【クロマトQ&A】:逆相系HPLC分析では、アセトニトリルとメタノールがよく使用されますが、用途の違いは何ですか
本記事は、Analytical Circle No.63(2011年12月号)に掲載されたものです。
逆相系HPLC分析では、アセトニトリルとメタノールがよく使用されますが、用途の違いは何ですか。
逆相クロマトの溶離液は、水/有機溶媒がよく用いられています。特に有機溶媒は、メタノールやアセトニトリルが多く使われています。価格的にはメタノールが安価ですが、メタノールで全て代用することは難しいようです。
それぞれの特長をまとめました。
吸光度:アセトニトリルHPLC用が小さい。
図1にアセトニトリルHPLC用と特級の吸光度を比較しています。移動相に用いる有機溶媒の吸収は小さい方がUV検出におけるノイズが小さくなりますので、UV短波長での高感度分析にはアセトニトリルHPLC用が適します。UV検出でのグラジエントベースラインについては、アセトニトリルHPLC用はゴーストピークが少なく、他にも水と相溶性の高い有機溶媒はありますが、アセトニトリルHPLC用よりも吸収の小さいものはほとんどありません。
波長(nm) | 吸光度 | |
---|---|---|
特級 | HPLC用 | |
200 | 0.7078 | 0.0235 |
210 | 0.4813 | 0.0137 |
220 | 0.1959 | 0.0077 |
225 | 0.0928 | 0.0051 |
圧力:アセトニトリルが低い。
水/アセトニトリル、水/メタノール混合液の比率と送液圧力の関係例を図2に示します。メタノールは水との混合で圧力が高くなりますが、アセトニトリルはそれ程でもありません。アセトニトリル系の方が、同じ流速ではカラムに余計な圧力がかかりません。
溶出力:一般にはアセトニトリルが強い。
アセトニトリルとメタノールを各々同じ比率で水に混ぜ合わせた場合、一般にアセトニトリル系の方が溶出力が強くなります。特に混合比率が低い時には、同じ保持時間を得るのにアセトニトリル比がメタノールの半分以下で済むことがあります。
分離(溶出)の選択性:両者で異なる。
分離の選択性は、溶媒により違います。アセトニトリルとメタノールでも溶出順が逆転することがあります。水との混合比率によっても異なります。有機溶媒分子の化学的性質の違いによるものと考えられています。
ピーク形状:違いが出ることがある。
アセトニトリル系ではテーリングが大きく、メタノール系では抑制される、という場合があります。サリチル酸のような(オルト位にカルボキシル基やメトキシ基を持つフェノール)化合物などでこの傾向が認められます。これはシリカ表面と目的成分との(吸着)相互作用に対する移動相の関わり方が、有機溶媒分子の化学的性質によって異なるためと考えられます。また、ポリマー系逆相用カラムでは、アセトニトリル系でテーリング傾向が目立ちにくい場合が多くあります。
試料の溶解性:メタノールは、酸・塩基性化合物などのイオン性試料に対してアセトニトリルより高い溶解度を示します。
溶解性の高い溶媒で調整した試料では、注入量を減らしたり、移動相と試料との有機溶媒濃度を合わせることが容易です。
移動相の脱気:アセトニトリル系は注意。
メタノールは、水と混ざると発熱し余計な溶存空気が気泡となって抜けやすく(脱気されやすく)なります。一方アセトニトリルでは、吸熱して冷えてしまうために、徐々に室温に戻るにつれて後から気泡が発生してしまいます。脱気する際の移動相の温度を考慮する必要があります。
LC-MS ESIのイオン化効率:アセトニトリルが高い。
ESIのイオン化では、移動相で微細な液滴を生成しますが、これには溶媒粘度が低い方が効率が良く、メタノールより粘度が低いアセトニトリルの方がイオン化効率が高くなります。
以上、アセトニトリルHPLC用が逆相系HPLCで適合性が高い有機溶媒と言えますが、選択性・ピーク形状の悪いときはメタノールHPLCを試して最適化する方法が効率的と考えます。各々の有機溶媒の性質特長を知って、最適な分析条件の設定に考慮していただくことが溶媒の節約、コスト削減にも繋がります。