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【連載】Talking of LAL「第1話 LAL(Limulus amebocyte lysate)」

本記事は、Wako News No.1 (1990年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

プロローグ

Levin と Bang がカブトガニの血球抽出物(Limulus amebocyte lysate, LAL)がエンドトキシンによって凝固することを発見して以来1)、この現象を利用したリムルステストは、エンドトキシンの検出に利用されてまいりましたが、その感度、方法の改良によって、近年さらに広い分野で利用されております。

当社におきましては、LAL を販売するとともに、その使用方法についても研究開発を行ってまいりました。筆者のグループは、エンドトキシンの調製やリムルステストの手法の研究を担当しており、LAL 試薬の社内ユーザーといった性質も持ち合わせております。また、多くのユーザーの方々から問い合わせや検討依頼等を戴き、リムルステストの応用に関して数多くの経験を重ねてまいりました。

このシリーズでは、ユーザーの皆様にリムルステストに関する情報を提供するとともに、我々のユーザーとしての経験や手法を紹介したいと考えております。

今回は、リムルステストにあまりなじみのない方々のために LAL の話から始めたいと思います。

第1話 LAL(Limulus amebocyte lysate)

カブトガニの血球は amebocyte と呼ばれています。amebocyte はクリーム色で球状の細胞ですが、体外に取り出すと変形、崩壊し、いかにもアメーバのように広がり、細胞内の顆粒を放出する様子がみられます。これを凝集しないように集めて、水を加え、細胞の内容物を抽出したものが LAL というわけです。

カブトガニの血液が凝固することに関しては、1885年、すでに Howell によって報告されています2)。そして、1964年に Levin と Bang がエントドキシンによって LAL の凝固が引き起こされることを発見して以来1)、この現象を利用したリムルステストはエンドトキシンの検出方法として急速に広まってきたのです。

その機構は主に岩永らのグループによって明らかにされました3)。彼らが明らかにした LAL 活性化のカスケード機構は、エンドトキシンによって LAL 中に含まれるセリンプロテアーゼが順次活性化され、最後に coagulogen の分解により coaglin が生じ、ゲルを形成するというもので、実際に ng から pg オーダーのエンドトキシンによって LAL のゲル化が観察されます。

彼らは、さらに、エンドトキシンによる活性化系のみならずβ-1,3-グルカンによる活性化系が LAL 中に存在することを明らかにしました。β-1,3-グルカンはカビ、酵母、植物などに一般に含まれており、試料への混入が容易に想像されたため、LAL の特異性が問題となり、エンドトキシンに対する特異的試薬が要望されることになった訳です。

この問題については、またの機会にゆずることに致しますが、すでに、エンドスペシー(生化学工業)及びリムルス-ES Test Wako (和光純薬)といった、エンドトキシン特異的試薬が市販されております。

従来より、医薬品の発熱性試験としてはウサギ発熱性試験が主に用いられてきました。ところが、エンドトキシンが発熱性物質の代表格であることから、リムルステストをウサギ発熱性試験の代用とする考えが生まれてきました。米国では、早くからリムルステストを公定法として採用しようとする動きがみられ、1980年すでに US Pharmacopeia XX に として収載されております。日本でも 1988 年、日本薬局方に「エンドトキシン試験法」としてリムルステストが収載されました。

現在、この試験法が適用される品目は多くはありませんが、今後ウサギ発熱性試験に代わってリムルステストを適用する品目が増えてくるものと思われます。さらに、医薬品、医療器具の検査の他、臨床的に LAL を応用することも考えられております。

参考文献

  1. Levin, J. and Bang, F. B. : Bull. Johns Hopking Hosp., 115, 265 (1964).
  2. Howell, W. H. : Johns Hopking Univ. Circ., 5, 4 (1885).
  3. 中村隆範ら:日本細菌学雑誌., 88, 781 (1983).

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