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【テクニカルレポート】HPLC 法における短時間分析について その2

本記事は、和光純薬時報 Vol.63 No.4(1995年10月号)において、和光純薬工業 大阪研究所 上森 仁志が執筆したものです。

前報までに、短時間分析を達成する方法として、(1) 高性能充填剤(平均粒子径:3 µmなど)をパッキングしたショートカラムの利用と、(2) 逆相系充填剤の場合ならアルキル鎖長の短いもの(例えばC18→C8)の利用を紹介した。前者の場合は各成分間の分離係数を変えることなく短時間分析が可能であり、後者の場合は疎水性化合物の保持を特異的に減少させる効果があった。

図1. 流路図
図1. 流路図

これらの方法は充填剤の設計段階で工夫をこらしたものであるが、今回紹介するカラムスイッチング法は、HPLCの流路系に自動流路切換バルブを装着し、第1カラム(プレカラム)と第2カラム(メインカラム)を接続、第1カラムで予備的な分離を行った後、第2カラムで再分離を行う方法である。

その時の流路系を図1に示した。通常第1カラムと第2カラムには別々の充填剤が使用されるケースが多いが、同一充填剤を用いた場合でも異なる移動相条件を設定すれば効率の良い分離が達成される。

以下、尿中の5-ヒドロキシインドール酢酸(5HIAA)の迅速分析を例に説明する。尿中の5HIAAの測定は、セロトニンの動態を知る有効な手段として、臨床検査分野においてHPLC法にて実施されている。通常のイソクラティック法による分析例とカラムスイッチング法を用いた場合の分析比較を図2, 3に示した。

Analysis of 5HIAA in Urine

図2.イソクラティック法

Column:Wakosil-Ⅱ 5C18 HG 4.6φ x 250 mm
Eluent:Acetic Acid and Citric Acid Buffer (pH 3.8)
Flow Rate:1.2 mL/min. at 37 ℃
Detection:ECD +550 mV, 320 nAFS.
Injection:20 µL

  • 図3.カラムスイッチング法
  • 図4.プレカラムでの分離挙動

Column:1) Wakosil-Ⅱ 5C18 RS 4.6 φ x 50 mm, 2) Wakosil-Ⅱ 5C18 RS 4.6φ x 150 mm
Eluent:0.1 M KH2PO4, H3PO4(pH 3.9) / CH3OH
1) 80/20 (V/V), 2) 85/15 (V/V), SOS 240 mg/L
Flow Rate:1.0 mL/min. at 35℃
Detection:ECD + 550 mV, 320 nAFS.
Column Switching Time:1.4 - 2.7 min.
Sample of Urine:Urine/0.1 M Tris buffer (pH 8.5) = 1/19 (V/V)

イソクラティック法の場合、尿中の夾雑物との完全分離は難しく、しかも5HIAAが溶出後も不明ピークが出現し1サイクル当りの分析時間は長くなってしまう。一方、カラムスイッチング法の場合は、夾雑物との分離も良好であり、分析時間も20分以内と短くなっている。

では何故こんなことができるのであろうか?図4にプレカラムでの分離挙動を示したが、設定した移動相条件下において、5HIAAは2分付近に溶出し、カラムスイッチング時間を1.4分から2.7分と設定すればその範囲外に溶出される成分はメインカラムに入ることなくプレカラムから溶出される。

また、メインカラムに導入された5HIAAを含む成分は、より選択制の高い条件(この場合はイオンペアー法:5HIAA以外の成分に効果がある)で分離されるため、クロマトグラムはシンプルとなり、遅れて溶出される成分もなく良好な分離と短時間分析が達成されることになる。

以上、カラムスイッチング法は、HPLC装置のシステムコントローラから自動で流路の切換を制御できる付属部品が必要となるものの、選択制に優れた分離と短時間分析が達成できるいなどのメリットを有し、分析手法として有効に利用されるものと思われる。

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