siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

【テクニカルレポート】生体試料直接分析用充填剤の開発の試み

本記事は、和光純薬時報 Vol.64 No.2(1996年4月号)において、和光純薬工業 大阪研究所 上森 仁志が執筆したものです。

血清などのタンパク質を多量に含む生体試料中の成分、薬物をODS等の充填剤で分析する場合の最大の問題は、前処理として除タンパク操作が必要になる点にある。近年、前処理操作を行うことなく生体成分を直接分析可能な充填剤の開発が進められ、その有用性が示されてきた。これら充填剤のうち主なものを示せば①タンパク質コートODS充填剤、②ピンカートンカラムが先駆的な役割を果たした内面逆相充填剤、③シールド制御充填剤、④混成機能相充填剤、などが挙げられる。

図1. 修飾基の構造
図1. 修飾基の構造

筆者らのグループでも本目的に適合する充填剤の開発を進め、図1. に構造を示した新規充填剤:GPN-Silica を開発した。

本充填剤の特徴は、末端水酸基とエーテル結合部位により除タンパクを達成し、スペーサーと水酸基間のアルキル鎖長を変化させ疎水性強度を調節した点にある。

表1. に疎水性強度の異なる3種類の充填剤(GPN4, GPN6, GPN8)の保持特性とタンパク質の回収率比較を示したが、タンパク質の回収率と保持の大きさを考慮にいれ、GPN6-Silicaが最も汎用性が高いと判断した。

表1. GPN-Silica の基本性能
充填剤の種類 GPN4 GPN6 GPN8
理論段数1) 1400 1500 2600
保持時間(min) ウラシル 0.61 0.60 0.58
ベンゼン 1.24 1.36 2.31
ナフタレン 2.52 4.22 7.36
薬物保持時間(min)2) フェノバルビタール 1.91 3.12 4.75
カルバマゼピン 4.21 7.09 10.99
フェニトイン 8.08 17.37 28.56
タンパク質回収率(%) 96.8 97.0 73.3

Column Size : 4.6 φ x 50 mm

  • 1)
    Eluent :CH3CN/H2O = 30/70 (v/v)
    Flow rate :1.0 mL/min. at 30 ℃
  • 2)
    Eluent :CH3CN/0.1M NaH2PO4 (pH 6.9) = 10/90 (v/v)
    Flow rate :1.0 mL/min. at 30 ℃
    Detector :UV 254 nm

今回、GPN6-Silica を前処理カラムとして利用し、カラムスイッチング法による血清中の薬物分析への適応例として抗てんかん薬であるフェノバルビタール、カルバマゼピン、フェニトインの同時分析の結果を図2. に示した。各濃度における再現性は、連続10回測定において CV = 1.1%、1.1%、0.8%と良好であった。また、血清 20 µL注入(各薬物濃度:0-50 µg/mL範囲)において300回以上使用可能であり、検量線は原点を通る直線を示した。

図2.抗てんかん薬の分析

Column
A) Precolumn / GPN6-Silica (4.6 φ x 50 mm)
B) Analysis Column / Wakosil-Ⅱ 5C18RS (4.6 φ x 150 mm)

Eluent
A) CH3CN/0.2M NaH2PO4, Na2HPO4 (pH 6.0) = 2/98 (v/v)
B) CH3CN/0.1M NaH2PO4, Na2HPO4 (pH 6.0) = 30/70 (v/v)

Flow rate
1.0 mL/min. at 30 ℃

Sample
Human Serum 20 µL
①Phenobarbital 20 µg/mL
②Carbamazepine 5 µg/mL
③Phenytoin 40 µg/mL

Column switching time
4.8 - 6.8 min.

以上紹介した新規充填剤は、除タンパク操作を必要とするさまざまな生体試料への有効な適応が考えられる。次回、直接分析への応用について述べる。

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。