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【連載】Talking of LAL「第35話 抗生物質のエンドトキシン試験」

本記事は、和光純薬時報 Vol.67 No.2(1999年4月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第35話 抗生物質のエンドトキシン試験

1998 年、日本抗生物質医薬品基準に一般試験法として「エンドトキシン試験法」が収載されました。今回は、抗生物質のエンドトキシン試験について考えてみましょう。

今回の改正で、収載薬剤中 118 製剤のエンドトキシン規格値が定められました。試験法としては、「日本薬局方一般試験法エンドトキシン試験法を準用する」ことになっています1)。日本薬局方のエンドトキシン試験法には、ゲル化法と光学的方法が記載されており、「その結果に疑いのある場合は、別に規定するもののほか、ゲル化法によって最終の判定を行う」ことになっています2)

日本における実状としては、定量性に優れた光学的方法が好まれており、抗生物質の工程検査にもこれらの方法が多く使われているようです。

抗生物質のエンドトキシン試験における注意点について考えてみましょう。抗生物質の場合も、これまで考えてきたリムルス試験における注意点と基本的に同じです。

筆者らは、エンドトキシンと β-グルカンの両方に反応する従来のリムルス試薬による抗生物質の測定で、β-グルカンと思われる反応を経験しております。この β-グルカンの由来は不明ですが、製造工程で使用されるフィルターや原料からの混入が疑われます。

このように、β-グルカンが混入した抗生物質製剤がかなりあると思われますから、抗生物質のエンドトキシン試験には、エンドトキシン特異的リムルス試薬を用いる必要があるでしょう。また、希釈や pH 調整によって測定しやすい条件にすることも同様です。

反応干渉因子試験を行う場合の注意点として、抗生物質のエンドトキシンに対する影響が挙げられます。すなわち、抗生物質の中には、鉄イオンやアルミニウムイオンのように、エンドトキシン活性を低下させるものがあります。

当研究所でも、硫酸ゲンタマイシンでこの現象を経験しています。すなわち、硫酸ゲンタマイシン溶液(10 mg/mL)をエンドトキシン溶液と混合後、活性を測定すると、そのエンドトキシン活性は 40% まで減少しました。しかし、リムルス試薬に硫酸ゲンタマイシン溶液、エンドトキシン溶液の順で添加すると、そのエンドトキシン活性はほとんど変化しませんでした。このあたりの実験方法については、これまでにもご紹介してきています(Talking of LAL 第 10 話3)第 33 話4)

図1.硫酸ゲンタマイシン溶液(10mg/mL)に添加したエンドトキシン回収率の変化

また、硫酸ゲンタマイシン溶液とエンドトキシン溶液をあらかじめ混合した溶液では、エンドトキシン活性は経時的に低下し、24 時間後には 10% となりました(図1)。このような現象は、自然界に存在するエンドトキシンでも起こっているかどうかは不明であり、反応干渉因子試験への影響だけでなく、抗生物質中のエンドトキシンの存在状態と活性測定の意義にも関わっていると思います。

抗生物質のエンドトキシン試験は、基本的に他の医薬品を試験する場合と変わりありません。従って、ふだん気をつけている点に注意すれば、問題なくエンドトキシン試験が行えるでしょう。これまで通り、エンドトキシンの活性変化には注意が必要ですが......。

参考文献

  1. 日本抗生物質医薬品基準解説 1998, p.490, (薬事時報社)(1998).
  2. 第十三改正日本薬局方解説書 , p. B-53, (廣川書店)(1996).
  3. 和光純薬時報 Vol.61 No.1, p. 12, (和光純薬工業株式会社)(1993).
  4. 和光純薬時報 Vol.66 No.4, p. 18, (和光純薬工業株式会社)(1998).

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