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【連載】Wako Organic Chemical News No.01「Luche還元」

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今月の反応・試薬   「Luche還元」  サイエンスライター : 佐藤 健太郎氏

α,β-不飽和ケトンをアリルアルコールに還元するのは、利用頻度が高い反応の一つである。ただしこの時、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)や水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)といった汎用される還元剤を用いると、目的のアリルアルコールの他、1,4-還元を受けた化合物が生成してきてしまう。

J. L. Lucheらは1978年、NaBH4に塩化セリウム(III)七水和物(CeCl3・7H2O)を共存させて反応を行うことにより、1,4-還元の進行をほぼ抑え、アリルアルコールを高選択的に得られることを示した。メタノールまたはエタノールを溶媒とし、0℃から室温程度の温度で、小過剰のNaBH4およびCeCl3・7H2Oを加えるだけでよい。

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この条件で、カルボン酸・エステル・ニトリル・ハロゲン化アルキル・ニトロ基などは通常の場合影響を受けない。またアルデヒドが存在していても、選択的にα,β-不飽和ケトンが還元される。これは、アルデヒドが系中でアセタールに変化し、還元から守られるためである。

注目の論文

①チオウレア系有機触媒を用いるグリコシル化反応

 Cooperative Catalysis in Glycosidation Reactions with O-Glycosyl Trichloroacetimidates as Glycosyl Donors
  Yiqun Geng, Amit Kumar, Hassan M. Faidallah, Hassan A. Albar, Ibrahim A. Mhkalid, and Richard R. Schmidt*
   Angew. Chem, Int. Ed. Early View, DOI: 10.1002/anie.201302158

  チオウレア系有機触媒を用いるグリコシル化反応。(p-NO2C6H4O)PO2Hを助触媒とし、糖供与体としてトリクロロアセトイミデートを用いることで、室温・数時間で反応が進行する。中性条件で進行し、アノマー位の立体選択性も高い。


②アリル位を、フッ素化あるいはトリフルオロメチル化できる試薬の報告

 Regio- and Stereoselective Allylic Trifluoromethylation and Fluorination using CuCF3 and CuF Reagents
  Johanna M. Larsson, Stalin R. Pathipati, and Kalman J. Szabo*
   J. Org. Chem., 2013, 78 (14), pp 7330-7336 DOI: 10.1021/jo4010074

  アリル位を、フッ素化あるいはトリフルオロメチル化できる試薬の報告。(Ph3P)3CuFまたは(Ph3P)3CuCF3を、室温で塩化アリル、臭化アリル、トリフルオロ酢酸アリルなどに作用させることで、末端選択的にフッ素化あるいはCF3化できる。


③カルボン酸がアルケンに対してanti-Markovnikov型で付加し、エステルを与える反応

 Direct Catalytic Anti-Markovnikov Addition of Carboxylic Acids to Alkenes
  Andrew J. Perkowski and David A. Nicewicz *
   J. Am. Chem. Soc., 2013, 135 (28), pp 10334-10337 DOI: 10.1021/ja4057294

  カルボン酸がアルケンに対してanti-Markovnikov型で付加し、エステルを与える。福住らが開発したアクリジニウム塩を光触媒として用い、450nmのLED光を照射することで、この反応が進行する。メカニズムについても考察あり。

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