siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

未来への進化 日本発シングルユースバッグの開発ストーリー ~ステリテナーが切り開く未知の可能性~(後半)

本記事は、積水成型工業株式会社 永座 明様にご執筆いただいたものです。

「ブロー成形」×「シングルユース」 ハードボトルとシングルユースバッグの融合 ~ステリテナーが切り開く未知の可能性~(後半)

みなさん、こんにちは!前回に続き、積水成型工業の3Dシングルユースバッグ「ステリテナー」にスポットを当て、ブロー成形という独自のアプローチで製造された立体型のフレシキブルバッグ。その未知なる可能性についてお伝えします。

今回は後編として、日本のバイオ現場のニーズに合わせた「日本発のシングルユースバッグ」を目指した製品開発についてご紹介します。

日本の再生医療製品分野のニーズに合わせたものづくり

日本の再生医療製品分野のニーズに合わせたものづくり

近年、新しい医療として、抗体医薬品に代表されるバイオ医薬や、iPS細胞等を利用した再生医療が注目されています。再生医療はわが国の成長戦略にも位置づけられており、多くの難治療患者さんからも期待が集まっています。しかしながらその製造には生きた細胞を用いるため、化学合成による従来の医薬品とは違い、無菌性、温度、pH、コンタミネーション(汚染)等の管理条件が厳しく求められます。当社のステリテナーは、これら再生医療製品の製造プロセスにおいて使用される各種の液体をその品質を維持したまま、安全に保管、輸送するための3D(立体)形状の滅菌バッグです。

再生医療製品は細胞そのものが直接人体に入ることもあるため、プロセスの過程に不具合が発生してしまうと、患者さんへ重大な影響を与える危険性が生じます。そのためステリテナーでは、溶出を抑えた容器の素材や滅菌方法、異物、微粒子の混入防止など、様々なポイントでのあらゆるリスクに留意し、それらを可能な限り減らすためのアプローチとして、ブロー成形法という独自の製法で課題解決を行い、品質担保をしています。

一方、抗体医薬品に代表されるバイオ医薬品の世界では、以前より、「シングルユースバッグ」と呼ばれる滅菌済みのディスポーザブルの容器が使用されていました。その形状はフィルムを製袋加工した2D形状(ピロータイプ)のものがメインでした。また、それらは、バイオ医薬の製造技術が欧米を中心に発展してきた経緯から、今も海外製のフィルムバッグが主流です。しかし、一方で、これらの製品を日本の現場で扱うには、置き場所のスペースが必要であったり、日本人の体格では取り回しが難しかったりといった多くの課題がありました。そこで、ステリテナー開発にあたっては、実際にご使用されておられるお客様の声をつぶさに聞き取り、より日本の現場に合った、誰でもが使いやすい製品にという思いで、様々な工夫を加え、製品だけではなく、より簡便に使えるよう、付属品の開発、改良にも注力しました。

シングルユースシステムの課題

再生医療の産業化には欠かせないシングルユースバッグを使う生産システムは、従来のステンレスタンクシステムと比べ、設備レイアウトの自由度が高い反面、バッグのチューブカスタマイズによる種類が増えることで、在庫スペースの確保や納期の長期化が課題となっています。さらに、全てのチューブやバッグを手作業で接続するため、シングルユース製品を扱う現場では接続ミス等、取扱い作業者によるヒューマンエラーを防ぐためのオペレーター教育の工数やコストの増大も課題となっています。

標準化、パッケージ化により品質安定性と短納期を実現

研究、開発、試作等、GMP製造プロセスの設計までの現場はさらにフレキシブルな対応が求められるため、より手作業の工程が多くなります。ステリテナーはそういった開発段階のニーズにマッチするような製品にすることを目指しました。そこで、アイテムの種類を極力最少に絞り込み、それらを標準化、パッケージ化することで品質の安定性と短納期を実現しています。容量も、5、10、20Lの3アイテムに特化することで、成形から全数リーク検査までを完全自動化。品質安定性を実現することが可能となっています。さらに、短納期を実現するために、接続用チューブセットは、全て着脱可能なオプション方式にし、標準パッケージ化したものを用意しました。バッグとチューブセットの製造プロセスを分離することで、お客様の使用現場での在庫スペース削減だけではなく、当社での製造プロセスの簡略化にも寄与し、結果として、カスタマイズ対応に関しても短納期を実現しています。

現場のニーズに合わせて、バッグの提供形態も多様に

当初、オプション部品は「3ポートコネクタ」(接続用の部品)のみで発売しました。チューブレイアウトをお客様で自由に設計して試して頂けるようになっています。したがって、チューブ等の部材を既にお持ちで、組み付け等のアッセンブリーに慣れたお客様向けに供給しています。主に製薬メーカーの研究開発等のお客様がそれに当たります。その後、部材の手配やアッセンブリーの手間が取りにくく、かつ、すぐに使用したいお客様向けに、「3ポートコネクタASSY」(チューブアッセンブリーがされた標準パッケージ)を発売し始めました。すぐに手軽に使用したいお客様向きの最小限のチューブユニットとなっています。安全キャビネット内でステリテナーと接続して使用します。

さらに、現在、流通している2Dバッグと同じように、あらかじめバッグにチューブユニットを組付け、完全閉鎖系を実現した「3ポートコネクタASSY組付け仕様」を発売。

それをベースにしたフルカスタマイズ対応では、チューブ、コネクタ、フィルター等を自由に選んでいただけるようになっています。ステリテナーは、このように実際に使用される現場のニーズに合わせて提供形態をお選び頂けることで、研究開発から製造プロセスに至るまで様々な場面でお使い頂けるようになっています。

現場のニーズに合わせて、バッグの提供形態も多様に

使い勝手を徹底的に優先したオプション品の開発

この商品を販売するにあたって特に意識したのが、「誰でも」「簡単に」「楽に」使えること。実際に使用して頂く方に、「従来品と比べて楽に使える」点を実感して頂けるかという点です。例えば、オプション品の溶液排出用の反転ラックの開発においても、試作品を多くのお客様に実際に貸し出し、ご意見を伺いながら改良を重ねるというやり方を続け、現在のタイプは4代目になっています。丁寧に現場のご意見を聞き、製品の改良に繋げるやり方を続けることで、様々なご要望を頂く様になり、それが日々、私共の開発のアイデアとなっています。同様に、クリーンベンチ内で使用できるラックや、場内保管用外装コンテナ等もすべてお客様の声から開発をしてきました。

使い勝手を徹底的に優先したオプション品の開発
使い勝手を徹底的に優先したオプション品の開発
使い勝手を徹底的に優先したオプション品の開発
使い勝手を徹底的に優先したオプション品の開発

「拠点間輸送」「凍結保管」「低溶出性」ブロー成形ならではの特徴を生かして

ブロー成形の特徴を生かすことで、ご使用用途も広がっています。そのひとつは、「高強度」です。2mからの落下にも対応できる強度があることで、拠点間の輸送には最適です。通常のシングルユースバッグは輸送を前提とした容器設計をされていませんので、輸送に使用する際には緩衝材や外装ケースも特殊なものを使用する必要がありますが、弊社はそもそも輸送容器のメーカーで、ステリテナーも輸送容器としてデザインされています。それゆえ、外装も簡易なもので運ぶことができます。ダンボールケースに緩衝材なしでそのまま入れて低温輸送している例もあり、輸送距離も1000km以上の陸上輸送で長年ご使用いただいているお客様もあります。もうひとつの特徴は「低温耐性」です。-80℃での保管にも使用可能なことから、抗体医薬メーカー様での凍結保管用途でもご使用頂いております。

また、前回でもご説明しました「低溶出性」では、抽出物(Extractables)試験(50%エタノール溶媒による40℃環境下で90日間)でも優れた結果を証明しています。

「拠点間輸送」「凍結保管」「低溶出性」ブロー成形ならではの特徴を生かして

日本発のシングルユースバッグとしての可能性

近年、わが国ではあらゆる業界で人材の確保が社会問題化しています。バイオ分野も同様で、特に再生医療の現場は人による作業が多く、人の確保とともに作業の標準化がより課題になっています。物流や現場作業においても一般的に5~20kgという領域は確実に人が扱う必要があり、かつ、作業負荷が大きいとされています。ステリテナーはこの5~20Lに特化したアイテムに絞り込む中で、「誰でも」「安全に」「確実に」「楽に」扱えることで、「ヒューマンエラーの防止」「安全性の担保」「作業の標準化」が実現できると考えています。また一方で、クリーンルーム内のランニングコストからその運用を効率化するために、より小さいスペースでの有効活用が求められております。弊社は長年液体容器のメーカーとしてあらゆる産業分野に保管、輸送容器を届けてきた経験から、「液体の保管、輸送」は立体型容器が一番スペースを取らない、ということを知っています。その原点から開発したのがこのステリテナーです。

現在、ステリテナーの新たな用途開発に合わせ、新アイテムの開発もすすめております。

お客様の現場の声から製品の進化をとげてきたステリテナー。
今後も、研究から製造まで、すべてのプロセスで安心してご使用頂けるものづくりに注力し、日本発のシングルユースバッグとして、多くの場面で貢献できるよう、日々進化発展していければと考えています。

「日本発のシングルユースバッグとしての可能性

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。