分取薄層クロマトグラフィー (Preparative Thin-Layer Chromatography)
本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しています。
混合物から物質を単離する操作はいろいろあります。少量でもいいからTLCのこのスポットの物質を高純度で欲しい!という場合には、分取薄層クロマトグラフィー (Preparative Thin-Layer Chromatography)で分けてしまうのが最も簡便です。オープンカラムより溶媒量が少なくて済みますし、慎重に操作すればRf値がかなり近くても確実に分離できます。そこで、今回はこのPTLCの手法について紹介いたします。
特徴
PTLCは通常のTLCより厚いPTLCで展開したスポットをシリカゲルごと掻き取って、溶媒抽出する精製法です。
欠点
- シリカゲル上での分解やシリカゲルの回収不足により収率が低下する場合がある。
- シリカゲル上で不安定な化合物の精製には向きません(二次元TLCで要確認)。
- 得られる量が限られ、スケールアップに適さないです。
- UV吸収のある官能基を持たない化合物の精製は可能ですがあまり適さないです。
利点
- 操作が簡便です。
- 適切な溶媒を用いれば確実に精製できます。
- 時には通常のカラムクロマトグラフィーに比べて分離が良い場合があります。
- 一回のカラムクロマトグラフィーで分けられない場合、PTLCの方が手っ取り早いです。
準備するもの
清潔な実験机(コンタミ防止のため)、PTLCプレート(例えば、膜厚:1.0 mm、サイズ:20 x 20 cm)、チャージ用溶媒、パスツールピペット、展開溶媒、展開槽、抽出溶媒、カッターや掻き取り用スパチュラ、グラスフィルターもしくはパスツールピペット(カラム管として使用)など。
展開槽とサンプル溶液の準備
TLCでRf値0.4ー0.5程度となる混合溶媒を展開層に入れ(溶媒量は展開槽に1 cmもあれば充分です。多すぎると原点が漬かるので注意)、展開層を溶媒蒸気で満たします。展開槽に濾紙を入れておくと展開がはやくなります。洗いこみを少なくするため、なるべく小さいフラスコでcrudeを濃縮し、最小量の溶媒で溶かします。(一枚のプレートに載せるために約0.4 mLの溶媒に溶かし、アプライ時に二回程度プレートを反復できる量が最適かと思います。)
PTLCの選択
crudeの量に応じてTLCの膜厚及び枚数を選択します。一般的には膜厚が0.5 mmのものならば50 mgチャージできるらしいですが、シビアな分離の場合には載せるcrudeの量を減らすべきです。せいぜい0.5 mmで20 mg、1.0 mmで40 mg程度、通常は0.5 mmで10 mg以下、1.0 mmで20 mg以下がいいです。実際の実施例を以下に示します。[厚さ0.5 mm PTLC (10 x 20 cm半分のサイズ) に5 mgのサンプルをチャージして展開、展開の高さは10 cmとした例です。シビアな分離なので、量を減らして低極性混合溶媒で二度展開しています。]
サンプルのチャージ
最初は、5 mm程度の高さに水平に鉛筆で線を引き、そこにcrudeを載せるとやりやすいです。(軽くひっかき傷を作っておいてもいいです)両サイドを5 mm空け、先の細いパスツールを使ってサンプル溶液を均一に載せます。手早くしないと滴をこぼしてしまうことがあります(低沸点溶媒の場合、蒸気圧の関係で特にサンプル溶液を落としやすいので注意)。
チャージのための方法としては1、やや太めのガラスキャピラリーの毛細管現象を利用し、サンプルをアプライする方法、2、先を尖らせたパスツールピペットから直接アプライする方法、3、マメにパスツールピペットでつつく方法、4、パスツールに綿を詰め、毛細管現象を利用してアプライする方法(恐らくこれが一番主流?)、5、シリンジとニードルによりアプライする方法(ヨーロッパではコレが主流?)、など様々ありますが、均一にアプライさえできればどの方法でもよいです。
PTLCを乾かした後、別の展開槽にエーテルや酢酸エチルなどの極性溶媒を張り、溶媒前線を揃えます。(きれいに載せられればこの操作は必要ないです。)しっかりと極性溶媒を乾かし、展開の準備をしておきます。
展開および掻き取り
溶媒蒸気で満たした展開槽の中に置いて展開します。溶媒前線が上がりきったら、バンドの分散を防ぐためすぐに展開槽から出して乾燥します。所要時間は溶媒により異なります。ハロゲン系溶媒で20 cm上げる場合、溶媒の蒸発により溶媒前線が20 cmに届かない場合があります。さらによい分離を望む場合、Rf値の小さい展開溶媒で多重展開(展開終了後、乾燥、もう一度展開する。)するとよい場合があります。
乾燥後、UVでバンドの位置を確認して鉛筆でバンドをマークします。UV吸収のない化合物の場合はPTLCの中心部を1 cm切り取り、適当な発色剤で染色して目的化合物のRf値を確認して全部を処理します。(UVの無い化合物でも高濃度時なら薄くバンドが見えることもがあります。)
目的のバンドをカッター、スパチュラなどを用いて掻き取ります。掻き取ったシリカゲルはA4の紙または秤量紙に移します。掻き取ったシリカゲルが風で飛ばないように注意しましょう。必要に応じてここでシリカゲルを粉砕し、掻き取ったシリカゲルの量に応じてフィルターなどにシリカゲルが舞わないように載せます。生成物と思われるバンドは速やかに全て掻き取りましょう。化合物がシリカゲル上で不安定な場合、予め二次元TLCで安定性を確認したほうがいいです。
ろ過
掻き取ったシリカゲルをグラスフィルターに入れて、抽出溶媒で分散させてから吸引ろ過します。シリカゲルを粉砕する必要はなく、溶媒をゆっくりと注いだ段階でシリカゲルを潰せばいいです。シリカゲルの量が少ない場合はシリカゲルを粉砕後、抽出溶液に懸濁させ、綿を固く詰めたパスツールピペットを通します。パスツールピペットの先が太くなる様に途中で折って使うといいです。綿を多めに詰めておくと目詰まりしません。
シリカゲルの量が多い場合は、カラム管を用います。PTLCのシリカゲルは通常のカラム用の230-400 meshのものに比べて粒度が細かいので、シリカゲル層がうすくなるようにするのがポイントです。海砂をカラム管に予め入れておき、その上から掻き取ったシリカゲルを載せればまずシリカゲルがコンタミすることはありません。
抽出溶媒は、化合物が溶けて高いRf値となる極性溶媒(エーテル、酢酸エチル、30%メタノール等)が用いられます。抽出溶媒としてメタノールを使用する場合、微量の炭酸カルシウム等無機物質が溶出する可能性があるので、30%を超えないようにする等工夫が必要です。また溶出に用いる溶媒純度は高いものを使うべきです。
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