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NMRの測定がうまくいかないときは?(その①)

本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しています。

溶液量は十分か?

溶媒量が少なすぎる場合、シムコイルが過熱し、マシンの故障につながります。化合物量が少なく、厳しい測定が予想されたとしても溶媒量は一定以上を保ちましょう。低沸点溶媒を用いて長時間測定する時や温度可変測定の場合は、キャップにパラフィルムを巻くように推奨されることもあります。

サンプルの濃度は適切か?

低濃度のサンプルの場合、オートサンプラーなどで使われる自動のロックやシムがうまくいかないことがあるので注意が必要です。極端に濃度が薄い場合は、機器の管理者に相談の上、マニュアルロックやシムも考えましょう。NMRはMSなどと異なり、かなり感度の悪い測定方法であり、多量のサンプルを必要とします。サンプルが薄い場合、NS (number of scan) を上げる必要があり、時間もかかります。測定する化合物の量が充分な場合は十分な量を用いましょう。例えば、13Cでは20 mg - 30 mgもあればすぐに測定が終わります。

一方、サンプル濃度が高いと、粘度が高くなり、サンプルが不均一となりやすいため、局部的な磁場の環境が乱れてシグナルがブロードニングすることがあります。溶媒を変更するか、薄めるか、測定温度を上げるなどの解決策が考えられます。

析出物がないか?

析出物がある場合は、ろ過してから測定します。均一な溶液でない場合は、きれいなスペクトルが得られないことがあります。

サンプルチューブは問題ないか?

サンプルチューブに偏芯があったり、汚れている場合は局所磁場環境が不均一になります。そのようなチューブは廃棄すべきです。1H測定においては偏芯によるシグナルの不均一化をspinである程度抑制できるかもしれないですが、推奨できません。また、偏芯の原因となるのでNMRチューブの乾燥は加熱せず、高真空で乾燥しましょう。

ロックがかかっているか?

FT後、波状のシグナルとなった場合はロックが原因です。特にCD3ODなどの溶媒ではAuto Lockがかかりにくい場合があります。マニュアルロックも考えましょう。

測定後にサンプルが出てこない

サンプルが出てこない理由の一つとして、エアーフローが弱い、適切なサンプルホルダーを使っていない、測定途中のエラーなどの理由が考えられます。無理はせずに管理者に連絡しましょう。

標準サンプルで測定してみる

何をやっても測定がうまくいかない場合は標準サンプルを用いて、検証しましょう。それでもうまくいかない場合は管理者に連絡しましょう。

文献値と異なるチャートになった

溶媒の種類

もっともよくある例の一つが、溶媒の間違いです。測定に用いている溶媒が文献記載のものと同じであるかを確認しましょう。溶媒のシグナルも間違いに気づくきっかけになります。

pH

アミンやカルボン酸などの場合、文献値がフリーの化合物、塩であるか、塩であるならばその種類は同じであるか確認します。(アミンの場合、例えばTFA塩、FA塩、塩酸塩、トシル酸塩などカウンターアニオンによってシフト値が異なる可能性があります。もし、記述が無い場合は精製条件や結晶化条件などを確認しましょう。) さらに、NMRの溶液は同じpHかについても検討をしてみましょう。例えば、同じFA塩であっても、pHによりNMRシグナルは多少シフトすることがあります。

測定濃度

測定濃度は文献と同じであるか確認してみましょう。濃度があまりにも異なる場合は、化合物の二量体の形成などによって値が異なることがあります。(そのため、天然物の単離文献には濃度が記載されていることがよくあります。)

NMRシグナルが汚い

化合物がCDCl3に不安定な場合、例えばアセタールや、二級のTMSエーテル、グリコシル供与体、シリルエノールエーテルなどは微量の酸に不安定で測定前、若しくは測定中に分解している場合があります。その場合、C6D6やToluene-d8、またはDMSO-d6などで測定してみましょう。若しくは、Basic AluminaであらかじめCDCl3溶媒の酸を取り除くということも可能です。また、長時間測定 (13C若しくは2D) の後にもう一度、ns 2 (scan number = 2) ぐらいでも十分なので1Hを再度測定するようにシークエンスを組んでおくと、測定中に化合物が分解していないことが確認できるので便利です。

また、二級アミドや中員環を有する化合物、軸不斉を有する化合物などはRotermerとなりやすく、NMRではある一定の比率で一つであるはずのシグナルが二つに分かれる場合があります。そのような場合は、加熱実験など (VTNMR) が必要になります。

SN 比が悪い

測定環境や前の測定サンプルによって、設定がおかしくなっていたり、NMRプローブが汚れていたりという場合もあります。おかしいと思ったら、メンテナンスを依頼しましょう。

1H-NMRの場合は積分比犠牲にする可能性がありますが、測定時間 (aq) を短くするなどが手っ取り早い方法です。このaqを変えるという話ですが、注意が必要です。一般的なプロトンの緩和時間T1は0.5 - 4.0なので、あまりに小さい値を使いすぎると積分値を犠牲にすることがあります。ご注意ください。

13Cのシグナル数が足らない

TBS基 (tert-ブチルジメチルシリル基) など同じ官能基 (Me) のシグナルが複数重なっていないか、もう一度確認します。

4級炭素は緩和時間が長く、90度パルスをかけても、十分な時間をかけないと戻りきらないので緩和時間パラメーターを長くしたのちにもう一度測定しましょう。

1H NMRがブロードニングしている場合は、対応する13Cシグナルが観測されない場合があります。まず、NMR溶媒、濃度の検討やpHの変更を行い、できるだけ1Hのシグナルをシャープにすると、13Cシグナルも観測が可能となることがあります。

F (フッ素) が近傍に存在する場合は対応する13C-NMRシグナルがカップリングにより複数のカーボンシグナルに分裂するので、シグナルが比較的小さくなりがちです。シグナルを全て拾うためには比較的高いサンプル濃度での測定が要求される場合があります。

B (ホウ素) に直接結合した炭素は通常の13C測定条件では観測できないことが多く、HMBCによって13Cの位置を確定するか、測定のパラメーターを変更する必要があります。(カップリング反応に利用するボロン酸などは多くの場合、sp2 carbonなのでHMBCが必要です。)

その他

NMR用の細くて長いパスツールピペットが市販されています。サンプル回収でお困りの際は、購入を検討されてみてはいかがでしょうか?

オートサンプラーが常備されており、ルーティーン測定が数多くなされる場合は自分のサンプルと他人のサンプルが混ざってしまうということが良くあります。キャップの色を変える、キャップにマジックでマークするなど、分かりやすい工夫をしましょう。(他人が自分のサンプルを間違って持って行き捨てられる、というリスクを下げることができます。)

NMRは高価な実験機器です。トラブル時は、冷静に対処してください。解決策に自信が無い場合は必ず関係者に相談しましょう。

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