siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

【クロマトQ&A】HPLCの移動相条件であらかじめ溶出挙動を推定する方法はありますか。

本記事は、Analytical Circle No.11(1998年12月号)に掲載されたものです。

HPLCの移動相条件を検討しています。溶媒を変えて検討しようと思うのですが、あらかじめ溶出挙動を推定する方法はありますか。

溶質(試料)の溶出挙動に影響を与える移動相の要素として、極性、pHなどがあげられますが、今回は極性の影響についてみてみたいと思います。

HPLCのことならこちらの記事も

図1 順相系と逆相系クロマトグラフィーの溶出挙動

順相系液体クロマトグラフィー(LC)では、移動相の極性が固定相の極性より小さいので、極性の小さい試料成分ほどキャパシティー比k'が小さくなり早く溶出します。逆にODSをはじめとする逆相系LCでは、移動相の極性が固定相の極性より大きいので、極性の大きい試料成分ほどk'が小さくなり早く溶出します(図1)。

移動相溶媒の極性については各種指標が用いられております。代表的な移動相溶媒の極性に関する指標を表1に示します1)。このように溶媒を変えると、移動相の極性を変化させることができるのがわかります。

表1 移動相溶媒の極性に関する指標
溶媒 アルミナに対する
溶媒強度
(ε°)
Hildebrandの
溶解度パラメーター
(δ)
Snyderの
極性パラメーター
(P')
溶媒強度
(S)
ヘキサン 0.01 - 0.1 -
シクロヘキサン 0.04 8.2 -0.2 -
トルエン 0.29 8.9 2.4 -
ベンゼン 0.32 9.2 2.7 -
エチルエーテル 0.38 7.4 2.8 -
クロロホルム 0.40 9.3 4.1 -
塩化エチレン
(ジクロロメタン)
0.42 9.7 3.1 -
テトラヒドロフラン 0.45 - 4.0 4.4
メチルエチルケトン
(エチルメチルケトン)
0.51 9.3 4.7 -
アセトン 0.56 9.9 5.1 -
ジオキサン 0.56 10.0 5.8 -
酢酸エチル 0.58 9.6 4.4 -
酢酸メチル 0.60 - - -
ジメチルスルホキシド 0.62 - 7.2 -
ジエチルアミン 0.63 - - -
アセトニトリル 0.65 11.7 5.8 3.1
ピリジン 0.71 10.7 5.3 -
イソプロパノール 0.82 11.5 3.9 4.2
プロパノール 0.82 11.5 4.0 -
エタノール 0.88 12.7 4.3 3.6
メタノール 0.95 14.4 5.1 3.0
エチレングリコール 1.11 - 6.9 -
酢酸 - 6.0 -
21 10.2 0.0

移動相の極性を変更した時の溶質の溶出挙動ですが、表1のSnyderの極性パラメーターP'をキャパシティー比k'と指数関係式で近似的に関連付けた次式から推定できます。

順相系:k'2/k'1=10(P1'-P2')/2
逆相系:k'2/k'1=10(P2'-P1')/2

  • k'1,k'2は溶媒の組成変更前後におけるk'
  • P1',P2'は組成変更前後におけるP'

例えば、逆相系で移動相溶媒をアセトニトリルからメタノールに変更した場合、アセトニトリルおよびメタノールに対するP'の値を関係式に代入すると、

k'2/k'1=10(5.1-5.8)/2=10-0.35

となるので、k'は約0.45倍に減少することになります。

つまりある移動相でのk'がわかっていれば、移動相溶媒を変更した時のk'が推定できることがわかります。ただ、実際の分析では単一の溶媒のみより、複数の溶媒からなる混合溶媒が用いられる事が多いと思われます。この場合のP'は次式によって求められます。

P'=φAP'A+φBP'B+......

  • φA、φB...は混合に用いた溶媒の容量分率
  • P'A、P'B...は混合に用いた溶媒のP'

例えば、アセトニトリル-水の混合系で組成比を=40/60(V/V)(①)から50/50(V/V)(②)に変えた場合、移動相①のP' (P'1)は

P'1=0.4 x 5.8+0.6 x 10.2=8.44

また移動相②のP' (P'2)は

P'2=0.5 x 5.8+0.5 x 10.2=8.00

で、P'2-P'1は-0.44となるので、k'は約0.6倍になることが予測されます。

溶媒強度ε°

Snyderはアルミナを吸着剤としたときの吸着剤の単位面積当りの溶媒の吸着エネルギーに対応する値を計算で求め、ペンタンを基準値0とした溶媒強度ε°を提案した。

溶解度パラメーターδ

Hildebrandは液体分子の凝集エネルギーEと分子容Vとによってδ=(E/V)1/2で与えられる溶解度パラメーターを定義し、δ値が大きいほど強い溶媒であることを示した。

極性パラメーターP'

SnyderはRohrschneiderの実験データをもとにプロトン供与性、プロトン受容性および双極子の寄与が含まれた溶媒の極性パラメーターP'を計算して提案した。P'はk'および選択性の調節の指標となる。

Snyderの溶媒強度S

Snyderらは逆相系分配クロマトグラフィーのk'の調節の指標となる経験的な溶媒強度パラメーターSを求めている。

HPLCのことならこちらの記事も

参考文献

  1. 日本分析化学会 関東支部編:「高速液体クロマトグラフィーハンドブック」(丸善)、(1985)

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。