【クロマトQ&A】HPLC移動相にどのような緩衝液を使用すれば良いでしょうか
本記事は、Analytical Circle No.28(2003年2月号)に掲載されたものです。
HPLCの移動相を調製するのに緩衝液を使用しようと思うのですが、どのような緩衝液を使用すれば良いでしょうか。
HPLCの移動相には水および有機溶媒の混合溶液がしばしば用いられますが、目的成分の解離状態がpHによって変化するような場合、緩衝液を用いてpHを一定に保つ必要があります。
移動相に用いられる緩衝液の条件としては
- pHを一定に保ちうる。
- 有機溶媒と混合しても安定である。
- サンプル成分と不必要な反応を起こさない。
- 固定相や装置を劣化させない(化学修飾基の切断、担体の溶解など)。
などが挙げられます。しかしこのような条件に合致していても、例えば吸光光度検出器を使用する場合に緩衝液が大きな吸光度を有していれば検出器の安定度や感度に悪影響を及ぼすといったケースが考えられます。検出方法によって適切な保証がなされた試薬を使用することが望ましいといえます。
表1に緩衝液の調製によく用いられる試薬を示します。どのような緩衝液を使用するかは特に決まっておらず、分析ごとに最適な条件を検討するわけですが、一般にりん酸緩衝液が用いられることが多いようです。その理由は、断定は出来ませんがいくつか考えられます。
- 調製が容易である。
- 多くの種類のりん酸塩が簡単に入手できる(市販されている)。
- 幅広いpH域で緩衝能を有する(使用できるpH範囲が広い)。
- 低波長UV領域における吸収が、他の酸塩に比べ低い。
- 過去に用いられた応用例が多い。
特に過去の分析例から選択する場合、アプリケーションが豊富なため多く使用される要因となるように思われます。
ただ最近ではLC/MSが使用される事が増えており、不揮発性のりん酸塩に代わり酢酸、ぎ酸などの揮発性塩とピリジン、トリメチルアミン、アンモニアなどの揮発性塩基を組み合わせた緩衝液が使用されるようになっています。表2に揮発性緩衝液のpHと組成との関係および代表例を示します。
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表1.緩衝液の調製に用いられる試薬1)
試薬名 化学式 分子量 (1)酸 類 くえん酸 HO2CC(OH)
(CH2COOH)2・H2O210.14 酢酸 CH3COOH 60.05 ほう酸 H3BO3 61.83 りん酸 H3PO4 98.00 (2)塩基類 水酸化カリウム KOH 56.11 水酸化ナトリウム NaOH 40.00 Tris[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン] H2NC(CH2OH)3 121.14 (3)塩 類 くえん酸ナトリウム C6H5O7Na3・2H2O 294.10 酢酸ナトリウム CH3COONa・3H2O 136.08 炭酸ナトリウム Na2CO3・10H2O 286.14 ほう砂(四ほう酸ナトリウム) Na2B4O7・10H2O 381.37 りん酸水素二カリウム K2HPO4 174.18 りん酸水素二ナトリウム Na2HPO4 141.96 りん酸三ナトリウム Na3PO4・12H2O 380.12 りん酸二水素カリウム KH2PO4 136.09 りん酸二水素ナトリウム NaH2PO4・H2O 156.01 -
表2.揮発性緩衝液のpHと組成の関係及び代表例1)
(a)pHと組成との関係 pH範囲 緩衝剤の組成 2付近 酢酸-ぎ酸 2.3~3.5 ピリジン-ぎ酸 3.5~6.0 トリメチルアミン*-ぎ酸または酢酸 5.5~7.0 コリジン-酢酸 7.0~12.0 トリメチルアミン*-二酸化炭素 6.0~10.0 アンモニア-ぎ酸または酢酸 6.5~11.0 モノ(またはトリ)エタノールアミン-塩酸 8.0~9.5 炭酸アンモニウム-アンモニア *トリエチルアミンを用いる場合もある。
(b)代表例 pH 水1L中の成分と含量 1.9 氷酢酸:87 mL,88%ぎ酸:25 mL 2.1 88%ぎ酸:25 mL 3.1 ピリジン:5 mL,氷酢酸:100 mL 3.5 ピリジン:5 mL,氷酢酸:50 mL 4.7 ピリジン:25 mL,氷酢酸:25 mL 6.5 ピリジン:100 mL,氷酢酸:4 mL 7.9 炭酸水素アンモニウム:2.37 g 8.9 炭酸アンモニウム:20 g
1)日本分析化学会関東支部編,"高速液体クロマトグラフィーハンドブック 改訂第2版",丸善(2000)
またHPLCで分取を行う場合、緩衝剤を除去するための操作が必要となります。不揮発性の緩衝剤を除去するには煩雑な操作が必要なため、このような場合にも揮発性緩衝液が有効です。いずれにせよ使用目的に応じて適切な緩衝液を使用することが肝心です。