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【連載】Talking of LAL「第37話 リムルス試薬の活性化に伴う反応タイムコース」

本記事は、和光純薬時報 Vol.67 No.4(1999年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第37話 リムルス試薬の活性化に伴う反応タイムコース

リムルス試薬(LAL)のゲル化は、複数のプロテアーゼ前駆体の活性化を伴うカスケード機構によって起こります1)。トキシノメーターを用いた比濁時間分析法では、このゲル化の過程を観察しています。この反応タイムコースは特長的な形状をしているのですが、今回はその意味について考えてみたいと思います。

トキシノメーターに表示される反応タイムコースを観ていると、次のことに気がつきます。すなわち、反応にはラグがあり、透過光量が減少し始めると徐々にその変化率が大きくなり、最終的には変化率の減少とともに一定の透過光量に落ち着くという現象です。トキシノメーターではゲルの生成を観察していると考えられます。

それでは、リムルス試験におけるゲルの生成は、必ずラグを持つタイムコースになるのでしょうか。この点に関して、LAL のカスケード機構から考えてみましょう。

図1.リムルス試験の原理

LALのゲル化は、図1のように複数のプロテアーゼ前駆体が順次活性化され、最終的に生成する Coagulin が重合することによって起こります。Coagulin の生成過程における、各因子の活性の変化を考えてみましょう。

エンドトキシンによる LAL の活性化では、まず Factor C が活性化されます。活性化型 Factor C の量が反応液中のエンドトキシン量に比例すると仮定すると、その活性は、ごく短い時間で一定となります。

次に、Factor B はほぼ一定量の活性化型 Factor C によって活性化されることになりますから、活性化型 Factor B の生成速度は、初期に最大となりますが、基質となる Factor B の減少と活性化型の Factor B の増加により徐々に減少し、ついには生成が止まると予想されます。

次に出現する Clotting enzyme はどのような挙動を示すでしょうか。Factor B の場合と違い、Proclotting enzyme を水解する活性化型 Factor B の量が変化しますから、Clotting enzyme の生成量の変化は少し複雑です。活性化型 Factor B 量が徐々に増加する初期には、Clotting enzyme の生成速度が徐々に速くなることになります。

この生成速度は、活性化型 Factor B 量が一定になったところで最大になり、その後、基質である Proclotting enzyme 量の減少と生成物である Clotting enzyme の増加により徐々に減少、最終的に生成が止まるということになります。Clotting enzyme の生成量のタイムコースを予想すると、初期にラグがあり、活性出現初期には下に膨らんだ形状、後期には上に膨らんだ形状となった後、一定になると思われます。

図2.リムルス試験における各活性化型因子の経時的変化

さらに、Coagulin の生成を考えてみると、タイムコースの形状自体は同様ですが、ラグはさらに長くなると思われます。図2 は、これらの活性化型因子の生成タイムコースの予想図です。トキシノメーターの場合、ゲルの量を透過光量の減少として観察しますから、タイムコースの形は上下逆になります。

以前筆者らは、この反応タイムコースの特長がエンドトキシンと β-グルカンで異なることを報告しました2)。すなわち、エンドトキシンの場合は、ラグが長く、濁度変化が急激に起こるのですが、β-グルカンの場合は、ラグが比較的短く、濁度変化も緩やかに起こるというものです。

このことも、LAL のカスケード機構で、β-グルカンによるゲル化の系は、エンドトキシンに比べ、関連する因子が 1 つ少ないということから理解できると思われます。

いずれにしても、リムルス試験では、比濁時間分析法、合成基質法に関わらず、反応系の最終生成物のタイムコースはラグを持つことが予想されます。そして、これは実際の測定で観察されている通りです。すなわち、ラグのない反応タイムコースが認められた場合は、エンドトキシンや β-グルカンによる LAL の活性化とは異なる変化を観察しているということになります。

比濁時間分析法の場合、反応液の初期の透過光量を 100% として測定を始めるため、試料が少々濁っていても測定中に濁度変化が起こらなければ、測定値に影響はありません。しかし、筆者らもまれにラグのないタイムコースを観察することがあるので、新しい種類の試料を測定する場合にはタイムコースの観察も重要です。

異常タイムコースについては、次回に詳しく考えてみたいと思います。

参考文献

  1. Iwanaga, S. et al. : Thromb. Res., 68, 1-32 (1992).
  2. Tsuchiya, M. et al. : Chem. Pharm. Bull., 38, 2523-2526 (1990).

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