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【連載】Talking of LAL「第32話 エンドトキシンとサイトカイン」

本記事は、和光純薬時報 Vol.66 No.3(1998年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第32話 エンドトキシンとサイトカイン

エンドトキシンは種々の生物活性を示します。これらの活性は、細胞への直接作用及びその結果産生される液性因子によって起こると考えられます1)。エンドトキシンによって産生される液性因子としては、インターロイキン(IL)-1、IL-6、IL-8、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン(IFN)などのサイトカインや血小板活性化因子(PAF)、アラキドン酸カスケード因子などのケミカルメディエーター組織因子(TF)などが挙げられます。

今回は、この中から、炎症性のサイトカインについてエンドトキシンとの関係を考えてみたいと思います。

発熱性は、エンドトキシンの代表的な生物活性です。その機構は、エンドトキシンの作用により各種細胞より産生された IL-1、IL-6、TNF、IFN などが視床下部に作用してプロスタグランジン E2 を産生させて発熱を起こすと考えられています。

人に対するエンドトキシン(E. coli O113 : H10 : K- 株 LPS 2 ng/kg)の投与実験では、投与後 1.5 時間で TNF の、2 時間で IL-6 のピークが認められ、体温は徐々に上昇し、投与後 3 時間目あたりをピークとした発熱がサイトカインが下がった後も続くという結果が報告されています2)。その他多くの生物活性も実はサイトカインの作用によって起こっていることがわかってきています。

この中で、エンドトキシンが単球や顆粒球を活性化する機序については、最近の 10 年間で非常に研究が進んだ分野の一つといえるでしょう。この研究の進歩に大きく貢献したのが、急性期蛋白である LPS 結合蛋白(LBP)の発見です3)。この 60kDa の糖蛋白の血清中の濃度は、正常人では 0.5µg/mL 以下ですが、炎症の急性期には 30µg/mL 以上になるといわれています。

LBP はエンドトキシンのリピド A の部分に結合し、LBP 存在下におけるマクロファージの TNF 産生は、非存在下でのエンドトキシン濃度以下で起こることが報告されています。さらに、マクロファージの分化抗原の一つである CD14 が LPS-LBP 複合体のレセプターであることが明らかにされ5)、LBP がエンドトキシンの CD14 との結合を大幅に促進することが示されました。

マクロファージに対するエンドトキシンの作用はこの LBP・CD14 を介した系が中心と思われますが、エンドトキシンが直接 CD14 に結合する系や CD14 をも介さない系があるといわれています。ともあれ、マクロファージに結合したエンドトキシンが TNF をはじめとするサイトカインの誘導の引き金となるわけですが、その結合様式には種々のパターンがあるようです。

サイトカインは、もともと生体によって制御されており、生体にとって必要なものと考えられます。しかし、腫瘍を壊死させる因子として発見された TNF が、実は悪液質誘発因子として発見されたカケクチンと同一の物質であった例からもわかるように、制御されない状態のサイトカインは、生体にとって非常に危険な作用を及ぼす可能性があります。

エンドトキシンの悪玉としての作用の発現において、エンドトキシンがマクロファージ、好中球、血管内皮細胞等に作用し、生体のサイトカインネットワークをかき乱すことがかなり重要と考えられます。また、逆の観点から、腸内細菌のエンドトキシンやペプチドグリカンが生体内ではホルモンのような作用をしているという考えもあり1)、非常に興味深いところです。

ともあれ、エンドトキシンに結合する血漿中の蛋白は多数報告されていますし、生体への作用機序も非常に複雑です。さらに、これまでのシリーズで考えてきたように、エンドトキシンの活性自体が変化しやすいもので、このこともエンドトキシンの生体作用を複雑にしていると思われます。

いずれにしても、エンドトキシンの生体作用にとってサイトカインは最も重要な因子の一つと考えられますが、その全貌は依然として明らかにはなっていません。

参考文献

  1. 遠藤重厚、稲田捷也:「エンドトキシンと病体」, p.41-74, (へるす出版)(1995).
  2. Van Deventer, S. J. et al. : Blood, 76, 2520-2526(1990).
  3. Tobias, P. S. et al. : J. Biol. Chem., 263, 13479-13481 (1988).
  4. Mathison. J. C. et al. : J. Immunol., 149, 200-206 (1992).
  5. Wright, S. D. : Science, 249, 1431-1432 (1990).

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