シガトキシン /ciguatoxin
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シガトキシン(ciguatoxin)は、シガテラ食中毒の原因物質の一つで、比較的暖かい海域にいる魚が持っている可能性があります。シガトキシンは渦鞭毛藻 (うずべんもうそう) というプランクトンが産出する成分であり、食物連鎖によって蓄積されていき、その魚を人間が食べると食中毒が起きます。軽い場合は節々の痛みや倦怠感という症状ですが、下痢や嘔吐、めまい、痙攣が起こるときもあります。また特徴的な症状は、暖かい物に触れたとき、冷たいものに触れていると感じるドライアイス・センセーションです。これはかなり長期間続く場合もあります。
海洋生物からは、非常に強い生物活性と特異な化学構造を有する大型の天然有機化合物が数多く見出されています。中でも赤潮毒ブレベトキシン (BTX)、シガテラ食中毒の主要原因毒シガトキシン (CTX) およびマイトトキシン (MTX) に代表されるポリエーテル系海産毒は、従来の常識を超える巨大な化学構造、桁外れに強力な生物活性 (毒性) と作用の特異性を有しています。
その原因毒の一つ、シガトキシン (ciguatoxin;CTX) については4000 kgのウツボから350 μgが単離され、東北大・安元健らによってその構造が解明されました1)。ごく微量しか得られないサンプルを最大限に活用すべく、非破壊性のNMR測定や超微量測定可能な質量分析が駆使されています。シガトキシン自体は熱的に安定なため、加熱処理ではシガテラ食中毒が防げません。
天然から得られる量はきわめて微量であるため、化学合成によるCTXの供給はこの分野の進展において大きな意味を持ちます。2001年に東北大・平間正博らのグループにより、初の化学合成が達成されました2)。
関連文献
- Murata, M, Legrand, A. M., Ishibashi, Y. and Yasumoto, T. : J. Am. Chem. Soc., 111, 8929 (1989).
- Hirama, M., Oishi, T., Uehara, H., Inoue, M., Maruyama, M., Oguri, H. and Satake, M. : Science, 294, 1904 (2001). DOI:10.1126/science.1065757