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【インタビュー記事】Presagen社 設立者兼CEO Michelle Perugini博士:Life Whisperer 開発への想い

Life Whisperer Viabilityを開発したPresagen社 設立者兼CEOのMichelle Perugini博士にインタビューして参りました。

医学部卒業後、博士研究員としてがんの研究をなさっていたと伺いました。
IVFやAIの分野に興味を持ったきっかけはなぜですか?


私は以前から生物学と科学技術に興味があり、グローバルヘルスのためにこの2つを結びつけたいという願いを持っていました。女性の健康とIVFに焦点を当てようと思ったきっかけは、胚のナノテクノロジーで2つ目の博士号を取得した共同創設者のJonathan Hall博士との出会いでした。彼はウシ胚を分析してその質を評価する方法を研究していて、この概念をヒトのIVFに持ち込みたいと考えていました。


私自身、不妊に苦労していたので、自然妊娠できないときに親が抱く絶望を実感した経験があります。私の経歴は幹細胞生物学と遺伝学にあり、私は8年間、パートナーであるDon Perugini博士とAI技術会社の設立と発展に多くの時間を費やしました。2015年にこの会社を売却した後、私は医療にAIを持ち込みたいと思うようになりました。そこでDon Perugini博士と私は、AIを構築する様々なデータへのアクセス出来るように世界的なAIプラットフォームを製作すべきと考えました。私たちはともに、AI技術のサービスが世界的に行き渡っておらず、特に不妊治療分野において、影響を与える領域であることを非常に強く感じました。そして2016年にHall博士と出会い、私たちは女性の健康を世界的に向上させるためにPresagen社を創設しました。現在、Presagen社として最初の製品Life Whispererは世界中のIVFクリニックで使用され、患者さんの妊娠までの時間を短縮する手伝いをしています。

2017年SA iAwardを受賞した時の1枚(左:Jonathan Hall博士、右:Don Perugini博士)

Day 5胚画像1枚のみでAI評価を行うという発想は、タイムラプスを用いる既存のAI評価とは全く異なるものです。この発想はどのような経緯からですか?


タイムラプスを用いたAIによる評価は、連続した胚画像を用います。これは胚の発生を胚盤胞期まで追跡するのに有効です。一方、Life Whispererによる評価は発生の時系列とは無関係です。
Life Whispererは、移植直前に画像が撮影された時点での着床可能性を予測し、より良い胚の選択を可能にします。

Life Whispererを設計した際、1枚の画像から手動のアノテーションや高価な画像機器も必要とせずに、妊娠可能性を独立して評価できるシステムを構築したいと考えていました。タイムラプスを用いたAIによる評価は高価であり、またアノテーションなどの入力が頻繁に必要となり時間がかかります。Life Whispererは、すべての画像処理やアノテーション、分析を自動的に行い、胚培養士毎によるバイアスやエラーを取り除きます。Life Whispererによる評価は、胚1個あたり約10秒で行うことができます。Life Whispererは、タイムラプスや標準的な顕微鏡で撮影した画像でも使用可能です。

Life Whispererは、低コストで実用的なIVF施設が利用しやすいものになるよう設計されました。世界の多くの診療所(全世界の診療所の90%)では、タイムラプスを購入する余力がなく、世界のどの診療所でも利用できるような低コストなものが望まれていました。さらに、着床/ガラス化直前の胚の状態解析と比較して、胚発生の時系列はそれほど重要ではないというのが我々の仮説でした。この仮説を検証し、5日目の静止画像を用いたAI解析は、合計数千のタイムラプス画像に基づくAI解析と同等の性能/精度を有していることを示しました。タイムラプスを備えている東南アジアやヨーロッパの先進的なクリニックから、標準的な顕微鏡を備えているインドやトリニダード・トバゴ共和国のクリニックに至るまで、全世界で使用可能な低コストのAI技術を開発したことを誇りに思っています。

LifeWhispererの開発で最も苦労した点はなんでしょうか?


LifeWhispererは、どのような患者さま及びいかなる施設においても、柔軟に対応可能で、客観的な信頼性があり、堅牢であることを保証しなくてはなりません。そのため我々は、LifeWhispererを育てるために世界中の多様なデータを利用する必要がありました。これには、世界中のIVF施設との協力が必要不可欠でした。そこで私たちは強力な世界協働のAIプラットフォーム「AI Open Projects」を構築しました。AI Open Projectsは、私たちのLife Whisperer製品を構築するためのデータ収集に貢献する参加施設のネットワークです。我々の第3、第4の製品である卵母細胞/卵子潜在能力のAI、子宮内膜受容性のAIの構築を世界的に支援するために、現在200の施設がネットワークに加入しています。 私たちは常に共同研究に参加していただける施設を探しています。なぜなら、私たちには一緒に達成したいという信念があり、協力者が多くなればなるほど、そしてデータが多くなるほど、データの多様性が高くなるためです。患者さまが誰であるか、どこに住んでいるかにかかわらず、私たちは世界中のさまざまな患者さんのために、より柔軟性のあるAI技術を提供出来るよう目指しています。

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