【テクニカルレポート】強塩基を発生するボレート型光塩基発生剤とその応用例
本記事は、和光純薬時報 Vol.85 No.3(2017年7月号)において、和光純薬工業 試薬化成品研究所 簗場 康佑、酒井 信彦が執筆したものです。
はじめに
紫外線(Ultra Violet, UV)を利用した化学反応は古くから知られており、さまざまな分野で広く応用されている。中でも、UV 照射によってラジカルや酸などの化学種を発生し、モノマーを重合もしくは架橋させて硬化樹脂を形成する技術は、電子産業、塗料、インキ、接着剤、封止材の分野で幅広く利用されている。
硬化が迅速であるため生産効率を飛躍的に向上できることや、UV 照射部分にのみ選択的に微細な加工を施せるなどの理由から、今や産業界にはなくてはならない技術となっている。ここでは UV 照射によってアミンなどの塩基が発生する光塩基発生剤(Photo Base Generator, PBG)とその応用について紹介する。
開発目的
エポキシモノマーを硬化させる場合、一般的にエポキシドとアミンの官能基数を揃えて使用直前に両者を混合する。もし上記を UV 硬化で実現する場合、大量のアミンを光潜在化させなければならず現実的ではない。一方、チオールやカルボン酸などの架橋剤を併用した場合、UV 照射によって塩基を発生できれば触媒的な硬化反応が可能となる。しかし、これまでの PBG では発生するアミンの塩基性度が低く、硬化触媒として使用するには十分な機能を果たさなかった。そこで当社ではアルキルビグアニド(図 1)の強塩基性に着目し、PBG を開発している。
WPBG-300
求核性の低いボレートアニオンとアルキルビグアニドを組合わせた「WPBG-300(図2内)」は各種エポキシモノマー中で高い保存安定性を示し、40℃で 1 ヶ月以上保存しても粘度の上昇を起こさない。またアントラセンやチオキサントンをはじめとする長波長に吸収を有する増感剤を併用することで、さまざまな波長域において WPBG-300 からアルキルビグアニドを発生できる(図 2)。
WPBG-300とチオールとエポキシの UV 硬化例を図 2 に示す。この UV 硬化反応では、UV を照射しただけでは組成物は硬化せず、80 〜 120℃の加熱後にはじめて硬化する。この特長を活かし、WPBG-300 は UV 後硬化型接着剤として利用できる(図 3)。
貼り合わせたい部材に組成物を塗布後、UV 照射しても樹脂はすぐには固まらないため、部材同士の位置を調整するワークタイムが得られ、塗工や貼り合わせに時間を要する大型の部材などの接着に利用できる。一方、光ラジカル発生剤を使用した一般的な UV 硬化反応では UV 照射だけで樹脂が硬化してしまうため、十分なワークタイムが得られない。また UV 後硬化接着剤は、加熱のみでは接着しないため、溶媒の揮発工程など露光前に加熱が必要な場合にも有効である。
WPBG-345
WPBG-300 は、架橋剤として多価カルボン酸を使用すると、酸によりボレート部位が分解してしまうため露光部・未露光部のコントラストが得られない。一方、電子吸引性基であるフッ素原子をボレートに導入した「WPBG-345」は耐酸性が高く、カルボン酸とエポキシの系でもコントラストが得られる(図 4)。
ボレート型 PBG に有効な増感剤
WPBG-345 をチオールとエポキシの系に適用した場合に WPBG-300 と比べ硬化速度が遅い。これは、WPBG-345 では酸に対する安定性が向上したが、同時に光分解性も低下したことが原因である。WPBG-345 の光分解性は、組合わせる光増感剤の種類によって大きく異なる。2- エチルアントラキノンなどのアントラキノン骨格を有する化合物は WPBG-345 に対して高い光増感効果を示し、光分解性を向上させることができる。なお、WPBG-300に対してもアントラキノン類を併用することで光分解性を向上できる(図 5)。
おわりに
強塩基であるアルキルビグアニドを発生できる PBG は各分野で研究が進み、産業で利用されはじめている。当社では研究だけでなく工業化も進めている。アルキルビグアニドを発生させたことがない方には、是非とも当社の PBG を手に取ってもらい、その性能を体感して頂きたい。
キーワード
架橋剤
ポリマー鎖同士を連結し、物理的・化学的性質を変化させる物質。
光増感反応
光増感剤が光を吸収して得たエネルギーを、反応すべき基質に渡すことで基質が反応すること。