【テクニカルレポート】HPLC 法における短時間分析について
本記事は、和光純薬時報 Vol.63 No.3(1995年7月号)において、和光純薬工業 大阪研究所 上森 仁志が執筆したものです。
ここ10年近くHPLC用充填剤の研究開発と応用に携わっており、実際にHPLCを使用する機会も多い。この時何時も思うことは、もっと短時間分析できないか?ということである。通常のHPLC分析に要する時間は速くても10分/検体程度であり、臨床検査分野における自動分析装置の検体処理スピードに比べてその差は歴然としている。
もちろん両者を比べること自体が無意味であることは言うまでもないが、1回の測定から得られる情報量はHPLC法の方が圧倒的に多いため、さらなる短時間分析が達成できるなら、そのメリットは大きいものと推定される。短時間分析に関わる要因として、もちろん流速、あるいは分析温度も挙げられるが、(1)カラムサイズを小さくする、(2)逆相充填剤ならアルキル鎖長を短くする、が決定的な要因と思われる。
項目(1)に関して、筆者らは先に 3 µm ODS シリカゲル充填剤を用いる迅速分析について、本誌 Vol.61, No.1 (1993) に紹介した。繰返しにはなるが図1 にヘアートニック中の酢酸dl-α-トコフェロールの分析比較を示した。
Chromatogram
A : 5 µm ODS(4.6φ x 150 mm), Press, 42 kg/cm2
B : 3 µm ODS(4.6φ x 50 mm), Press, 35 kg/cm2
Peaks
1) n-Hexadecanophenone (Internal standard)
2) di-α-Tocopherol Acetate
[ Conditions ]
Eluent : CH3OH
Flow rate : 1.0 mL/min. at Ambient
Detection : UV 280 nm, 0.04 AUFS
Sample Pretreatment
Weigh sample 1 g
↓
Add 2.0 mL of n-Hexadecanophenone soln. (1 mg/mL C2H5OH)
↓
Add CH3OH → 50 mL
↓
Shake vigorously
↓
Injection of 20 µL
充填剤の粒子径を小さくしカラムの性能を向上させ、その分だけカラムサイズを小さくし短時間分析を試みた例であり、実際に分析時間は約 1/3 に短縮されている。今回アルキル鎖長の影響について(過去に多くの研究者により報告されているが)再検討を試みた。
その結果、C8充填剤はODS充填剤に比べ、特に疎水性化合物の保持を減少させる効果があり短時間分析には適していた。ODS充填剤を用いて短時間分析を行う場合にはグラジエント法が利用されている。しかし高感度に分析は達成されるものの、分析終了後に初期条件への平衡化が必要となり、1サイクル当りの分析時間の短縮にはならない。ところが、C8充填剤を使用すれば、これらの問題もなく真に短時間分析が達成されることになる。その時の状況を図2 に示した。
[ Conditions ]
Sample :
1) Protriptyline HCl
2) Nortriptyline HCl
3) Doxepin HCl
4) Imipramine HCl
5) Amitriptyline HCl
6) Trimipramine Maleate
Flow rate : 1.0 mL/min. at 40 ℃
Detection : UV 254 nm, 0.128 AUFS
(Isocratic mode)
Eluent : CH3CN / 20 mM KH2PO4, K2HPO4 (pH6.5) = 40 / 60 (v/v)
(Linear gradient mode)
Eluent :
A ; CH3CN / 20mM KH2PO4, K2HPO4 (pH6.5) = 40 / 60 (v/v)
B ; CH3CN / 20 mM KH2PO4, K2HPO4 (pH6.5) = 60 / 40 (v/v)
0 → 13 min. B = 0 → 100%
以上短時間分析について述べたが、検体当りの分析時間の短縮は、検体処理能力の改善と溶媒使用量の低減など大きなメリットを生むものと推察される。
図2 の分析にはRSタイプの充填剤を使用したが、塩基性強度の高い三環性抗うつ薬をピークテーリングもなく分析できることを付け加えたい。