siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

【連載】Talking of LAL「第11話 β-グルカン(1)」

本記事は、和光純薬時報 Vol.61 No.2(1993年4月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第11話 β-グルカン(1)

LAL がエンドトキシンのみならず(1→3)-β-D-グルカンにも反応し、ゲル化することは既にお話した通りです。この現象は、日本の 2 つのグループによって 1981 年に発表されました。すなわち、武田薬品の垣沼博士のグループは、1~1000 ng/mL のカルボキシメチル化したカードラン(Agrobacterium の生産する直鎖(1→3)-β-D-グルカン)がリムルス試薬(LAL)のゲル化や proclotting enzyme の活性化を引き起こすことを1)、また、九州大学の岩永教授のグループは、(1→3)-β-D-グルカンによって活性化されるゲル化機構が LAL 中に存在することを2)、それぞれ報告しました。

同じ年に米国の Woods Hole で開かれた "International Conference on Endotoxin Standards and Limulus Amebocyte Lysate Use With Parenteral Drugs" では、セルロース系の膜を使用した血液透析器から溶出する、発熱性を持たない LAL 反応物質(LAL-RM)について、2 題が発表されています3,4)。彼らは、LAL のメーカーによって LAL-RM の反応性が変わることも報告しております。

しかし、このアメリカの 2 つのグループによる発表に対して、欧米の科学者達は「LAL に反応する物質がエンドトキシンである」という考えから抜け出せず、β-グルカンが LAL を活性化するということには全く思いもよらなかったようです。

今日では、β-グルカンによる LAL の活性化反応は広く認められるようになっており、米国の FDA も 1992 年 5 月に発行した Memorandum5) で、グルカンや LAL-RM が LAL に反応することを認めております。ただし、FDA は「医薬品にはこれらの物質の混入が少なく、医療用具のように混入の報告されているものでも、試験結果が偽陽性となる程度と考えられるため、実際の問題ではない」と考えているようです。(問題があればケース・バイ・ケースで考えるようですが・・・。)

LAL に反応する代表的なグルカンとしては、カードランや LAL-RM のほか、ザイモサン、レンチナン等の真菌が産生するもの、ラミナリン等の藻類の貯蔵多糖があります。また、セルロース系のメンブレンフィルターの中にも LAL-RM と同様の物質を溶出するものがあります。

筆者らは、注射用医薬品やその原料(例えば、各種アミノ酸や血液製剤)の中にグルカンを含んだものがあることを経験しており6)、リムルステストによる正しい結果を期待するのであれば、この点にも注意するべきでしょう。

さて、β-グルカンと LAL の反応性は製品によって異なります。前述の LAL-RM 研究者たちが指摘したように、LAL-RM は、Associates of Cape Cod 社製の LAL にはよく反応しますが、Whittaker 社(以前は Mallinckrodt 社)製の LAL にはほとんど反応しません。

その他、プレゲル-M(帝國臓器製造、生化学工業販売)、パイロセート(Haemachem 社製造、ミドリ十字販売)や弊社のリムルス HS-J 及び HS-F テストワコー(Endosafe 社製造)なども、その程度は異なりますが、β-グルカンに反応します。

また、合成基質法ではトキシカラー(生化学工業製造販売)はβ-グルカンに反応しますが、CQL1000(Whittaker 社製造、第一化学販売)はその反応性が低いようです。

次回は、β-グルカンと LAL の反応について、さらに深く考えてみましょう。

参考文献

  1. Kakinuma, A. et al. : Biochem. Biophys. Res. Commun., 101, 434 (1981).
  2. Morita, T. et al. : FEBS Lett., 129, 318 (1981).
  3. Carson, L. A. and Peterson, N. J. : "Endotoxins and Their Detection with the Limulus Amebocyte Lysate Test," ed. by Watson, S. et al., Alan R. Liss. Inc., New York, p.217 (1982).
  4. Pearson, F. C. et al, : "Endotoxins and Their Detection with the Limulus Amebocyte Lysate Test," ed. by Watson, S. et al., Alan R. Liss. Inc., New York, p.247 (1982).
  5. Statement Concerning Glucans and LAL-Reactive Material in Pharmaceuticals and Medical Devices, Food and Drug Adm. (1992).
  6. 土谷正和:防菌防黴, 18, 287 (1990).

関連記事

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。