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尿中L-FABPは自然発症2型糖尿病モデルラットにおける腎微小循環の血流量低下と虚血状態を反映する

本記事は、シミックホールディングス株式会社が編集する「非臨床 News Letter L-FABP No.1」をもとに掲載しています。

試験背景および目的

図1 ヒト尿細管周囲の血流と尿中L-FABPとの相関関係
図1 ヒト尿細管周囲の血流と尿中L-FABPとの相関関係

近年多くの糖尿病治療薬が開発され、腎疾患などの糖尿病合併症に対する改善効果が期待されている。しかしながら未だ糖尿病性腎臓病(DKD)は世界的に腎疾患発症の主要因の一つであり、集学的な治療戦略の開発が求められているのが現状である。DKDにおいて尿細管間質障害がその進展に大きく関わるとされ、また腎臓における虚血状態はその尿細管間質障害の増悪因子の一つであるとされる。このような背景から、尿細管間質障害とともに腎虚血状態を反映するバイオマーカーがDKDのモニタリング評価に有用であると考えられる。

尿中L-FABPは、DKDを含むヒトの慢性腎疾患における尿細管間質障害の程度を精度よく反映するバイオマーカーとしてこれまで数多くの知見が示され、2011年に保険収載されている。また急性腎障害においてもその有用性が示されており、診療ガイドラインにも収載される検査項目である。尿中L-FABPは腎移植手術のドナー腎においてその微小循環における血流量と明らかな関係性を示すこと(図1)や、定期的な運動により腎内血行動態が改善され尿中L-FABPを低下させうること、またヒト検体およびヒトL-FABP染色体遺伝子導入マウスを用いた多くの腎障害モデル試験から尿中L-FABPの上昇が腎臓における虚血や酸化ストレスと強く関連することが既に知られている。しかしながらDKDにおいては、実際に腎血流を測定した結果と尿中L-FABP排泄量の関係性を直接的に示す報告はない。本論文ではあらたに、ヒトに近い病態を示すとされ近年糖尿病合併症などの治療薬開発にも頻繁に用いられる自然発症2型糖尿病モデルラット:SDT fatty ratを用い、DKDにおける腎虚血状態および腎血流と、尿中L-FABPとの関係性について検討した。

対象と方法

2型糖尿病モデルであるSDT fatty rat(雄、n=6)と、コントロールとして同一週齢のSD rat(雄、n=8)を供試した。24週齢時点での尿、血清、腎臓を採取し、サンプル採取直前に、明治大学理工学部小野弓絵先生らが開発した拡散相関分光法(Diffuse Correlation Spectroscopy; DCS)装置により腎皮質髄質移行部の腎微小循環血流量指数(Microvascular blood flow index; BFI)を計測した。尿中L-FABP測定値とBFI計測値、腎組織障害の程度、また腎組織中の虚血指標との相関関係を評価した。

結果

SDT fatty ratでは肥満や高血糖、高血圧症状が認められ、さらにSDラットと比して明らかな糸球体硬化症や間質性炎症、腎線維化が確認された。尿細管周囲毛細血管数やeNOS活性には両系統による差は認められなかった。また腎組織内におけるVEGF発現にも差を認めなかったが、腎組織中の虚血指標としてのHIF-1αの発現はSDT fatty ratにおいて有意に高値であった。尿中L-FABPはSDT fatty ratにおいて有意に高値を示し(図2)、BFIは有意に低値を示した。尿中L-FABPは腎組織障害の程度やHIF-1α発現量と正の相関を示し(図3)、BFIとは負の相関を示した(図4)。またHIF-1α発現量とBFIも負の相関を示した(図5)。

図2 尿中L-FABP測定値 図3 腎組織内HIF-1α発現量および尿中L-FABP測定値との相関関係 図3 腎組織内HIF-1α発現量および尿中L-FABP測定値との相関関係
図2 尿中L-FABP測定値(文献内Figure1より改変)
**P <0.01
図3 腎組織内HIF-1α発現量および尿中L-FABP測定値との相関関係(文献内Figure5および6より改変)
*P <0.05, **P <0.01
図4 BFI計測値および尿中L-FABP測定値との相関関係 図4 BFI計測値および尿中L-FABP測定値との相関関係 図5 腎組織内HIF-1α発現量とBFI計測値との相関関係
図4 BFI計測値および尿中L-FABP測定値との相関関係 (文献内Figure7および8より改変)
*P <0.05
図5 腎組織内HIF-1α発現量とBFI計測値との相関関係 (文献内Figure8より改変)
*P <0.05

結論

尿中L-FABPは2型糖尿病モデルラットに合併するDKDにおいて、腎血流量の低下および腎低酸素状態を反映することが明らかとなった。尿中L-FABPはヒト臨床検体を用いた既報に加え、DKDの腎虚血を反映するモニタリングマーカーとして有用であると考えられた。

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出典

The possibility of urinary L-type fatty acid binding protein as a biomarker of renal hypoxia in spontaneously diabetic Torii fatty rats.
Kidney and Blood Pressure Research. 2019.
J. Tanabe, Y. Ogura, M. Nakabayashi, Y. Nagai, S. Watanabe. T. Sugaya, K. Ohata, D. Ichikawa. K. Inoue, S.Hoshino, K. Kimura, Y. Shibagaki, Y. Ono, A. Kamijo-Ikemori.

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