【クロマトQ&A】HPLC分析で移動相の脱気は必要なのでしょうか
本記事は、Analytical Circle No.27(2003年1月号)に掲載されたものです。
HPLC分析で移動相を調製すると必ず脱気処理を行いますが、移動相の脱気は必要なのでしょうか。また脱気を行うとすればどれ位の頻度で行うと良いでしょうか。
調製後特に処理を行っていない移動相には気体が溶存しています。この気体が流路中で気泡となることがあります。気泡は移動相の液温が上昇したり、グラジエント法など流路中で有機溶媒と水を混合する場合に多く発生します。特に発熱を伴う低級アルコールと水を混合する時に多く見られます。気泡が発生しやすい場所はカラム出口や、検出器内部、ポンプヘッドなど局部的に減圧状態が起こりやすい箇所です。ポンプ内で発生した気泡は(a)流量変動、カラム出口や検出器内部で発生したものは(b)ベースラインの不規則なノイズの発生の原因となります。また移動相に溶存する気体の量の変動は、示差屈折率検出器や蛍光検出器、吸光光度検出器における短波長UVによる測定などにおいて(c)ベースラインの周期的なノイズ、ドリフトの原因となります。これら(a)~(c)を防止する目的で移動相の脱気を行います。
脱気の方法としては次の3種類の方法が一般に行われています。
(1)オフライン脱気法
移動相をビンに入れ、撹拌しながらアスピレーターで吸引するなどの方法で減圧下におく減圧法と、移動相を入れたビンを、超音波洗浄槽の中に数分間おく超音波法があります。通常は両者を組み合わせ、超音波洗浄槽内にビンをおき振とうしながらアスピレーターで吸引する方法が多くとられます。
(2)高分子膜を用いた脱気法
減圧下で気体透過機能性高分子膜から移動相中の溶存気体のみを透過させて除去する方法です。同時に複数の系統の移動相を脱気可能な装置が市販されており、移動相貯槽とポンプの間に接続して使用します。
(3)ヘリウム通気法
移動相にヘリウムガスを吹き込んで空気を追い出す方法です。(2)と同様HPLCの付属装置として市販されています。
(1)のオフライン脱気法は簡便に行え(a)、(b)の防止に有効な方法です。移動相を調製後通液を開始するときに気泡が発生しやすいため、移動相の調製直後によく用いられます。数時間は効果がありますが、脱気直後から気体の再溶解が始まることから一時的な脱気法であるといえます。このため(c)の防止には効果がありません。また、揮発性の異なる成分を含む移動相では、脱気操作中に揮散により組成が変化することがあるので、再現性よく移動相を調製するには脱気時間の管理も必要です。長時間超音波で処理することによる液温の上昇にも注意します。
(2)、(3)の方法は、ともに安定して連続で脱気が行える方法で、(c)の防止にも有効です。特に(2)の高分子膜を用いた脱気法は、ヘリウムガスを必要とせず、脱気装置を簡単に 設置でき、ランニングコストが安いなどの特長から広く用いられています。ただ示差屈折率検出器を使用する場合は脱気をしないほうがベースラインが安定する場合があります。
一般には調製後(1)の方法で脱気した移動相を、(2)、(3)の装置を接続したHPLCで用いる場合が多いようです。