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【テクニカルレポート】Wakopak® Core C18 ADRA を用いた皮膚感作性評価法"ADRA"の習熟化合物の分析例

本記事は、和光純薬時報 Vol.87 No.4(2019年10月号)において、富士フイルム和光純薬 機能性材料研究所 須藤 勇紀が執筆したものです。

はじめに

今般、動物愛護や動物実験に関する3Rs(Reduction:削減、 Refinement:苦痛の軽減、 Replacement:置き換え)の観点により動物実験に対する規制が進んでいます。特にEUでは1993年から化粧品に対する動物実験が段階的に禁止、2003年には2013年以降にEU域内では動物実験を行った原料を含む化粧品販売禁止の指令1)が出され、2009年には規則化2)されました。

このような背景から動物実験代替法の開発が世界的に求められており、日本でも2005年に日本動物実験代替法評価センター(JaCVAM)が設立され、多くの日本発の動物実験代替法が経済協力開発機構(OECD)のテストガイドラインに収載されています3)

図1. NAC とNAL の構造式
図1. NAC とNAL の構造式

今回上市したWakopak® Core C18 ADRAは、富士フイルム株式会社が 開発し、2019年6月18日にOECDテストガイドラインに収載された皮膚感作性試験代替法であるAmino acid Derivative Reactivity Assay(ADRA)4)の要件に適合するカラムです。ADRAではN(-2(-1-Naphthyl)acetyl)-L-cysteine(NAC)及びα-N(-2(-1-Naphthyl)acetyl-L-lysine(NAL)(図1)をそれぞれ対象薬物と反応させ、その減少率を評価します。本稿ではADRA の技術習得として実施することが必要である10個の習熟化合物の分析例を紹介します。

なお、ADRA に関する詳細や既存手法であるDirect Peptide Reactivity Assay(DPRA)との違いについては参考文献をご参照下さい5-9)

実験方法

本稿ではADRAキット(コード No. 296-80901)及びそのプロトコルを用いて実験を行いました。ただし、今回は本来のADRAとは異なり、96 well plateではなく、PP製マイクロチューブを用いて反応を行いました。次にLC 条件を表1 に示します。分析時間における13.5 分間以降の平衡化時間は装置の構成やミキサー容量によって異なりますのでご注意下さい。

表1. LC 条件
機器 Agilent UHPLC 1290 infinity Ⅱ(Agilent 社)
カラム Wakopak® Core C18 ADRA 3.0 x 150mm(D)
移動相A 0.1% トリフルオロ酢酸-水溶液
移動相B 0.1% トリフルオロ酢酸- アセトニトリル溶液
NAC のグラジエント条件 0min.(A:B=70:30)→ 9.5min.(45:55)→ 10.0min(0:100)→ 13.0min.(0:100)→ 13.5min.(70:30)→ 25.0min.(70:30)
NAL のグラジエント条件 0min.(A:B=80:20)→ 9.5min.(55:45)→ 10.0min(0:100)→ 13.0min.(0:100)→ 13.5min.(80:20)→ 25.0min.(80:20)
流量 0.3mL/min.
ミキサー容量 35 µL
カラム温度 40 ℃
検出波長 UV 281nm
注入量 10 µL

結果

習熟化合物の評価結果を表2に、クロマトグラム例を図2に示します。今回、Wakopak® Core C18 ADRAを用いてADRAにおける習熟化合物のガイドラインで示されている範囲内の減少率が得られました。

当社のホームページにはキットを用いた実験操作の動画やプロトコルの資料も掲載していますので、皆様のADRA を用いた分析にご活用頂けましたら幸いです。

図2.習熟化合物のクロマトグラム
図2.習熟化合物のクロマトグラム
図2.習熟化合物のクロマトグラム
緑:薬物、赤:NAC またはNAL、青:薬物+NAC またはNAL
表2. 習熟化合物の一覧と評価結果
No. テスト薬物 CAS RN® 性状 分子量 評価溶媒 ADRAによる予測 既知の減少率(%) 減少率の結果(%)
NAC NAL NAC NAL
1 p-ベンゾキノン 106-51-4 固体 108.09 陽性 90-100 40-70 100 61
2 p-ルエンスルホンクロロアミドナトリウム三水和物(クロラミンT) 7080-50-4 固体 281.69 陽性 90-100 90-100 100 97
3 シンナムアルデヒド 14371-10-9 液体 132.16 アセトニトリル 陽性 40-100 ≦ 20 43 1
4 塩化パルミトイル 112-67-4 液体 274.87 アセトニトリル 陽性 ≦ 10 50-100 2 93
5 イミダゾリジニル尿素 39236-46-9 固体 388.29 陽性 10-45 ≦ 10 35 1
6 ファルネサール 19317-11-4 液体 220.35 アセトニトリル 陽性 10-40 ≦ 15 15 2
7 グリセリン 56-81-5 液体 92.09 陰性 ≦ 7 ≦ 7 0 0
8 ベンジルアルコール 100-51-6 液体 108.14 アセトニトリル 陰性 ≦ 7 ≦ 7 0 0
9 イソフタル酸ジメチル 1459-93-4 固体 194.19 アセトニトリル 陰性 ≦ 7 ≦ 7 0 0
10 p-ヒドロキシ安息香酸プロピル 94-13-3 固体 180.20 アセトニトリル 陰性 ≦ 7 ≦ 7 0 0

参考文献
  1. European Commission : "DIRECTIVE 2003/15/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 27 February 2003, amending Council Directive 76/768/EEC on the approximation of the laws of the Member States relating to cosmetic products, Official J. European Union, L66/26(2003).
  2. European Commission : "REGULATION(EC) No 1223/2009 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 30 November 2009 oncosmetic products", Official J. European Union, L 342/59(2009).
  3. 宮崎博之,吉山友二:日薬理誌,151,48(2018).
  4. OECD:"In Chemico Skin Sensitisation : Amino acid Derivative Reactivity Assay(ADRA)", OECD Guideline for the Testing of Chemicals 442C(2019).
  5. 山本裕介 他:和光純薬時報,87(1),12(2019).
  6. Fujita, M. et al. : J. Pharmacol. Toxicol. Methods, 70, 94(2014).
  7. Yamamoto, Y. et al. : J. Appl. Toxicol., 35, 1348(2015).
  8. Fujita, M. et al. : J. Appl. Toxicol., 39, 191(2019).
  9. Fujita, M. et al. : Toxicol. in Vitro, 59, 161(2019).

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