【連載】Talking of LAL「第19話 Es-Eappプロット」
本記事は、和光純薬時報 Vol.63 No.2(1995年4月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第19話 Es-Eappプロット
リムルス試験における試料の影響を知ることの重要性については、第 6 話から第 10 話でお話したとおりです。しかし、阻害促進試験において、試料にエンドトキシンが混入している場合、エンドトキシンの添加回収値の精度が悪くなり、試料の測定への影響を正確に知ることが難しくなります。
そこで今回は、筆者らが開発した、測定試料の影響の程度と試料中のエンドトキシン濃度を同時に推定する方法(Es-Eappプロット1,2))について紹介させていただきます。
とりあえずEs-Eappプロットの操作法について紹介しましょう。まず、各種濃度(通常、2 倍希釈系列を用います)のエンドトキシンを添加した試料溶液をトキシノメーターで測定します。次に、得られたゲル化時間より、常法通り作成したエンドトキシン濃度(Eapp)を求めます。添加したエンドトキシン濃度(Es)に対してEappをプロットし、その回帰式を求めれば操作は完了です。
Es-Eappプロットの回帰式の意味について考えてみましょう。
まず、「測定しようとするエンドトキシン濃度範囲で、試料が測定に与える影響は一定である」と仮定します。すなわち、試料が一定の活性出現率Rで測定に影響を与えるとすると、Eappは(1)式で表れます。
Eapp = R・E・・・・・・(1)
ここで、Eは試料中のエンドトキシン量です。
Eは、試料中にもともと混入していたエンドトキシン量(Ec)と添加したエンドトキシン量(Es)の和ですから、(1)式は次式となります。
Eapp = R・(Ec+Es)= R・Ec + R・Es・・・・・・(2)
一方、Es-Eappプロットの回帰式は(3)式のように表されます。
Eapp = a + b・Es・・・・・・(3)
仮定が成り立つとすると、(2)式と(3)式は同等と考えられますから、次式が得られます。
a = R・Ec・・・・・・(4)
b = R・・・・・・(5)
ここで、Rが試料の影響の程度を表しており、R = 1 のとき影響なしと考えられます。阻害と促進の判断はそれぞれの試験基準によって判断する必要があります。例えば、FDA ガイドラインを参考にして回収率 100±25% を影響なしとするのであれば、R>1.25 のとき促進、R<0.75 のとき阻害と判断できます。
もともと試料に混入していたエンドトキシン量は、a を b で割ることによって求めることがでいます。
実際に薬剤を使用してEs-Eappプロットを行った例を紹介しましょう。
図1 は、20% グルコースについて、エンドトキシン(0.1 EU/mL)を添加した場合としなかった場合のEs-Eappプロットを示しています。20% グルコースは、リムルス試験を阻害することが知られており、今回の結果でもRが約 0.2 となりました。
また、b / a を計算して、それぞれのエンドトキシン量を求めたところ、エンドトキシン無添加の場合 0.020 EU/mL、エンドトキシン添加の場合 0.115 EU/mL となり、その差は 0.095 EU/mL でした。この値は、エンドトキシン添加量(0.1 EU/mL)の 95% にあたり、強い阻害があるにも関わらず、添加したエンドトキシンを精度よく測定できたことになります。
また、エンドトキシン無添加の試料では、Es = 0 のときにゲル化時間が得られませんでしたが、試料中のエンドトキシン濃度を推定することができました。
このように、Es-Eappプロットを用いると、試料の影響を除かないまま、エンドトキシンの測定が可能です。また、検量線の直線性が悪かったり、添加するエンドトキシン濃度によって試料の影響の程度が異なっていたりする場合、回帰直線の直線性を検定することにより、この方法の妥当性を知ることができます。
Es-Eappプロットは、複数濃度のエンドトキシンを添加する必要があるため、ルーチン検査には適さないかもしれませんが、測定条件の検討時には非常に有用と考えられます。
参考文献
- 土谷正和 他:日本薬学会第110年会講演要旨集3, p.127 (1990).
- 土谷正和 他:防菌防黴誌, 18, 287 (1990).