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【テクニカルレポート】化粧品原料としてのヒト幹細胞培養液・エクソソーム

本記事は、和光純薬時報 Vol.91 No.2(2023年4月号)において、アンチエイジング株式会社 マテリアル事業部 藤田 英人様に執筆いただいたものです。

ヒト幹細胞培養液やエクソソーム入りの化粧品が販売されていることをご存知でしょうか?ある調査では化粧品原料として、一般消費者のヒト幹細胞培養液についての知名度は5割を超えています。

弊社はヒト幹細胞培養液を化粧品原料として販売している原料サプライヤーです。日本で初めて化粧品原料としてヒト幹細胞培養液を登録し、販売を開始したのが2012年で、エクソソームについては2019年から本格的に広報を開始しています。2020年よりエクソソーム表示を前面に打ち出した化粧品原料の供給を始め、2022年は多くの引き合いを頂いております。2022年は日本にヒト幹細胞培養液が持ち込まれてちょうど10年という節目の年でした。

化粧品としての始まり

ヒト幹細胞培養液という化粧品の始まりは韓国です。ご承知の通り2000年代初頭まで、韓国は脂肪由来幹細胞研究のトップランナーでした。研究だけではなく商業化も盛んに行われ、幹細胞バンクなどが設立されましたが、そうした商業利用の一つがヒト幹細胞培養液の化粧品です。当初はダーマローラーという細かい針のついたローラーで顔の皮膚に細かい穴を開けヒト幹細胞培養液を塗布していました。ヒト幹細胞培養液の機能性成分、EGFやFGFなどの成長因子は塗布だけでは皮膚に浸透しないため、このような方法で利用が始まりました。その後、リポソーム化されることで美容液やクリームといった一般的な化粧品に配合されるようになり、この頃に日本に導入されました。

ヒト幹細胞培養液の化粧品市場は、韓国、日本と米国の一部を中心に形成されています。その市場の中で様々な差別化が行われるようになります。幹細胞の由来もその一つです。現在の日本では、ヒト脂肪由来幹細胞の他に歯髄、骨髄、臍帯、臍帯血由来の幹細胞培養液が、化粧品原料として供給されています。その中で弊社は、安定して商業利用が可能で正当に入手できる脂肪由来幹細胞を使用して原料を製造しています(図1)。

図1.ヒト幹細胞培養液RemyStemの製造⼯程

こうした差別化の中で、現在最大の焦点となっているのがエクソソームです。弊社が差別化としてエクソソームの広報を開始した当初、インターネット上で一般向けにエクソソームについて情報発信しているサイトは、NHKぐらいでした。そうした状況の中、弊社が原料を調達している韓国のRemyBio社は、いち早く日本語でエクソソーム専門のHP(https://www.exosomes.jp/)を開設、線維芽細胞の老化マーカーSAβGALがエクソソームによって減少するなど、老化した線維芽細胞の若返りの実験結果を公開しました。それにより化粧品業界でもヒト幹細胞培養液に含まれるエクソソームという成分に大きな注目が集まることとなりました。

エクソソーム化粧品の進化

当初、エクソソームはヒト幹細胞培養液原料に含まれる成分として差別化の一要素でしたが、現在では弊社はエクソソームとヒト幹細胞培養液のリポソームを融合しハイブリッドエクソソームにした化粧品原料の提供も行っており、エクソソームはヒト幹細胞培養液の1成分という位置付けから、エクソソーム化粧品というジャンルに成長しつつあります。

エクソソームの広報を開始した当初は、弊社のヒト幹細胞培養液はエクソソームを通常よりも豊富に含んでいるという内容でしたが、現在ではそれをロスなく化粧品に配合できる、という点も大きな要素となっています。ご承知のようにエクソソームはガラスやプラスチックの容器に付着して収量が減じてしまいます。化粧品原料としても同様で、このロスを取り除くため、エクソソームの容器への付着を抑制するEXO-SAVEという技術を開発しました。この技術により、弊社の原料中のエクソソーム量が約7倍にも増加しました(図2)。

図2.EXO-SAVEを使⽤した時のエクソソームのCD63シグナル解析

エクソソーム化粧品の問題と未来

ヒト幹細胞培養液の化粧品原料としての表示名称(原料の正式な名称)は、いくつかありますが一例として弊社の場合「ヒト幹細胞順化培養液」となります。この名称の定義は「本品は、ヒト幹細胞を数日間培養した後、培養物から取り出した培養液です。出発培地は、Dulbecco's Modified Eagle Medium を用い、ウシ胎児血清の含有は問わない。」となります。通常の化粧品原料の場合、表示名称は構造式や分子量によって定義されますが、ヒト幹細胞培養液の場合は、培地中で幹細胞を数日培養し、幹細胞を取り除いた残りの培養液、という曖昧な物です。そのため、同じ表示名称の化粧品原料であるにも関わらず、提供する会社によってヒト幹細胞培養液の中身は全く違うものとなっています。

同様にエクソソームの表示名称は「ヒト脂肪由来間葉系細胞エクソソーム」になります。この定義は「本品は、ヒト脂肪由来の間葉系細胞より順化培養液中に分泌される小胞である。」というものです。この定義であれば、原料中にはエクソソームのみで構成されているように思われますが、実際には出発培地の成分や水分などが含まれており、具体的にエクソソームのサイズや数量、濃度(%)が規定されているわけでもありません。ましてや内包されているmiRNAや機能性については触れられてもいません。エクソソームの医薬品に向けての議論の中で、不均質が一つの問題となっていますが、化粧品の場合はその問題をそのままに、化粧品原料として供給されています。

医薬品と違い、この緩さによって化粧品原料として供給を開始することができるようになりました。しかし、その緩さに甘んじるだけでなく、ヒト幹細胞培養液のパイオニア企業として、そのエクソソームについても正確な測定を心がけ、皮膚への浸透や機能性についてもできる限り検証を行い、正確な情報発信とそれに伴う良質な原料の提供を行なっていこうと考えております。

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