NMRの測定がうまくいかないときは?(その②)
本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しています。
生成物のシグナルが重なり、カップリング値や積分値が出せない場合はどうすればいいか?
他の重水素化溶媒を試してください。目的のピークが出てくることがあります。特に二重結合領域や芳香族領域に関心がある場合、benzene-d6を用いると良い結果を得られることがあります。
化合物がCDCl3に溶けない。どうすればいいか?
こちらも異なる重水素化溶媒を試してください。benzene-d6、acetone-d6、またmethanol-d4がファーストチョイスです。DMSO-d6も選択肢ですが、DMSO-d6は減圧条件下で簡単に除去できないので、測定後にfreeze dryするか、液-液抽出することになり少々面倒です。
1H-NMRを測定したが、得られたスペクトルが文献値と一致しない。どんな可能性があるか?
スペクトル間にわずかな違いしかない場合、サンプルの濃度が異なる可能性があります。濃度が濃い場合は、分子間相互作用がケミカルシフトに反映される場合もあります。また、化合物がアミンなどの場合は微妙なpHの違いによりNH周辺のケミカルシフトが変わる場合もあります。
交換可能なプロトン、例えばOHまたはNHを、アサインしたい場合はどうするか?
例えば、CDCl3溶液サンプルに1滴のD2Oを加え、数分間激しく振とうします。プロトンが交換され、ピークがスペクトルから消えます。methanol-d4でスペクトルを測定することもでも交換性のプロトンの消失が観測されます。
何時間も高真空でひいたが、酢酸エチルがスペクトルに残る。どうするか?
溶媒和物を形成している可能性があります。また、化合物がオイルの場合は、溶媒が残りやすいです。溶媒を取り除く一つの方法として、クロロホルムなどで共沸する方法があります。ただし、しっかり引かないとクロロホルムが今度は残ってしまうので、収率に影響します。
(追記:ジクロロメタンが残ったときは少量のメタノールを加えて濃縮すると、きれいになくなったことがあります。)
CDCl3のリファレンス値が、化合物の芳香族領域と被り、正確な積分にならない場合は?
acetone-d6でスペクトルを測定してみてください。若しくはTMSを入れておいてリファレンスを合わせてください。
精製後のTLCやLCMSは純品のはずだが、1H NMRが複雑になった。なぜか?
分離不可能なジアステレオマーの混合物である可能性があります。HPLCなどでも確認しましょう。回転異性体 (atropisomer) である場合は、NMRの昇温実験をしましょう。特に二級アミドや中員環化合物などの場合はこの可能性が高いです。
細心の注意を払ったにも関わらず、水のピークが大きすぎる場合は何が原因か?
NMR溶媒は、継続的な使用中に水がコンタミすることがあります。乾燥剤 (アルミナ、ゼオライト、Na2SO4など) で乾燥することができます。アンプルの重溶媒を用いて測定すれば確実です。または、CDCl3の場合D2Oを一滴入れ、振ったのちに測定すると低減されます。
スペクトルにアセトンのピークが残ってしまう原因は何か?
洗浄に使ったアセトンがチューブに残っている可能性があります。高真空下でしっかり乾燥しましょう。精度の高い測定を必要とするNMRチューブは決して熱をかけてはいけません。
ピークのbroadningを何とかしたい場合はどうすればいい?
シムの悪さ、均質ではないサンプル、濃すぎるサンプルなど、いくつかの要因がピークの拡大を引き起こします。これらのどれもが合理的に思えないならば、機器の調整も試みます。
Crude NMRが汚すぎるのは何が原因?
CrudeのNMRはとりあえず反応を確認するために測定することがありますが、最善の方法とは限りません。例えばByproductや、残存した試薬、ジアステレオマーの混入、DMFなどの高沸点の溶媒の残存によってスペクトルが複雑化します。他の手法 (LC-MSなど) も用いて目的物質の生成を確認するといいです。
NMRチューブがきれいに洗えない場合は?
洗い方は人それぞれ違ってくると思いますが、まずはアセトンを入れて超音波処理、そして、いろんな溶媒を試します。沸点の高い溶媒を入れて水浴で100度で加熱、超音波の繰り返しなどです。酸やアルカリ洗浄でも試してみる価値があります。