1 = 2 といった単純な定量値は示しません。

例えば、当社の HS タイプ LAL(エンドトキシン及びβ-グルカンに反応)と ES タイプ LAL(エンドトキシンに特異的)の測定値の差は、必ずしもβ-グルカンの量を定量的に表しません。もちろん、HS タイプの測定値が ES タイプのものより明らかに高い場合は、試料中のβ-グルカンの存在が示唆されますが、この場合も定量は困難と考えられます。

1981 年に Kakinuma らはカルボキシメチル化したβ-グルカン(CMPS)と LAL の反応に関する報告をしております2)。彼らは、CMPS が LAL 活性化に対する至適濃度をもち、高濃度では CMPS 自身による LAL の活性化を阻害すること、また、高濃度の CMPS 存在下で大量のエンドトキシン(10ng/mL)が LAL の活性化を起こすことも示しております。

残念なことに、彼らは、β-グルカンのリムルス試験への影響を指摘しながら、β-グルカンの影響なしにエンドトキシンを測定するということは考えていなかったようです。

筆者が Kakinuma らの文献から得たヒントは、大過剰のβ-グルカンによってそれ自身による LAL の活性化を完全に抑えた状態で、エンドトキシンの定量を行えないかという考えでした。これを実現するためには、Kakinuma らの実験をさらに進めて、以下のことについて確かめる必要がありました。

(1)β-グルカンによる LAL の活性化を、β-グルカン自身の添加によって完全に抑えることができるか。
(2)大過剰のβ-グルカンの添加は、エンドトキシンの定量にどの程度の影響を与えるか。

もし、β-グルカンによる LAL の活性化の抑制が完全でないと、エンドトキシンの定量性及び試薬の安定性が保証されないでしょうし、β-グルカンの添加がエンドトキシンの測定に影響を与え、実際に測定したい濃度のエンドトキシンの検出ができない場合はこの方法を実用化することができません。そして、幸運にも、我々の検討の結果はすべて、エンドトキシン特異的試薬の調製が可能であることを示したのです3)

この試薬の商品化には、もう一つ解決しなければならない点がありました。すなわち、添加するβ-グルカンをエンドトキシンフリーで調製することです。この点については、製造上のノウハウもあり、すべてをお話するわけにはいきませんが、β-グルカンをアルカリ下で修飾した水溶性の誘導体を使用することで達成しました。

エンドトキシンの汚染とは関係ありませんが、使用するβ-グルカンが水溶性であることは、この原理の試薬を調製する上で非常に重要であると考えております。

さて、こうしてβ-グルカンを添加するだけでエンドトキシン特異的試薬が調製できることが判りました。この方法は、ゲル化法、比濁時間分析法、合成基質法のいずれにも応用が可能であり、調製方法も簡便で汚染の危険性が少ないという利点を持っています。

参考文献

  1. Obayashi, T. et al. : Clin. Chim. Acta., 148, 55 (1985).
  2. Kakinuma, A. et al. : Biochem. Biophys. Res. Commun., 101, 434 (1981).
  3. 土谷正和ら, 日細菌誌, 45, 903 (1990).

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