【テクニカルレポート】特性の異なるODS充填剤の有効利用法について
本記事は、和光純薬時報 Vol.64 No.1(1996年1月号)において、和光純薬工業 大阪研究所 上森 仁志が執筆したものです。
国内市場において、その使用実績から推定すればシリカODS充填剤が支配的であり、数多くのブランドが存在する。しかし、一口にODS充填剤と言ってもシリカゲル基材の特性(比表面積、細孔径、細孔分布、金属不純物の含有量など)や、表面修飾方法(ODS基の導入方法、ODS基の導入量、エンドキャッピング方法)により分離特性は大きく異なっている。
その一方で、分析条件の最適化検討は、選ばれた1種類のODS充填剤を用いて移動相組成(有機溶媒の種類と量、塩濃度、pHなど)や分析温度を変えるなどトライアンドエラーを繰返しながら実施されるケースが日常的な方法となっている。
しかし、この方法だけでは限界があり、特性の異なるODS充填剤を積極的に利用すれば、より効率的な条件設定が可能なものと考えられる。今回、同一シリカゲル基材から官能基の導入方法を変え合成した特性の異なる3種類のODS充填剤(Wakosil-Ⅱ 5C18HG, Ⅱ 5C18 AR, Ⅱ 5C18 RS)を用いて、生薬有効成分を同一分析条件下に分析した場合を例に、その有用性を説明する。
通常、図1に示したように、どのタイプの充填剤を用いても保持特性に差は認められるものの、分離パターンに変化はない。しかし、図2~4に示したように分離パターンが変化し、ある種の充填剤を用いた時に最適分離が達成される場合がある。
CONDITIONS
Sample Name : 1) Glycyrrhizic acid 2) Propyl p-hydroxybenzoate (IS)
Column Size : 4.6 φ x 150 mm
Eluent : CH3CN / CH3COOH (1→5) = 2/3 (v/v)
Flow rate : 0.4 mL/min
Detector : UV 254 nm
CONDITIONS
Sample Name : 1) Strychnine nitrate 2) Sodium barbital (IS)
Column Size : 4.6 φ x 150 mm
Eluent : CH3CN/50 mM KH2PO4 / Et3N = 5/45/1 (v/v/v) (pH 3.0 ← H3PO4)
Flow rate : 0.6 mL/min
Detector : UV 210 nm
CONDITIONS
Sample Name : 1) Arbutin 2) Hydroquinone 3) Gallic acid
Column Size : 4.6 φ x 150 mm
Eluent : CH3OH / H2O / 0.1N HCl = 5/94/1 (v/v/v)
Flow rate : 0.6 mL/min
Detector : UV 280 nm
CONDITIONS
Sample Name : 1) Scopolamine HBr 2) Atropine sulfate 3) Brucine (IS)
Column Size : 4.6 φ x 150 mm
Eluent : CH3CN / 50 mM KH2PO4, 1% Et3N (pH 3.5 ← H3PO4) = 1/9 (v/v)
Flow rate : 1.0 mL/min
Detector : UV 210 nm
図4の場合を例にとると、HGタイプでは成分2, 3の分離が不十分である。この分離を改善する方法として「移動相のアセトニトリル濃度を下げる」、「pHを変化させる」が考えられるが、一番簡単な方法は充填剤を変更することである。溶出順位の制限がなければARタイプが最適であり、制限があってもRSタイプで十分な分離が達成されている。
分析条件の最適化検討は、分析業務に従事している者にとって楽しみの一つに違いないが、多大な労力と時間を必要とする。ここに紹介した方法が、労力と時間の節約になればと考えている。