【連載】Talking of LAL「第13話 カブトガニ」
本記事は、和光純薬時報 Vol.61 No.4(1993年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第13話 カブトガニ
LAL がカブトガニの血球から調製されることについては、すでにお話しました。今回は、少し趣向を変えてカブトガニ類について紹介したいと思います。
カブトガニ類は「生きている化石」とも呼ばれ、約 2 億年前から、その姿をほとんど変えず生きてきたことが知られています。このカブトガニの先祖は、クモやサソリと同じく、約 6 億年前に始まる古生代に生息した三葉虫であると言われております。従って、カブトガニは、カニよりもクモやサソリに近い動物として知られています。
恐竜時代として知られるジュラ紀の地層から発見されたメソリムルスというカブトガニ類は現在のものとほとんど同じ形をしており、「約 2 億年の間姿を変えていないカブトガニ」のイメージはこの事実に由来しているように思われます(ジュラシックパークにもカブトガニがいるかもしれません。)もっとも、4 億年前あたりから現在のカブトガニを連想させるような種が出てきていますから、カブトガニの歴史を 4 億年、3 億年と言う人もいるわけです。
現在生存しているカブトガニ類は 4 種(アメリカカブトガニ、カブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニ)です。化石はヨーロッパでも発見されているにも関わらず、現在の生息地は世界の大陸の東海岸域に限られています。アメリカカブトガニは北米大陸東側沿岸、その他の 3 種はアジア大陸の東南海域に生息しています。
この中で、実際に商品としての LAL 製造に用いられているのは、アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)とカブトガニ(Tachypleus tridentatus)の 2 種です。リムルス試薬(LAL)の名前の由来は、アメリカカブトガニの学名なのです。弊社のリムルス試薬もアメリカカブトガニ由来です。
カブトガニは不思議な生き物です。LAL を製造するために、カブトガニから採血を行います。採血は、心臓に直接注射針を刺して行います。血液が自然に出なくなった後、海に帰してやると、ほとんどのカブトガニは死なないようです。カブトガニの循環系は開放血管系になっており、心臓の血液(血リンパ)がほとんどなくなっても、体内にはかなりの量の血液が残っているためかもしれません。とにかく、LAL は、カブトガニの献血によって成り立っていると言っても過言ではないでしょう。
カブトガニの血は、体内では白い色をしていますが、空気に触れると青色に変化します。これは、クモやカニと同様、銅を含んだヘモシアニンというタンパク質が、カブトガニ体内で酸素運搬を担っているためです。また、血球はその大部分がアメーボサイトとよばれる白い細胞で、人間のような赤血球は持っていません。
日本や中国に生息するカブトガニは、雄が雌の後ろにくっついて、通常ペアで暮らしているそうです。それに対して、アメリカカブトガニは、産卵に際して、一匹の雌にたくさんの雄が群がる習性を持っています。このような習性の違いはありますが、どちらのカブトガニから調製した LAL も、エンドトキシンや(1→3)-β-D-グルカンに反応する性質は変わらないようです。
参考文献
- 関口晃一:『カブトガニの生物学』(サイエンスハウス, 東京)(1984).
- 関口晃一:『カブトガニの不思議』(岩波書店, 東京)(1991).