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【総説】光塩基発生剤を用いた UV アニオン硬化

本記事は、和光純薬時報 Vol.88 No.1(2020年1月号)において、富士フイルム和光純薬株式会社 機能性材料研究所 酒井 信彦が執筆したものです。

はじめに

光開始剤は、光照射によってさまざまな活性種が発生する化合物群の総称であり、塗料、インキ、接着剤、フォトレジストなど、さまざまな分野で活用されている。光開始剤は発生する活性種によって、①光ラジカル発生剤、②光酸発生剤、③光塩基発生剤(本稿では Photo Base Generator、以下 PBGと省略)に大別される。これらの活性種を用いた UV 硬化のうち、UV ラジカル硬化と UV カチオン硬化は古くから検討されており、迅速に硬化反応が進むことから生産性を高める点で非常に優れている。

しかし発生する活性種に起因する問題を種々抱えている。例えば UV ラジカル硬化は、発生するラジカルが空気中の酸素により失活されやすく、UV カチオン硬化は超強酸を活性種とするため、金属材料の周辺に使用した際に腐食が起こる可能性がある。

一方で PBG は、UV 照射によってアミンなどの有機塩基を発生する化合物であり、他の光開始剤が抱える問題点を克服しうる新たな材料として注目されている。PBG から発生する塩基は、ラジカルと異なり露光後も活性を維持するため、後硬化を進行させることが可能である。また強酸と異なり金属材料の腐食の心配がない(図 1)。

図1.光開始剤の比較

PBG が得意とする重合系

アクリレートのラジカル重合や強酸を触媒に用いたエポキシのカチオン重合は、同じ種類の官能基が連続的に反応して重合末端が伸長していく連鎖重合系であるのに対し、塩基の場合は官能基が 1 対 1 で反応して反応末端が閉じるいわゆる逐次重合系を得意としている。逐次重合には副生成物の生じない付加反応、水やアルコールなどの副生成物が生じる縮合反応がある。

付加反応では、求電子種として既に販売されているエポキシ、アクリレート、イソシアネートなどのモノマーを利用することができ、さまざまな求核種を反応させることで、既存の材料に新たな機能を付与することが可能である。

一方、縮合反応の代表例としては、シラノール含有ポリマーを前駆体として用い、無機骨格であるポリシロキサンを形成する反応が知られている。あらかじめ有機側鎖が導入されているシラノール前駆体を用いれば、有機成分と無機成分が均質に混ざり合った有機無機ハイブリッド材料を作製できる。また一部の PBG は、UV 照射によってラジカルと塩基を発生することから、2 つの異なった活性種を用いた硬化系も報告されている 1)

本稿では PBGを用いたさまざまな硬化系や新しい応用例について報告する。

エポキシ・チオール

エポキシ・チオール中に触媒量の塩基を発生させることで付加反応が促進される。WPBG-300 は、ほう素アニオンで安定化されており、エポキシ中でも安定に存在できる。WPBG-300 自体は、長波長域に吸収帯を有さないが、各種増感剤を併用することで、365nmなどの光源にも感光が可能となる。

2 官能エポキシオリゴマーと 4 官能チオール中に WPBG-300 と光増感剤のニフェジピンを添加し、基材に塗布したのち UV-LED 365nm を照射することで室温にてゆっくりと硬化が進行する(図 2)。

WPBG-300 10部(富士フイルム和光純薬(株)製)、ニフェジピン0.8部、
jER®828(エポキシ当量185、三菱ケミカル(株)製)100部を混合後、加温もしくは希釈剤で混合。
室温でペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(SH当量122)65部を加えて混合。
基板に塗布後、UV-LED 365nm 60秒照射(面照度:300mW/cm2(365nm))。
室温放置で約60分で硬化(100℃であれば約1分で硬化)。
図2.エポキシオリゴマーと多官能チオールによる UV アニオン硬化

エポキシ・チオール系は、硬化物の密着性が優れる点、適度な柔軟性を有する点、硬化に高温・長時間を必要としない点から UV 後硬化型接着剤としての応用展開が期待されている。種々のパラメータ(露光時間、露光後加熱の有無)によって硬化時間の調整が可能であることから、塗工~貼り合わせに時間を要する部材、被着体が高温に弱いプラスチック、UV を透過しない材料、複雑形状の材料の組み立てに適していると考えられる。

イソシアネート・チオール

イソシアネート類は、求電子剤としては非常に反応性が高く、チオール化合物と混和後に塩基を発生させると迅速に硬化が進行する。前述の WPBG300 は、少ない添加量でも硬化が可能であり、UV 照射後、室温 10 分程度で硬化が進行する(図 3)。

WPBG-300 0.20部(富士フイルム和光純薬(株)製)、2-イソプロピルチオキサントン 0.04部、
ヘキサメチレンジイソシアネート 68部を混合。
室温でペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(SH当量122)122部を加えて混合。
基板に塗布後、高圧水銀灯 60秒照射(面照度:50mW/cm2(365nm))。
室温放置で約10分で硬化。
図3.イソシアネートと多官能チオールによる UV アニオン硬化

本組成は必要な原料がすべて試薬レベルで入手可能であり、UV 光源さえあれば、気軽に UV アニオン硬化を試すことができる。ただし本組成は安定性に欠けることから、使用直前の 2 液の混合や保存安定剤(スルホン酸類)の添加及び冷凍保管が必須である。現在、UV クリアコーティングへの応用が検討されている。

シラノール

アルコキシシリル基を有する化合物の加水分解によって生じるシラノールは、縮合が進行することによってシロキサンとなる。シロキサンは、強固な Si-O-Si 結合で耐候性にも優れることから幅広く応用されている。

一般的にシラノールの縮合は、酸触媒では反応速度が遅く、塩基触媒の方が反応速度が速い。シラノール樹脂中に、嵩高い有機側鎖が含まれると、シラノール同士の重縮合が進みにくくなる。立体的に嵩高い置換基の付いたシラノールの脱水縮合では、アミンの塩基性度が低いと触媒として十分な機能を果たさないため、強塩基を発生する PBG が好ましい。

メチルフェニルシリコーンレジンである KR-300(信越化学工業(株)製)は、立体的に嵩高いフェニル基を有するシラノール含有ポリマーであり、完全硬化させる場合、触媒を無添加の状態では 250℃/60 分が必要である。KR-300 に WPBG-266 を加えて露光することで、硬化温度を低下させ、短時間で硬化が可能となる。

得られた硬化膜の 200℃における熱重量変化を測定すると、メーカーが推奨する条件で熱硬化させて得られた硬化物とほぼ同等の値であったことから、十分な重縮合が進行していると示唆された(図 4)。

熱硬化 UV+熱硬化
WPBG-266 5部
KR-300 100部 100部
露光 10秒
加熱 250℃/60分注) 150℃/5分
熱重量測定(200℃) -0.34% -0.26%

注)メーカー推奨硬化条件

図4.WPBG-266 を用いたシラノール含有樹脂の硬化促進

ビニルスルホン誘導体

ビニルスルホンは優れた求電子体として作用し、さまざまな求核剤と反応する。ビスビニルスルホン誘導体VS-C は、スルホンとアミドの間に活性プロトンを有する炭素が存在している。そのため、触媒量の塩基が存在することで VS-C 自体が単独で架橋してゲル化する。

分子内に求核種と求電子種が共存しているため当量数を合わせる必要がない。ビニルスルホンはラジカル重合性も有していることから、従来の UV ラジカル硬化系へ添加することで UV 照射のみでは表面が硬化しにくい系において、表面硬化性を改善できる。本系には UV 照射によってラジカルと塩基が発生する WPBG-266 が使用できる(図 5)。また VS-C は、水溶性を有しており水系組成にも適用可能である。

VS-C 25部、4-アクリロイルモルホリン(富士フイルム和光純薬(株)製[コードNo.018-12072])100部を加えて加温して溶解。
WPBG-266(富士フイルム和光純薬(株)製)2.5部を添加して基板上に塗工。
UV-LED 10秒照射(100mW/cm2(365nm))。

※酸素によってラジカル重合が阻害され、表面にベトツキが残ってしまった場合
100℃/1~10分加温することで硬化。
図5.ビスビニルスルホン誘導体 VS-C を用いた UV 硬化

光潜在化Redoxフロンタル重合

有機過酸化物は、アミンのような還元性のある化合物と反応すると分解してラジカルが発生する。ベンゾイルパーオキシド(BPO)存在下、PBG から塩基を発生させると酸化還元反応が起こりラジカルが生じる。周囲にアクリレートモノマーが存在するとラジカル重合を開始するが、この際に発生する重合熱によってさらに BPO の分解が進行して、露光部分から未露光部分へと重合界面が移動する「フロンタル重合」が進行する 2)

通常の UV ラジカル硬化は、UV 照射部分しか硬化しないが、本系であれば影部分や未露光部分の硬化が可能となる。Redoxフロンタル重合には WPBG-345 を使用することができる(図 6)。

図6.PBG と BPO を用いたアクリレートの光潜在化 Redox フロンタル重合

おわりに

近年では、中国や欧州において PBGを活用した研究が活発化しており、本稿で紹介した以外にもさまざまな応用事例が開拓されつつある。今後も、新たな PBG の開発を通して、科学技術の振興と学術研究の進展に寄与し、人々の豊かな暮らしに貢献していきたい。

参考文献

  1. Shin, J. et al. : Chem. Mater., 22, 2616 (2010).
  2. He, M. et al. : J. Polym. Sci., Part A Polym. Chem., 51, 4515 (2013).

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