【連載】幹細胞EV ~治療、診断、化粧品への展開~「第1 回 肝硬変症に対する間葉系幹細胞由来の細胞外小胞(エクソソーム)を用いた治療法の開発を目指して」
本記事は、和光純薬時報 Vol.90 No.3(2022年7月号)において、新潟大学大学院 医歯学総合研究科 消化器内科学分野 寺井 崇二様、土屋 淳紀様に執筆いただいたものです。
現在の再生細胞治療の開発状況
2003年に山口大学にて世界で初めての肝硬変症に対する"自己骨髄細胞投与療法"の臨床研究を開始した(臨床研究2003年11月14日開始)1-4)。基礎、臨床研究を通じて、自己骨髄細胞を投与することで肝硬変症の肝線維化が改善しそれに伴い肝硬変に肝再生が誘導されることを明らかにした。2017年よりは、非代償性肝硬変症に対して他家脂肪組織由来間葉系幹細胞投与療法を行い(企業治験)、現在さらに代償性肝硬変症に対する医師主導治験を実施している(図1)。
肝線維化改善、再生誘導に役立つ細胞
2015年よりは新潟大学にて骨髄中の有効細胞、肝線維化改善、再生誘導機序を明らかにすること、および新たに他家間葉系幹細胞の利用を目指した研究を開始した。その結果、肝硬変症モデルに対する治療の効果発現のメカニズムとして、末梢から投与された間葉系幹細胞は主に肺に遊走し、そこで"指揮細胞"として働き、マクロファージを抗炎症性型にし肝硬変部に誘導することで、抗炎症性マクロファージが"実働細胞"としての硬変肝の線維化改善、再生を誘導することが重要であることを基礎研究で明らかにした(図2)5-8)。肺に存在する間葉系幹細胞、また実働細胞として働くマクロファージをつなぐ分子として細胞外小胞(エクソソーム)に注目しさらに解析した。その結果、間葉系幹細胞、特にインターフェロンγ刺激をした間葉系幹細胞から分泌されるエクソソームがマクロファージを抗炎症性マクロファージに変化させ、肝線維化改善、肝再生誘導することが明らかになった9)。さらにこの細胞外小胞のみを肝硬変モデルに投与すると肝線維化は改善し、肝再生の誘導効果が明らかになった(図3)。
臨床へ向けての課題
細胞外小胞(エクソソーム)を用いた治療を行うため、日本再生医療学会の"エクソソーム等の調整、治療に関するWG委員"として、次世代のエクソソームを用いた治療法の開発も現在準備している。すでに指針等は公表しているが、基本的には過去に開発されてきた間葉系幹細胞等の培養過程、安全性を加味した上で実施していくことが基本になると考えられる。また臨床のProof of Concept(POC)を確立していくには細胞外小胞の量、質(内部の蛋白、miRNA)をいかに規定していくかも重要になる。すでに世界では耳鼻科領域でFirst in manも実施されている10)。図4は、将来の細胞外小胞(エクソソーム)治療のイメージで、細胞の組織修復を誘導するエクソソームを産生するデザイナー細胞を作製し、そこから細胞外小胞を大量に採取するか、あるいは産生するデザイナー細胞を投与するかの治療法になると考えられる。
参考文献
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