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【連載】Talking of LAL「第6話 阻害と促進」

本記事は、和光純薬時報 Vol.60 No.1(1992年1月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第 6 話 阻害と促進

リムルステストにおける問題点の一つに、試料による測定への影響があります。現象としては、測定しようとする試料の影響で、エンドトキシン測定値が通常の測定値より低くなる場合(阻害)と高くなる場合(促進)が観察されます。試料の影響の機構は複雑でこれを明らかにすることは困難と思われますが、影響の受け方によってある程度の分類は可能と思われます。すなわち、影響を受けているのが LAL の活性化である場合、エンドトキシンの物性である場合、それ以外である場合です。

以下に、測定に影響を与える要因の例を示します。

①リムルス試薬の活性化に影響を与えるもの

プロテアーゼ、プロテアーゼ阻害剤、キレート剤、蛋白変性剤、界面活性剤、重金属等

②試料がエンドトキシンの物性に影響を与えるもの

金属イオン(鉄・アルミニウム等)、界面活性剤等

③主反応以外の測定系に影響を与えるもの

濁度、色、サルファ剤(合成基質法でジアゾ化する場合)等

その他、高濃度の塩類・糖類がリムルス試験を阻害することも知られております。また、リムルス試薬の活性化は酵素反応によって起こっており、pH や温度も測定に影響を与えます。

日本薬局方1)では、「試料溶液は、前述の反応の促進あるいは阻害がないことをあらかじめ確認しておく。」と試料の影響には言及していますが、その確認方法については記載がありません。そこで、この確認方法として参考になると思われるのが、米国薬局方2)及びリムルス試験のバリデーションに関する FDA ガイドライン3)です。これらに述べられている基本的な考え方は、資料の影響がなくなる条件を検索・立証した後、試験を行うというものです。

米国薬局方2)におけるゲル化転倒法を用いた阻害・促進試験では、測定しようとする試料溶液にエンドトキシンを添加してリムルステストを行ったとき、得られたゲル化エンドポイントが使用した LAL の表示感度の ±2 倍希釈以内であることを確かめ、試験の有効性を確認することになっております。FDA ガイドライン3)における比濁時間分析法並びに合成基質法では、検量線の直線性の確認及び検量線の最小濃度の 4 倍量のエンドトキシンを用いた、測定試料への添加回収(100±25%)試験を基本としております。これらの具体的な方法については、改めて紹介させていただきたいと考えております。

試料の影響を除き測定を行う場合、最もよく行われる方法は希釈でしょう。希釈を行うことにより、試料の影響を除くことは可能ですが、検出可能なエンドトキシン濃度は、希釈と共に高くなってしまいます。すなわち、エンドトキシン混入量の限界値が設定されている製品では、目的のエンドトキシン量を検出するために、希釈倍率を制限する必要があります。

米国薬局方では、エンドトキシン規定値の検出に許容される希釈倍率の最大値、MVD(Maximum Valid Dilution)を規定しております。MVD は、それぞれの物質に設定されたエンドトキシン規定値と、用いる試薬(測定方法)の感度によって計算することができます。試料は MVD を超えて希釈することはできません。

試料の影響を除くその他の方法としてクロマトグラフィー、限外ろ過等も考えられますが、これらの方法は試料ごとにその条件を設定する必要があり、特殊な場合を除いてあまり利用されていないようです。

参考文献

  1. 第十二改正日本薬局方, 一般試験法, 「7. エンドトキシン試験法」
  2. The United States Pharamacopeia 22th, The National Formulary 17th, p.1493-1495, Pharamacopeia Convention Inc., MD (1989).
  3. Guideline on validation of the Limulus amebocyte lysate test as an end-product endotoxin test for human and animal parenteral drugs, biological products, and medical devices, Food and Drug Adm. (1987).

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