NMR

NMRスペクトルは、シグナルの化学シフト値、カップリングや分子内積分比などの情報から分子構造を推定することができるため、有機化学や天然物化学などの分野において、主に分子構造解析を目的とした定性分析に用いられています。磁場の中に置いた物質に電磁波を照射すると、物質中の原子核に特有な周波数の電磁波(ラジオ波)の吸収・放出が起こります。これを核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)といいます。NMR分光法(単にNMRともいう)は、その原子核の特性に基づき吸収する電磁波の周波数を、吸収ピーク強度の関数として記録する方法で、その記録がNMRスペクトルです。 実際の化合物では、同じ種類の(1Hや13Cなど)であってもその周囲の化学的環境が異なる場合には共鳴吸収が起こる周波数が異なります。これは、核の周辺にある電子や隣接する核による小磁場が主磁場を遮蔽する事でその磁場の強度が増減する事により起こります。こうして起こる共鳴周波数のずれを化学シフト(ケミカルシフト)といいます。この周波数のずれはわずかですが、このわずかなずれを精密に測定する事により化合物の情報が得られます。

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原理

磁場の中に置いた物質に電磁波を照射すると、物質中の原子核に特有な周波数の電磁波(ラジオ波)の吸収・放出が起こります。これを核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)といいます。NMR分光法(単にNMRともいう)は、その原子核の特性に基づき吸収する電磁波の周波数を、吸収ピーク強度の関数として記録する方法で、その記録がNMRスペクトルです。

NMRスペクトルから得られる情報

1.化学シフト(δ)

実際の化合物では同じ種類の核(1Hや13Cなど)であっても、その周囲の化学的環境が異なる場合には共鳴吸収が起こる周波数が異なります。これは、核の周辺にある電子や隣接する核による小磁場が主磁場を遮蔽することで、その磁場の強度が増減することにより起こります。こうして起こる共鳴周波数のずれを化学シフト(ケミカルシフト)といいます。この周波数のずれはわずかですが、このわずかなずれを精密に測定する事により化合物の情報が得られます。通常の1H NMR測定における化学シフト値は、テトラメチルシラン(TMS)のメチル基を基準(δ = 0)とした相対値として、ppmスケールで記録されます。過去の測定事例から、どのような部分構造がどのような化学シフト値を示すのかについても、だいたいの目安が知られており、化学シフトからその化合物の構造を特定することができます。

化学シフトの一般的な領域(数種のアルデヒド、エノール、大部分のカルボン酸はδ10よりも高周波数側で吸収を示します。)1)

2.カップリングとスピン結合定数(J)

化学的に非等価な核種同士が近傍に存在する時、両者は互いに影響しあって、エネルギー準位の分裂を生じます。この現象をカップリングといいます。1H NMRチャート上では、プロトンHaの隣にn個の等価プロトンHbが存在すると、Haのピーク山が(n+1)本に分裂して観測されます。それぞれのピークは、山の本数によって以下の記号で表記されます。

・一重線:シングレット(singlet, s)    ・二重線:ダブレット(doublet, d)    ・三重線:トリプレット(triplet, t)
・四重線:カルテット(quartet, q)   ・幅広線:ブロード(broad, br)

たとえば下記化合物においては、Haの隣には化学的等価なHbが3つ存在します。このためHaのピークは3+1=4本に分かれたカルテット(q)となります。逆にHbから見ると隣のHaは2つなので、Hbのピークは2+1=3本に分かれたトリプレット(t)となります。

CDCl3中のエタノール1)

またカップリングしたピーク山同士の間隔は、スピン結合定数(J 値)として記述されます。カップリングしている核種同士は、まったく同じ値のJ 値を共有しますので、J 値はどの核種同士が近接しているかを知る指標になります。J 値は以下の式で計算されます。

J (Hz) = 測定周波数 (Hz) x 化学シフト差分 (Δδ, ppm)

例: 500MHzの装置で1H NMRを測定し、化学シフト差分がΔδ= 0.015 ppmの場合、J 値は(500 x 106) x (0.015 x 10-6)= 7.5 Hzと計算できます。

3.ピーク面積

フーリエ変換後に得られる各ピークの面積値は、核種の存在比に対応しています。1H NMRの場合は定量性が高いため、積分比を求めることで、同一環境にあるプロトンの存在比を求めることができます。最近では、NMRの化合物中の原子核の数の比がピーク面積比に対応する特性を利用して、化合物の純度を求める定量NMR(qNMR)法が注目を集めています。

エタノールのNMRチャート2)



  1. 荒木峻 他:「有機化合物のスペクトルによる同定法(第7版)」(東京化学同人) (2006)
  2. 「qNMRプライマリーガイド」ワーキング・グループ:「qNMRプライマリーガイド 基礎から実践まで」(共立出版) (2015)

※本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しています。Chem-Stationについて