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【テクニカルレポート】水溶性蛍光標識試薬による各種生理活性物質の測定

本記事は、和光純薬時報 Vol.61 No.1(1993年1月号)において、和光純薬工業 大阪研究所 里村 慎二が執筆したものです。

各種官能基に対して選択的で高感度な蛍光ラベル化試薬が、これまでに種々開発されております。また、このような官能基の定量にとどまらず、タンパク質、核酸、酵素等の生化学の研究に於いては、基質やリガンドとして使用する場合や、糖鎖等の構造解析にも蛍光標識が多用されてきております。

しかしながら、この目的には水中で標識反応が可能なこと、蛍光標識物が水溶性でかつ安定なこと等が必要になりますが、現在使用されている蛍光ラベル化剤の多くは複雑な多環構造を有し、非水溶性であったり、蛍光が不安定等の問題がありました。そこで、従来糖鎖分析に使用されてきた 2-アミノピリジンの水溶性、安定な蛍光体、比較的低分子で立体障害が少ない等の利点を利用し、①水酸基、②アミノ基、③カルボキシル基、④マレイミド基、⑤活性エステル基等の官能基を導入した水溶性蛍光標識試薬を新たに開発しました。

水酸基体、アミノ体、カルボキシル体は、主に化学的な合成法を使用して、蛍光標識体を合成します。マレイミド体と活性エステル体は、穏和な条件で水中でも蛍光標識が行えます。励起波長は 300 ~ 310 nm、蛍光波長は 370 ~ 390 nm になっております。

水酸基体は、単糖、多糖などに配糖体結合で蛍光標識するときに使用します。化学的に安定な構造なので、多くの化学反応が使用できます。
アミノ体は、ペプチドの C 末端のカルボキシル基や DCC/DMSO 酸化後のアルデヒド基等への蛍光標識に使用します。
カルボキシル体は、ペプチドの N 末端のアミノ基等への蛍光標識に使用します。通常の固相合成法(DCC 法)で簡単に導入できます。得られた蛍光性ペプチドを基質として、極めて特異性の高いエンドペプチダーゼであるヒトレニンの活性部位の検索や、ヒト血清中レニン活性の高感度測定法等に応用されています。
マレイミド体は、水中で混合するだけで SH 基に蛍光が標識されます。標識前には蛍光がほとんどありませんが、標識により蛍光性が生じてきます。特殊な蛍光標識ペプチド等としてご使用下さい。
活性エステル体は、水中で混合するだけでアミノ基に蛍光基が導入されます。化学的な合成法が使用できない場合に、温和な条件で蛍光基を導入します。糖ペプチドのアミノ基に蛍光基を導入し、レクチンと糖ペプチドとの反応性の解析、糖転移酵素の活性測定用基質等に利用されています。

いずれも、蛍光標識による定量だけでなく、蛍光標識後にさらに水溶液中で生化学的な反応に使用し、高速液体クロマトグラフィーと組み合わせることにより、ピコモルレベルでの高感度定量分析が可能となります。

図1.糖ペプチドの蛍光標識方法

参考文献

  1. 山本他:日本薬学会第112年会, 4, 178 (1992).
  2. Mega, T. et al.: Bull. Chem. Soc. Jpn., 61, 4315-4321 (1988).
  3. Nakamura, N., et al.: J. Biochem., 109, 741-745 (1991).
  4. Nakamura-Imajo, N., et al.: Clin. Chim. Acta 211, 47-57 (1992).
  5. 妻鹿友弘他:第14回糖質シンポジウム, p.75 (1992).
  6. 加藤英雄他:生化学, 64, 861 (1992).

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